青山博一チャンネル〜Go! Go! Hiroshi〜

Go! Hiroshi42010/03/08

マレーシア
セパン・サーキット

チーフ・メカニックとは

メカニックとはマシンの整備やセッティングを担当するチームスタッフのこと。中でもその指揮を執るチーフ・メカニックは、担当するライダーはもちろん、メーカーのマシンやパーツのエンジニアといった専門家たちとのコミュニケーション能力が問われます。
技術的な知識をはじめ、ライディングスキルにも精通し、レース本番に向けて、マシンを最高のコンディションに導いていくのがその仕事です。

チーフメカニック、トム・ヨイェッチより

青山博一チャンネルをご覧のみなさん、こんにちは。インターヴェッテン・ホンダ・モトGPで、ヒロこと青山博一のチーフメカニックを担当しているトム・ヨイェッチです。ファミリーネームからも想像できるとおり、両親はともにユーゴスラビア人ですが、私自身はカナダで生まれ育ち、現在はイギリスに住んでいます。

WGPの世界に加わったのは1999年。2ストローク500ccの時代ですね。この年から2007年まで、チームKR(ケニー・ロバーツSr.が率いるチーム)のメカニックとして活動していました。当初はマッピングやデータロギングを担当し、後にチームのクルーチーフに就任しました。当時は青木宣篤選手と一緒に仕事をしていたので、日本人のメンタリティについても、ある程度は理解をしているつもりですよ。

ヒロに対しては、とても才能のある選手だな、という漠然とした第一印象を持っていました。一緒に仕事をするようになったのは、昨年の最終戦バレンシアGPの事後テストからですが、それ以来、ますます好印象を持つようになりました。なによりもハードワーカーで、すべてに目を配りながら精密に理解を進めていこうとするプロフェッショナルな態度。習得する、ということはステップ・バイ・ステップの作業なので、一歩ずつ進んでいこうとする彼の方法論はとてもいいことです。さすが世界チャンピオン、と思わせる能力を備えた選手ですね。この場所(MotoGPクラス)に来るべくしてやってきた選手といっていいでしょう。

さて、今回のセパンテスト(2月25日、26日)では、初日のタイムは2分02秒419。全体では12番手で、Honda勢では4番手となるタイムでした。ヒロが望んでいたほどではなかったにせよ、さらに一歩、いい前進ができたと思っています。何よりも、午前の最初の走り出しで前回のタイムを更新できたのだから、スターティングポイントとしてはとてもいいことでした。

前回のセパンテストは2010年モデルのシェイクダウンだったので、ヒロはマシンの順応にとまどっている様子も見受けられましたが、今回はだいぶんなじんできましたね。彼は一度何かを習得するとそれを忘れずにしっかりと自分の中に記録し、もう一度同じことをたずねたりあるいは忘れるということがありません。そして、それこそがヒロの長所だと私は思っているのですが、彼は少しずつ確実に自分を適合させてゆくんです。私の見るところ、ヒロの能力は非常に高いので、今年は最低でもトップルーキーの座を獲得できないはずがない、と私個人は考えているんです。

テスト初日の内容ですが、前回とはまったく異なる方向性のセッティングを2種類試してみました。この日いろいろと試した内容の中には、いいところもある半面、ネガティブな側面もあります。なので、それぞれの「いいとこどり」をしながら、翌日に向けてさらに大きなステップを踏み出す方向性を見いだせないかと検討しました。目標は、ブレーキングと旋回性の改善です。ヒロからコメントを聞くかぎり、前回のテストほどではないにせよ、ブレーキングと立ち上がりの双方でまだ苦労をしている様子でしたから。

ブレーキングをよくしていけば、立ち上がりも改善するはず、と私は考えました。というのも、進入側が適切な速度になってくれば、自然と旋回速度もよくなるし、その結果、立ち上がりも改善していくからです。だから、この問題を解決していくためにはまずはブレーキングに注目していかなければならない、というのが私の考えでした。

2日目には、前日以上に多くの項目を試しました。1日目も非常にポジティブな日でしたが、2日目はさらにいい内容になりました。今まで抱えていた大きな問題のひとつを解消できたのです。ただ、その結果として新たにひとつ問題を抱えることになってしまったのですが、これはどんどん速くなっていく過程では当然のことです。また、今回ワンステップ前に踏み出せたことにより、私たちは正しい方向に進んでいることも確信できたので、その意味でも充実したテストになりました。

この日のタイムは、2分01秒692。自己ベストを更新しました。11月のバレンシアから12月のルーキーテスト、3週間前のセパン、そして今回。まさにヒロらしく、一歩一歩確実に前進しています。250ccからステップアップしてきたどのルーキーよりも、ヒロはいいラップタイムを刻むことができました。これは非常にポジティブなことだし、全体で見ても9番手と、シングルにつけています。アンドレアとダニのファクトリーライダーに次いでHonda全体で3番手なのだから、決して悪くはない位置です。とはいえ、ライバル陣営と競っていくためにはもっとよくしていかなければならないし、それは恐らくHonda陣営全員がそう感じていると思います。

現在の課題はハンドリング。ヒロはハンドリングを軽くしたい、旋回性をよくしてリアのグリップがもっと欲しい、と言っています。接地感を損なわずにハンドリングの軽快さを手に入れることが、私たちの次の目標です。

次回のテスト地、カタールは、ナイトセッションで気温や路面温度が低く、コースは砂ぼこりだらけというコンディションです。今回見つけたベースから始めながら、悪いコンディションに惑わされて混乱しないようにすることが大切ですね。グリップが悪いのは誰しも同じという状況の中で、どうやってリアのグリップを上げていくか、ということも考えていかなければなりません。MotoGPのナイトテストはヒロにとってもチームにとっても初めての経験なので、全員で一丸となってさらに大きなステップアップを果たし、開幕に備えたいと思っています。

前へ次へ

プロフィール

青山博一
Hiroshi Aoyama

5歳からポケバイに乗り始め、15歳でミニバイク関東選手権を制覇。2000年から全日本選手権250ccクラスに参戦して、03年に全日本タイトルを獲得しました。翌04年からHondaのライダー育成制度「Honda Racingスカラーシップ」の第1期生として世界選手権250ccクラスにフル参戦を開始。昨年、日本人として8年ぶりとなる250cc世界チャンピオンに輝きました。2010年は世界最高峰レースMotoGPにステップアップして、次なる頂点を目指して戦っています。