「スポーツとエンターテイメントの王国」アメリカを代表するレース・シリーズ
2010年はオーバル8レース、ロード9レースの全17レースのシリーズとなった
IRL(Indy Racing League インディ・レーシング・リーグ)が主催するインディカー・シリーズは、アメリカ最高峰のオープン・ホイール(フォーミュラカー)レース・シリーズである。モータースポーツを「テクノロジーとスポーツマンシップのエンターテイメント」として楽しむアメリカにおいて、IRLインディカー・シリーズは抜群の人気を誇っている。
1996年にIMS(インディアナポリス・モーター・スピードウェイ)の当時のオーナーであったトニー・ジョージは、アメリカのモータースポーツの象徴であるオーバル・トラック(楕円形コースレイアウトのサーキット)のレースを復興させる目的で、IRLを設立した。その代表イベントが、IMSで毎年開催されている「世界で最も長い歴史をもつレース」インディアナポリス500マイル・レース(通称インディ500)である。
このオーバル・トラック・レースの復興という主張は、アメリカのレースファンに大いに支持され、オープン・ホイールによるオーバル・トラック・レースを全米シリーズとして開催することにIRLは成功した。IRLインディカー・シリーズが始まった1996年は、年間3レースのシリーズにすぎなかったが、たちまちのうちに人気が沸騰し、翌年97年には年間10レースと急成長し、アメリカを代表するオープン・ホイールのレース・シリーズへと台頭した。
こうしてIRLはオーバル・トラック・レースの復興をなしとげると、さらなる拡大路線を歩んだ。2005年からは常設サーキットや公道コースを舞台とするロード・レースをシリーズに組み込んだのである。そして2008年には、北米においてオープン・ホイールのロード・レース・シリーズを主催していたCCWS(チャンプカー・ワールド・シリーズ)を併合し、名実ともにアメリカ最高峰のオープン・ホイール・レース・シリーズを完成させた。
このIRLの成功の秘訣は、アメリカのレース主催者が伝統とする「観客を楽しませるレース運営」を徹底したことにつきるだろう。
観客スタンド入場券を廉価に設定するだけでなく、レーシングドライバーやレースマシンを間近に見ることができるパドック入場券も安価としている。レースのたびに、出場するレーシングドライバー全員が出席するサイン会を開催するなど、観客サービスのプログラムも充実している。インディカー・シリーズに出場するレーシングドライバーは、観客からサインを求められたら出来るかぎり応じることを当然の仕事だと考えている。
観客を楽しませるレースとは、スタートからゴールまで激しいバトルが展開するものだというのがIRLの基調で、そのためにはレースマシンの性能格差を最小限におさえることだと彼らは考えている。各チームのレースマシンが可能なかぎりイコールコンディションになるように厳密な規則を定め、それを実現した。その一方でレースマシンの技術進歩にも積極的に取り組み、2008年にパドル・シフトを、2009年には瞬間的にエンジン・パワーがアップするオーバーテイク・アシスト・ボタンをそれぞれ導入した。これらの技術進歩もまた、レース展開を面白くする方向で考え出されることは言うまでもない。また、各チームの財政を安定させチーム力の格差拡大をおさえる目的で、2008年に賞金分配方法をドライバー主体からチーム主体へと変更した。
IRLは、インディカー・シリーズがアメリカ最高峰のレースシリーズであるという矜持から、エコロジー時代の流れに敏感に反応し、2007年にレースに使用する燃料を、穀物由来のクリーンなエタノール燃料(エタノール98%+ガソリン2%/飲料アルコールとなるのを防止する目的で2%のガソリンを混合)に変更した。IRLはレース燃料では世界の最先端を歩んでおり、2010年から着色を施した100%エタノール燃料を使用することを決定している。
2010年シーズンは世界同時不況の影響で、2009年よりエントリー台数が若干減るが、ブラジル・サンパウロの公道レースをあらたに加え、全17レースのシリーズとなった。これでレース開催国数はアメリカ、日本、カナダ、ブラジルの4カ国に増え、開催地域も北米、アジア、南米へと広がった。
今年もまたIRLインディカー・シリーズは、ハイスピード・バトルを各レースで展開し、全世界のレースファンを魅了するだろう。