インディカー百科事典

インディカーのパフォーマンス

F1とは違い車体は市販されているものを使用する

目に見えない空気の力を制することが勝利への第一歩

2010年にフルエントリーした全チームがダラーラを選択している。
ステアリング・ホイールの緑色のボタンがオーバーテイク・アシスト・ボタンである。
ダウンフォース増量に寄与するホイール・バッキング・プレート。
空気の流れを整流するリアタイア・ランプ

IRLインディカー・シリーズでは、すべての参加チームが、IRLが認定した市販車体を購入して使用することがルールによって定められている。現在、IRLが認定している車体ブランドは、イタリアのダラーラとアメリカのパノスである。しかしながらパノスは2007年のインディ500決勝レースに出走して以来、その後は一度もインディカー・シリーズの決勝レースを走っていない。したがって結果的にダラーラのワンメイク状態になっている。

すべてのレースマシンがHonda Indy V8エンジンを搭載し、ギアボックスは英国エックストラック社のワンメイクで、6スピードのパドルシフト電子制御セミオートマチック・トランスミッションだ。

瞬間的にエンジン・パワーを最高で40馬力程度増加させるオーバーテイク・アシスト・ボタンは、レース毎に使用回数と1回あたりの秒数が決められる。1レースでの使用回数は、導入初年度だった2009年の場合、おおよそ15回から20回だった。使用後はチャージ時間を必要とするために連打はできない。

レーシングドライバーが走行中に使用燃料の噴射量を操作していた燃料ミクスチャー・ダイアルは、2009年シーズン終了とともに廃止された。2010年からは燃費のセーブがドライバーのアクセルワークに委ねられ、より高度なドライビング・スキルがレースで勝利するためには求められることとなった。

インディカー・シリーズのレースのひとつの魅力は、スピードである。オーバル・トラックのレースでは時速350キロをこえる超高速で連続走行することが珍しくないので、空気の力(空力=エアロダイナミクス)がさまざまな形でレースマシンに加わる。この空気の力を適切に制御しなければ、たとえば揚力が発生すると飛行機のように飛んでしまう。そこで空気の力を制御して、レースマシンを地面に押しつける力(ダウンフォース)を発生させる設計上の工夫がほどこされている。レースマシンの前後の装着されているウイングや、マシンの底をリアに向かうにしたがって跳ね上がった形状にするなどの工夫だ。

オーバル・トラックでは小型のウイングを装着し、ロード・コースでは大型ウイングを使い、その角度などのセッティングが勝負の鍵をにぎるケースがある。レースマシンの速度や前方を走るレースマシンの台数と位置によってダウンフォースの量が変化するので、ウイングそのものが発生させる空気抵抗との兼ね合いなどを、総合的に考えてセッティングを決める。前後のウイングはレースマシンの前後バランスをアジャストする役目もあるので、ウイングのセッティングはとても微妙だが重要である。

オーバル・トラックの超高速レースは、度胸一発の勝負に見えるが、実は目に見えない空気の力を制した者が勝利者になるというインテリジェンスの戦いが隠れている。そのためレースマシンのボディ表面にあるネジの頭やスポンサーのステッカーのわずかな厚みが、空気の流れを乱して抵抗になることすら嫌う。ネジの頭やステッカーをボディ表面と同一面にし、ボディの継ぎ目も極力スムーズにさせるための細かな工夫がほどこされる。

2009年のシーズン中に、1.5マイル・オーバル・トラックだけで装着が許される、ダウンフォースを増加させるための3つの空力部品が認可された。ホイール・バッキング・プレート、リアタイア・ランプ、サイドポッド・エクステンションの3つである。ダウンフォースを増加させる空力部品の追加で、観客はスピードと接近戦をますます楽しめるようになるだろう。