いざ実戦、全力でいこう。いざ実戦、全力でいこう。

''21.11.21
もてぎストリートシュートアウト参戦。

e-DRAGのレース初参戦となったのは、栃木・ツインリンクもてぎでの「もてぎストリートシュートアウト」。ドラッグレースはスタートからの直線タイムを競うアメリカ発祥の競技で、1/4マイルが約402mのため、日本では0-400m、すなわち「ゼロヨン」レースと呼ばれています。近年ではより短い距離で行われることが多く、この大会も300mでのタイムを競います。年2回行われるこのレースは、初心者でも参加しやすく、何秒台で走れるかによって分けられたクラスの中で速さを競う分かりやすいルール。e-DRAGは事前のテスト走行の結果に基づき、12秒台のクラス「S12」に参戦しました。

■10月5日 事前検証@富士川
初試走「飛行機みたいだ」

K-CLIMBと合わせ、同じ富士川でe-DRAGも事前検証。実はこの日がe-DRAGにとっては初のテスト走行。どんな走りを見せるのか。チーム全員が胸を高鳴らせてのテストでした。開発メンバーと、共同開発を続けてきた株式会社HKSのスタッフ。e-DRAGの開発では、このHKSスタッフのアイデアによって、当初の予定を超えるボディパネルの大胆なカーボン化が実現。その効果は絶大で、直近計測の車両重量は約700kg。ノーマルのHonda eが1510kgなので、このカーボン化などの手法により、実に半分以下にまで減量を達成していました。この軽さも活かして、いかなる速さが生まれるか。アクセルを踏み込むと、ヒューン、キーンという音とともにゴーッっとロードノイズが聞こえ、強い加速Gと合わせ「滑走路を走る飛行機みたいだ」とモーターならではの加速を体感。走行中の姿勢のブレなども確認しつつ、肝心の400mタイムは…「確かに速い。でも14.5秒」。このタイムからシュートアウトの走行距離300mのタイムを割り出し、12秒台の「S12」クラスへのエントリーを決定しました。

■11月21日 当日@現地
「本気でこれでやるの!?」

このレースに先立つこと約ひと月前、10月31日のハチ高原ヒルクライムレースにK-CLIMBが参戦した際に展示され、観衆から大きな注目を浴びていたe-DRAGは、もてぎでも異彩を放っていました。可愛さの残る丸めのボディとライト。とはいえHonda eからは大きく“キャラ変”した風貌。そして、アメ車や高性能スポーツカーが集う中で、唯一のEV。今回ドライバーを務めたのは、プライベートでもドラッグレースに参戦した経歴をもつ開発者。そのため現地でも知り合いから様々に声をかけられ、「本気でこれで出るの!?何やってるの仕事で」と笑われたとのこと。観戦者からも「こんなクルマを公式メーカーがつくるなんてオモシロイ」という声が聞かれました。「それこそ私たちが思っていたオモシロイスポーツ、“オモスポ”なんです」。

■ストリートシュートアウト
1ヒート目 「あっ、空転…」

いよいよ予選。制限時間内であれば何度でも走れ、予選タイムのトップ4が決勝に進めるルールです。ドラッグレースの路面は非常に特殊で、スタート地点にトラックバイトというベタベタした薬剤が撒かれ、その量や路面温度、前に走行した車両が路面に残したラバーなどでコンディションが変わり、それによってタイヤ空気圧や足回りのセッティング、スタート時のペダルワークが変わります。「基本的なセッティングは富士川でできていましたので、サスペンションには調整幅はありますが、空気圧の調整だけで対応しました」。1本目は様子を確認するために空気圧を高めにし、さらにバーンアウトを決行。バーンアウトとは、スタート前に駆動輪のタイヤをわざと空転させ、路面との摩擦熱でタイヤ表面のゴムを溶かし、タイヤのグリップ力を高めること。スタート直前タイヤから白煙を上げている光景は演出ではなく、このバーンアウトによるもので、e-DRAGもそのための装置を備えています。タイヤから煙が上がり、身震いするように揺れる車体。そしてスタートライン。シグナルがGOになった瞬間、「ギャギャ」っとタイヤがグリップしていないことを知らせるスキール音が、排気音のない車内に響きました。スタート時のタイムロスはドラッグレースにとって致命的です。2本目は空気圧を下げることにしました。

■ストリートシュートアウト
「まさか…上出来で失格」

そこから数本、タイヤ空気圧を1.3kpaまで下げて路面との接地面積を増やし、グリップ力を高めた状態で走行し、S12クラスではトップを狙える12.1秒をマーク。 12秒前半の安定したタイムを出し、「決勝確実・・・しかも、もしかしたら??」とチームメンバーで密かに盛り上がっていたところ、AM最後と決めた一走で運命が・・・。シグナルGOでダッシュを決め、キーンと音を上げて車速を一気に上げるe-DRAG。会心の走りを見せ、タイムを見ると…「あっ!」、まさかの11”962。レースのルール上は、エントリーしたクラスの上限タイムより速いタイムは一発失格対象。興味深げにe-DRAGの走りを見ていた場内アナウンスの方からも「11秒台出たね!でも、失格だからね〜」と笑顔で告げられ、「ですよね…」と決勝への出走は消えてしまいました。

■参戦を終えて

多くの方に関心を向けてもらう中で「ここまでできる」ことを示せたレース。見た目で驚かれ、バーンアウトをすれば「このクルマでバーンアウトできるの!?」と驚かれ、けれどもいざ走ると、その速さに、最初は「本気でこれでやるの!?」と笑っていた人たちも「こういうやり方もあるよね」と反応が変わってくる局面もありました。レースに挑んでみて、今後可能であればパワートレインにも手をかけ、よりパフォーマンスが出る車両ができれば、今つくっている足回りがもっと活きてくると、新たに見えてきた展望。「トロフィーは持ち帰れなかったけれど、見えないものをいっぱい持ち帰れたレースでした」。