RC30 Forever

熱きHondaスピリットの塊、RC30よ、永遠なれ

VFR750R VFR750R

モノづくり もの語り

第3話
FRP カウル塗装編

塗装の検討開始

RC30実車を前に、熊本製作所の塗装エキスパートは先ず色の確認からスタートしました。
このカウルに使っている4色はそれぞれデザイナーがこだわりをもって調色した色ですが、量産運用色の統廃合ののち現在は4色とも使われていませんでした。
パールクリスタルホワイト、ウィステリア(藤)ブルー、セイシェル(インド洋に浮かぶ島国)ナイトブルー、ファイティングレッドこれら4色を熊本製作所で運用している量産近似色で代用できないか、カラー見本板と見比べるところから塗装の検討がスタートしていきました。
そしてカウルの塗装と併せてもうひとつの難題は複雑な局面に描かれるストライプの再現方法でした。
例えば、縁取りで直線に伸びるゴールドラインのストライプ。さまざまな曲面を描いているカウル表面に貼ったときに、直線に見えるためには、貼り付ける前の平面の展開形状は様々な弧の連続した形状になっています。
この展開形状は貼付け作業時のストライプの伸びなども考慮してトライ&エラーの繰り返しで形状を決めていきます。外観オリジナル復刻させるための苦労が始まりました。

オリジナルへのこだわり

パールホワイトは量産でかなり近似している色が見つかりましたが、それ以外は一致するものは無く、カラー見本版をもとに塗料メーカー様にあらためて調色していただくことが決まりました。
そして、調色した3色と量産パールホワイトで塗装トライを行い、できあがったカウルを前にRC30実車と見比べる検証会を行います。
こういった確認工程は太陽光の反射の具合なども影響するので屋外で見比べます。
塗装やデザインエキスパートだけでなく、設計者や所内RC30オーナーなども参加のうえ素直に意見交換を行いました。「パールホワイトが違和感がある」「徹底的に再現を目指すべきだ」これが最終的にまとまった意見で、結果的にパールホワイトも当時のオリジナルに調色し直すことが決まり、全ての色を再生産する事になりました。
ストライプについては、当時のお取引先様に再生産のお願いをしましたが、やはり展開形状を決めていく過程が難しく困難が予想されました。
しかし、数日後なんとこのお取引様の工場のひとつに30年前の展開形状の1/1フィルムが保存されていることがわかりました。非常時のリスク管理で、量産情報を二重管理してくれていたおかげで、ひとつの工場で廃却しても別の工場で廃却されずにフィルムが残っていたというわけです。これが再生産には非常にありがたいことでした。
更にオリジナルにこだわった部分としては、シートカウルのゼッケンフチ取りとゴールドストライプ同士の重なり方まで、当時を忠実に再現することにしました。
この箇所はオーナーズミーティングに参加した際、実車を前にしたワイガヤ談議で「この重なりを無くしてスッキリしたほうがいいですよね?」という投掛けに対して「それでは復刻とは言えないな」との返答を頂きましたので徹底的にオリジナルの再現にこだわりました。

カウルの試作と修正の繰り返し
カウルの試作と修正の繰り返し

FRP塗装技術について

しかしながら、FRP塗装の経験者は既にホンダの社内に残っていませんでした。
但し、熊本製作所はRC213V-Sでカーボンカウルの塗装を経験しています。この一品モノを仕上げる匠の技術をもった担当者を部門長に頼み込んで塗装のPLに指名してもらいました。

塗装方法に関しては量産段取り変えのタイミングを利用して塗装ラインに流したり、ハンド工程で塗装したりしてRC213V同様に量産工場で手作りの塗装を実現する事が可能となりました。
塗装は下地が命とも言えます。お取引先様は手作業でFRPを貼り込み、ゲルコートでFRP表面を仕上げます。
最終的に満足のいく塗装表面に仕上げていくために、様々なトライの結果ゲルコート2回塗りの上にサフェーサーを吹いて下地を入念に仕上げていく工程が決まりました。
また、FRP積層について当時は綿状のグラスマットを多用していましたが、今回はガラスクロスを主体に貼り込み、マットは部分的な使用にとどめるという進化をさせています。当時のものと比較し強度が増すうえに若干の軽量化を実現しています。

当時のままの完成車と熊本で塗装し復刻したカウル
当時のままの完成車と熊本で塗装し復刻したカウル