青山博一チャンネル〜Go! Go! Hiroshi〜

Go! Hiroshi52010/04/17

カタール
ロサイル・インターナショナル・サーキット

ロサイル・インターナショナル・サーキットとは

カタールの首都ドーハ近郊の砂漠の中に設けられたサーキットで、2008年からは日没から深夜にかけて照明下の決勝レースが行われています。路面には周囲の砂漠からの砂が浮いて低グリップとなるのに加え、日没後のためセッション中に徐々に気温が低下していく、シーズン中でも独特なコンディションの下でレースが開催されます。

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開幕戦はくたびれるのだ

いよいよ2010年シーズンが始まった。青山博一が最高峰クラスMotoGPのデビュー戦を飾る舞台は、中東カタールのロサイル・インターナショナル・サーキット。2008年以来、ここでは毎年ナイトレースとして開催されることが通例になっており、レースウィークのスケジュールも平常とは違った進行になる。

金曜のフリープラクティス1回目の走行は、22時30分から23時30分。土曜は18時55分から19時55分までフリープラクティス2回目が行われ、22時55分から23時55分までが予選。日曜日の決勝レースは23時スタート、という変則極まりないスケジュールだ。

今回のレースに向けて青山がカタール入りしたのは水曜の夜。1月からトレーニングを続けてきた欧州との時差は1時間なので、時差ボケを心配する必要はないとはいえ、走行時間が上記のとおり深夜にさしかかるため、その時間帯に体調のピークを持っていくコンディション管理が重要になる。

長年目標にしていたMotoGPの初レースを、モチベーション高くいい緊張感で迎えることができます、という青山は、ナイトレースはどちらかというと好きなほうだ、と話す。

「照明の中で走行していても違和感はないし、夜にレースをしたほうが意外に寝る時間を多く取れるんですよ。レースが始まると、走行終了後ミーティングが終わってホテルに帰れば午前2時〜3時頃。それから8時間寝ると、午前11時。チームは、整備等の作業があるから、早い時間にサーキットへやって来るけど、僕はみんなが仕事をしている間も寝ることになる。だから、かえって長い時間寝られるんですね。うまくリズムに乗ることができれば、ナイトレースのほうが好きです」

開幕戦の目標は、と訊ねると、青山らしい回答が返ってきた。

「それは優勝したいけど、シーズン前のテスト回数が少なくて練習不足は明らかだし、MotoGPの初レースでどういう展開になるのかまったく読めない。だから、具体的な順位を今回の目標にするのは難しいけど、シーズン前半はトップ10、後半にはトップ5に入れるようにしたいですね。今回のレースでは、各セッションでマシンを確実に仕上げていって、他の選手としっかり戦えるようにしていくことが、まずは先決です」

金曜日の走行は、全17選手中17位。3週間前のプレシーズンテストでも思うようなフィーリングを得ることができず、セットアップに苦慮していたが、レースウィークを迎えても状況は改善されなかった。

「……いい方向には進まなかったですね。ハードタイヤで機能するようなセッティングに持っていこうとしているけど、これでよく転ばなかった、というくらいグリップしなかった。今日のミーティングは、長くなりそうですね……」

結局、チームとのミーティングを終えてサーキットを出たのは午前3時。翌土曜日は、青山は夕刻に現場入りしたものの、チームスタッフはそれよりもずっと早く、すでに午前中にサーキット入りし、走行に備えた整備やミーティングを開始している。

この日は、フリープラクティス2回目で前日よりもひとつ順位を上げて16番手。22時55分からの予選では、最後にタイムアップして10番手に浮上した。

「リアのセッティングを変えたらフィーリングが大きく変わって、だいぶよくなってきたけど、この方向性がベストかどうかは、まだわからない。もう少しいろいろと試してみたいというのが本音だけど、明日はもう決勝日だから、わずかなアジャストでレースに備えます。MotoGPで初めてのレースだから、決勝中にバイクやタイヤ、自分のフィジカルコンディションがどう変化していくのかはまったくの未知数。状況を見ながらベストを尽くしてレースをしたいと思います」

前日よりも前進したとはいえ、この夜もやはり、チームとのミーティングは午前3時までかかった。その後、メカニックたちは午前4時過ぎまで作業を継続し、砂漠の向こうに朝日が昇りはじめようかという頃合いになってようやくホテルへ帰り着いた。そして、わずかの時間、自室で横になったかと思うと、午前11時には出発してふたたび現場入り。決勝に向けた最後のマシン調整に取りかかった。

フリープラクティスで最後の確認と微調整を行い、いよいよ深夜23時に2010年のMotoGP開幕戦決勝レースが始まった。10番グリッドからスタートした青山は、22周回の争いを終えて10位でチェッカー。250ccクラスからステップアップしてきたルーキーでは最上位、しかも、シーズン前半戦の目標、とレース前に語った数字も開幕初戦で早速クリアした。

「スタートで相当出遅れてしまったけど、その後はいいリズムを刻んで終盤はカピロッシ選手(スズキ)の背後につけた。抜けるかなとも思ったけど、さすが300戦を戦ってきた百戦錬磨の選手だけあって、どのコーナーでも隙のない走りで最後まで抜かせてくれませんでした。ラスト10周はリアが厳しくなったけど、ギリギリの走りでゴールできたのでよかったと思います。

今回初めてMotoGPクラスのレースをやってみて、テスト不足であることレース中に痛感しました。250ccクラスなら、セットアップが出ていなくてもなんとかごまかして走れるけど、MotoGPはセットアップが出ているとうまく走れる半面、出ていなければさらに苦しいレースになってしまう。今回の内容をきっちり検証して、次のもてぎではもっと前でレースをできるようにしたいですね」

このリザルトは、チームスタッフにとっても最初のステップをクリアできた納得の内容だったようだ。連日のハードな作業が報いられた今回の結果に、チーフクルーのトム・ヨイェッチも満足げな表情でレースを振り返る。

「今日は、ヒロはすばらしい仕事をしてくれました。結成されたばかりの新チームで、しかもルーキーライダーがMotoGP初レース10位なのだから、そんなに悪い結果ではないと思います。むしろ大きな問題がなかったことを喜ぶべきだし、今回のレースからはたくさんのことを学べました。チームにとってナイトセッションは初の経験で、準備しなければならないこともたくさんあったし、そのために日中からいろいろと準備や作業をしなくてはならなかった。他のチームに追いつこうと、皆が一生懸命がんばってくれたし、夜遅くまで仕事をしてその後ミーティングをして、と、とても長い一日の連続だったけれども、10位を獲得してくれたことで報われました。

次のツインリンクもてぎは、ヒロのホームレースです。このサーキットを、彼は他のどのコースよりも熟知しています。MotoGPのブレーキングポイントやライン取りなどなどを習得していくのは大変な作業ですが、それは他のルーキーにとっても同じこと。上位の結果も期待したいところですが、今回のリザルトからさらに上げていくことに集中し、最低でも今の位置を確保したいですね」

青山とインターヴェッテン・ホンダのチームスタッフたちは、変則スケジュールとの戦いをひとまず無事に乗りきった。次回の第2戦からは通常のスケジュールで、日中にレースが行われる。

プロフィール

青山博一
Hiroshi Aoyama

5歳からポケバイに乗り始め、15歳でミニバイク関東選手権を制覇。2000年から全日本選手権250ccクラスに参戦して、03年に全日本タイトルを獲得しました。翌04年からHondaのライダー育成制度「Honda Racingスカラーシップ」の第1期生として世界選手権250ccクラスにフル参戦を開始。昨年、日本人として8年ぶりとなる250cc世界チャンピオンに輝きました。2010年は世界最高峰レースMotoGPにステップアップして、次なる頂点を目指して戦っています。