開幕戦から新世代ドライバーが台頭し、強豪チームが辛酸をなめた
この勢力関係でこのままシーズンが展開するのか!? 興味の尽きない新連載スタート!
2010年のIRLインディカー・シリーズは全17戦。南米ブラジルのサンパウロで開幕してから、フロリダ半島セント・ピーターズバーグ、南部アラバマ、太平洋岸まで大陸横断してのロングビーチと、アメリカのトップ・オープンホイール・チャンピオンシップはダイナミックに長距離を移動して転戦してきた。それらのレースはいずれもロードレースだった。
今年最初のウィナーとなったのはチーム・ペンスキーのウィル・パワーであった。イギリスF3、ワールド・チャンピオンシップbyルノー、北米のチャンプカー・シリーズとステップ・アップして来たオーストラリア出身の29歳は、特にストリート・コースで衝撃的な速さを見せた。彼はコンクリートの壁がすぐそこにあることなど一切意に介さず、コーナーを駆け抜けて行く。
KVレーシング・テクノロジーからインディカーへの挑戦を始めた08年、名将ロジャー・ペンスキーはパワーの才能に着目した。09年に向けて獲得したパワーだったが、レースに出させることができたのは6戦のみだった。今年から彼らはチーム体制を3カーへと拡大、パワーはその期待に応えて開幕4戦で2勝、3位1回、4位1回という驚異的なスタート・ダッシュを見せた。
盛者必衰は当然のこと
話は少し遡る。今から3年前の07年シーズン、最多勝利となる5勝を飾ったのはアンドレッティ・グリーン・レーシング(AGR)のトニー・カナーンだった。当時の彼のチームメイト、ダリオ・フランキッティは4勝を挙げ、シリーズ・チャンピオンに輝いた。AGRは全17戦の過半数である9レースで勝利を収めるほどの強さを発揮していたのだ。彼らに続いたのはチップ・ガナッシ・レーシングの6勝で、ペンスキーは2勝したに過ぎなかった。
ところが、この後の2シーズンでAGRは戦闘力を急降下させ、逆にペンスキーはトップ・レベルにまで戦力を回復させた。07年に最多勝利を誇ったAGRは、08年は辛うじて1勝を挙げたのみ。ガナッシが8勝してトップに君臨し、ペンスキーは4勝へと勝利数を倍増させた。翌09年になるとAGRは勝利を挙げられず、ガナッシは10勝まで勝利数を増やしてタイトルを連覇。ペンスキーも6勝をマークした。ちなみに08年も09年も年間レース数は17だった。
今やガナッシとペンスキーの強さは揺ぎないもので、今年も彼らがシリーズの先頭を切って行くことは間違いないと見られていた。しかし、AGRの急激な失速が現実にあったように、新たな勢力が一気に力を伸ばす、逆の現象もレースの世界では起り得る。開幕戦のサンパウロのレース結果は、まさにそうした新時代の到来を期待させるものだった。アンドレッティ・グリーン・レーシングからアンドレッティ・オートスポーツへと体制を改めたチームは、新たに起用したライアン・ハンターレイが2位でフィニッシュする大活躍。ヴィットール・メイラが3位でゴールし、ラファエル・マトスが4位、ダン・ウェルドンが5位でゴールした。女性ルーキーのシモーナ・デ・シルベストロが予選で11位に食い込み、レースでトップを走るシーンもあった。その反面、エリオ・カストロネベスとライアン・ブリスコーというロードレースでの実力、実績ともに申し分ない2人がトップ5入りを逃した。それは07年と09年のチャンピオンであるダリオ・フランキッティと、03年と08年にチャンピオンとなったスコット・ディクソン、つまりチップ・ガナッシ・レーシングの2人のドライバーも同様だった。サンパウロは初開催のストリート・コースだったという要因があったにせよ、二強といってもウカウカはしていられない戦国時代の始まりが感じられたレースだった。
インディ500を境に変化が現れた
開幕から2ヵ月半が経過し、2010年シーズンは17戦のうち早くも7戦を消化した。第7戦テキサス終了時のポイント・スタンディングを見ると、トップはフランキッティ、2位はパワーで、3、4、5位にはディクソン、カストロネベス、ブリスコーが並んでいる。チップ・ガナッシ・レーシングとチーム・ペンスキーの二強のドライバーたちが結局はトップ5を占拠する事態となった。
しかしレース内容からすれば、ロードレース4戦後のオーバル3連戦ではアンドレッティ・オートスポーツが戦闘力アップを見せている。第6戦インディ500での予選では二強が存在感を改めて示し、レースでもフランキッティが勝利を収めたが、その中でマルコ・アンドレッティがインディ500、テキサスの2戦でともに3位に入賞する奮闘を見せた。またインディ500で6位フィニッシュしたダニカ・パトリックも、テキサスではさらにファイティング・スピリット溢れる走りを見せてブリスコーと優勝争いを展開。アンドレッティ・オートスポーツの4人は、テキサスで全員が7位までに食い込んだ(トニー・カナーン6位、ライアン・ハンターレイ7位)。彼らはシーズン中盤からのトップ争いをより激しいものとしてくれるだろう。
アンドレッティ・オートスポーツ以外にも注目すべきチームがある。中でもドレイヤー&レインボールド・レーシングは今シーズンに向けて最も大きな進歩を遂げて来たチームだろう。インディ500ではピット・タイミングの影響によるものとはいえ、レース終盤にマイク・コンウェイ、ジャスティン・ウィルソンが続けてトップを疾走。オーバルでも彼らは着々と実力を伸ばして来ている。コンウェイはインディでの大アクシデントで3ヶ月ほど戦列を離れるが、ウィルソンがシーズン中盤のロードコース連戦でトップ争いへと加わって行くのは間違いなく、終盤戦のオーバル・レースではこれまで以上の活躍が期待できる。コンウェイの代役には、優勝経験を持つトーマス・シェクターが起用されている。
その他にもインディ500の予選でポールポジションを争う素晴らしいパフォーマンスを見せたアレックス・タグリアーニとファスト・レーシング、インディ500とテキサスの連戦でともに好走を見せたアレックス・ロイドとデイル・コイン・レーシング、佐藤琢磨を含む3カー体制で戦うKVレーシング・テクノロジー、武藤英紀を起用する古豪ニューマン・ハース・レーシングなど、まだまだ持てる力のすべてを発揮し切れていないチームは多い。二強の時代をつき崩すのは誰か? 第8戦アイオワからの戦いに注目して行きたい。
〜第2回へ続く〜
◆筆者プロフィール
天野雅彦(あまの・まさひこ)
1990年からアメリカン・モータースポーツ界への取材を開始し、日本人ジャーナリストとしては草分け的存在である。IRLインディカー・シリーズを全戦取材し『週刊オートスポーツ』や『東京中日スポーツ』などに寄稿している。比類ない知識の厚さと情報の速さは、長年の取材経験のたまものである。