RC30 Forever

熱きHondaスピリットの塊、RC30よ、永遠なれ

VFR750R VFR750R

モノづくり もの語り

第9話
ウォーターポンプ編

我々プロジェクトが再生産する部品の選択において、“この部品が無い為に走れないというオーナーのお役に立ちたい“という強い思いがあります。
ウォーターポンプもその一つです。ウォーターポンプは、水通路の中でインペラーが回転して冷却水を圧送する部品で、エンジン内のオイルポンプギアの軸で駆動しています。
軸部には“メカニカルシール”があり、この部品がエンジン内への冷却水混入を防ぐためのキモとなる部品です。
使用状況にも依りますが、長年の使用によりシール面からの水混入がまれに発生する場合があります。
当初我々は、水漏れ事象にはメカニカルシールの交換で対応できると考えておりましたが、ウォーターポンプ製造メーカー様との打ち合わせの中で、メカニカルシール組付けの難しさを知る事となりました。
メカニカルシールは、セラミック材とカーボン材を回転摺動させて、その摺動面でシールさせるのですが、シール面は絶対に触れてはいけない(皮脂の付着で漏れに繋がる)という要件があり、製造メーカー様での組み立ての場合のみ品質保証出来るという事でした。
その結果、メカニカルシールの交換は断念し、ウォーターポンプASSY再生産に切り替えましたが、他の再生産部品同様に“生産数の壁”が大きく立ちはだかりました。
量産のダイキャスト型はすでに廃却済の為、金型を新作し少量生産するととても手の届かない額になります。
途方に暮れながら図面を見ていると、そこには試作時の寸法が・・・そうだ、砂型鋳造があった!!
砂型鋳造では金型が不要で少量生産に向いており、エンジン開発の試作時に選択される製法です。
その為、図面には砂型鋳造も適用できることになっています。
しかしダイキャスト製法に比べ、薄肉部の成形が難しい事と形状精度が出しにくく、形状精度が必要な部分は加工代をつけて成形した後、削り加工で精度を出す必要がある為、後加工費が高額になるデメリットもあります。
早速協力メーカー様に見積りを頂き確認すると、ぎりぎり許容範囲だった為、砂型鋳造での再生産に決定しました。

早速図面を基に3Dデータの作成をスタートしましたが、フロントフェンダー同様に図面から読み取れない部分が多く、その当時の設計者と製造メーカー様の“阿吽の呼吸”を痛感しました。
図面から読み取れない部分とは・・・三次元CADが普及する以前、図面で形状を表現する場合は、基本的な正面図、側面図、上面図以外に、複数の断面形状を描いて形状表現しますが、断面形状が変化する場合は多数の断面を描く必要があり、完全に表現する事は困難です。その為に実体モデル(マスターモデル)を併用して形状を表現しておりました。
つまり、実体モデルや金型が廃却されてしまうと、“図面だけでは形状の完全復元は出来ない”ということになります。
ここでもまた“リバースエンジニアリング技術が役立ちました。
スペアパーツを分解し、3Dスキャナーでデータを取り、図面と照合しながら砂型鋳造用の形状データを作成しました。
砂型鋳造後、精度の必要な部分は削り加工で対応している為、金型品に対し多少重量増となるものの、量産品とは違った雰囲気の外観で出来上がりました。

図面を基に3Dデータ化
図面を基に3Dデータ化
測定データから自動面張り
測定データから自動面張り
測定データと図面3Dデータの 差異部は、測定データを参照し 修正
測定データと図面3Dデータの差異部は、測定データを参照し修正
完成した砂型鋳造ウォーターポンプ 切削加工の面が美しい
完成した砂型鋳造ウォーターポンプ 切削加工の面が美しい
完成した砂型鋳造ウォーターポンプ 切削加工の面が美しい
完成した砂型鋳造ウォーターポンプ 切削加工の面が美しい

完成した砂型鋳造ウォーターポンプ 切削加工の面が美しい仕上がりとなっています