青山博一チャンネル〜Go! Go! Hiroshi〜

Go! Hiroshi212011/04/25

スペイン
ヘレス・サーキット

ヘレス・サーキットとは

年間を通して気候が穏やかなスペイン南部アンダルシア地方にあるサーキットです。テストが頻ぱんに行われるため、当地を得意とするライダーも多く、抜きどころが多いことから激戦が展開されることでも人気。決勝日にはシーズン最高の12万人超の大観衆が集まる一大イベントです。

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HARC-PRO.の本田さん

ロードレースの世界最高峰、MotoGPを戦う唯一の日本人選手・青山博一は、全日本ロードレース選手権参戦時代にはHARC-PRO.レーシングチームに所属していた。1999年に同チームへ所属して全日本参戦を開始した青山は、2003年に250ccクラスチャンピオンを獲得し、世界への切符を手にする。その時代の青山を心身ともに支えてきたのが、HARC-PRO.のオーナー本田重樹氏だ。これまでに数々の全日本王者を輩出してきた名伯楽の本田氏が、世界の頂点で挑戦を続ける青山に向けて今シーズンにかける期待とメッセージを語ってくれた。

本田重樹氏

「MotoGPにステップアップした昨年一年間の彼の戦いを見ていて感じたのは、『ヒロらしいなあ』というその一言に尽きますね。ライディングにしてもマシンセットアップにしても、彼はとことん納得ができたときに初めて自分の力を100%発揮するタイプの選手です。車輌のセッティングに満足がいかないときでも、もちろん精一杯の努力はするけれども、現状のマシンパフォーマンスと自分の習熟度や理解度と照らし合わせればこういうことだ、と少しずつ探りながら進んでいく。それがいわゆる、石橋を叩いて渡る、という行動に表れるのでしょう。昨シーズンはそんな雰囲気が出ていて、いかにもヒロらしいなあ、と思いましたよ。不運にも第5戦のイギリスGPで転倒して背中を負傷したのは本人にも周囲にも誤算だっただろうけど、それを除けば、MotoGPマシンを自分の中で把握するためにチームと緊密なコミュニケーションをとりながら、ヒロらしく一歩一歩確実に前進していったシーズンだったように、私には見えましたね。

昨年のレースで最も印象に残っているのは、やはりカタールの開幕戦かな。彼が長年かかって行きたくて行きたくてしようがなかった最高峰クラスのレースにデビューする光景を目の当たりにしたとき、ヒロがMotoGPクラスのグリッドについている姿を見たときはすごくうれしかった。あいつがようやく、目指してきたことの本当のスタートラインについたんだという事実は、私にとっても非常に感慨深いものがありました。レース内容なんて、もう覚えていませんけどね(笑)」

青山博一(2010年カタールGP)

「もうひとつは、やはりイギリスGPでの転倒と負傷でしょうか。全日本時代を振り返っても、あれほど治療に時間を要する大きなケガをすることのないライダーでしたからね。ケガそのものは決してほめられたことではないんだけれど、それまでの自分や今後の自分を見つめ直すいい時間になったんじゃないかなと思いますよ。

今シーズンは新しい体制と新しいマシン、ヒロ自身も昨年の経験をふまえた2年目ということで期待をしているんですが、開幕戦のカタールGPは展開的に前をふさがれて、それを抜け出すまでに時間を要してしまったのは残念でした。ただ、それを乗り越えて前へ前へとプッシュしていったのはとてもよかったし、昨年よりも一皮むけて、ヒロ自身の望む方向が少しずつ結果に現れてきたな、という印象も持ちました。その傾向は、先日の第2戦スペインGPでより顕著でしたよね。

ヘレスサーキットはヒロも走り慣れたコースのはずだけれど、雨のヘレスは誰もあまり経験していないと思うんですよ。そういう状況の中で、27ラップという長丁場のタイヤの保ちやウエット用セッティングなど、戦略的にも難しいレースだったと思います。チームメートのシモンチェリ選手が早々に逃げを打つ態勢だったのに比較して、一方のヒロはというと、しばらく後方に控えてとにかくタイヤを温存する作戦。どちらが見栄えがするかというとそれはなんともいえないけれど(笑)、結果を求めるならヒロのやり方は正解だったと思うし、レース展開もいかにも彼らしい一戦でした。

青山博一(2011年スペインGP)

きっと、あいつは自分で考えたと思うんですよ。序盤はすべるだろうから抑え気味にいって、後半からプッシュしていこう、というふうに。ただ、あと一周早くスパートしていれば表彰台も見えていたのではないかな。表彰台に上がることができていれば、ヒロの方法論が大正解だったということだろうけど、MotoGPクラスで自分のレースマネージメントをきちんとできたのは立派なことだし、自己最高位のゴールですからね。ただ、あと一歩で表彰台に届かなかったのは私たちも日本で放送を見ながら、『ああ惜しいな、悔しいな』と思うけれど、でも次のレースがある。目指しているのは3位表彰台ではなくて表彰台のてっぺんなんだから。

それに、あれだけ転倒が多いレースで、あの精密機械のようなバレンティーノ・ロッシ選手(ドゥカティ)ですら転んでしまう難しい状況でしっかりと完走させた技術はすばらしい。それだけヒロがいろんな意味で成長してきたということでしょうから、今後がますます楽しみです。自分のペースを貫き通してもここらへんまでは上がってくることができる、という意味で、あいつにとっても今回の結果は自信になったと思いますよ。日本でレースを見ていた私が『微妙にうれしいけど微妙に悔しい』という気持ちだから、レース後に『うれしいけどくやしい』とコメントしたヒロの心情はとてもよく理解できる。今後につながる非常にいい内容のレースだったと思います。

今、ヒロが目の前にいたとしたら、どんな言葉をかけてやりましょうか。『プッシュ、プッシュ。とにかくプッシュだ』なんて、それは冗談だけど(笑)、彼は今まで、自分自身のやりかたでここまで上がってきたんですよ。周囲の方々の言葉に耳をかたむけつつも最終的にはすべて自分の判断で進んできた。だから、その信念を貫いて、最後まで惑わされないように、うまくいってもいかなくても自分の信じる道を貫き通してほしいですね。

『せっかくここまで来たのだから、おまえ自身が信じるとおりにそのまま行きなよ』。

そういうふうに声をかけてやりたいと思います。そして、今シーズンを戦っていく中で、今後の自分に必要なものを自分自身の力で勝ち取っていってほしい。そう願いながら、今後も青山博一を応援していこうと思っています。

2003年に全日本ロードGP250王者に輝いた青山博一

プロフィール

青山博一
Hiroshi Aoyama

5歳からポケバイに乗り始め、15歳でミニバイク関東選手権を制覇。2000年から全日本選手権250ccクラスに参戦して、03年に全日本タイトルを獲得しました。翌04年からHondaのライダー育成制度「Honda Racingスカラーシップ」の第1期生として世界選手権250ccクラスにフル参戦を開始。昨年、日本人として8年ぶりとなる250cc世界チャンピオンに輝きました。2010年は世界最高峰レースMotoGPにステップアップして、次なる頂点を目指して戦っています。