■11月21日 当日@現地
「本気でこれでやるの!?」
このレースに先立つこと約ひと月前、10月31日のハチ高原ヒルクライムレースにK-CLIMBが参戦した際に展示され、観衆から大きな注目を浴びていたe-DRAGは、もてぎでも異彩を放っていました。可愛さの残る丸めのボディとライト。とはいえHonda eからは大きく“キャラ変”した風貌。そして、アメ車や高性能スポーツカーが集う中で、唯一のEV。今回ドライバーを務めたのは、プライベートでもドラッグレースに参戦した経歴をもつ開発者。そのため現地でも知り合いから様々に声をかけられ、「本気でこれで出るの!?何やってるの仕事で」と笑われたとのこと。観戦者からも「こんなクルマを公式メーカーがつくるなんてオモシロイ」という声が聞かれました。「それこそ私たちが思っていたオモシロイスポーツ、“オモスポ”なんです」。
■ストリートシュートアウト
1ヒート目 「あっ、空転…」
いよいよ予選。制限時間内であれば何度でも走れ、予選タイムのトップ4が決勝に進めるルールです。ドラッグレースの路面は非常に特殊で、スタート地点にトラックバイトというベタベタした薬剤が撒かれ、その量や路面温度、前に走行した車両が路面に残したラバーなどでコンディションが変わり、それによってタイヤ空気圧や足回りのセッティング、スタート時のペダルワークが変わります。「基本的なセッティングは富士川でできていましたので、サスペンションには調整幅はありますが、空気圧の調整だけで対応しました」。1本目は様子を確認するために空気圧を高めにし、さらにバーンアウトを決行。バーンアウトとは、スタート前に駆動輪のタイヤをわざと空転させ、路面との摩擦熱でタイヤ表面のゴムを溶かし、タイヤのグリップ力を高めること。スタート直前タイヤから白煙を上げている光景は演出ではなく、このバーンアウトによるもので、e-DRAGもそのための装置を備えています。タイヤから煙が上がり、身震いするように揺れる車体。そしてスタートライン。シグナルがGOになった瞬間、「ギャギャ」っとタイヤがグリップしていないことを知らせるスキール音が、排気音のない車内に響きました。スタート時のタイムロスはドラッグレースにとって致命的です。2本目は空気圧を下げることにしました。
■ストリートシュートアウト
「まさか…上出来で失格」
そこから数本、タイヤ空気圧を1.3kpaまで下げて路面との接地面積を増やし、グリップ力を高めた状態で走行し、S12クラスではトップを狙える12.1秒をマーク。 12秒前半の安定したタイムを出し、「決勝確実・・・しかも、もしかしたら??」とチームメンバーで密かに盛り上がっていたところ、AM最後と決めた一走で運命が・・・。シグナルGOでダッシュを決め、キーンと音を上げて車速を一気に上げるe-DRAG。会心の走りを見せ、タイムを見ると…「あっ!」、まさかの11”962。レースのルール上は、エントリーしたクラスの上限タイムより速いタイムは一発失格対象。興味深げにe-DRAGの走りを見ていた場内アナウンスの方からも「11秒台出たね!でも、失格だからね〜」と笑顔で告げられ、「ですよね…」と決勝への出走は消えてしまいました。
■参戦を終えて
多くの方に関心を向けてもらう中で「ここまでできる」ことを示せたレース。見た目で驚かれ、バーンアウトをすれば「このクルマでバーンアウトできるの!?」と驚かれ、けれどもいざ走ると、その速さに、最初は「本気でこれでやるの!?」と笑っていた人たちも「こういうやり方もあるよね」と反応が変わってくる局面もありました。レースに挑んでみて、今後可能であればパワートレインにも手をかけ、よりパフォーマンスが出る車両ができれば、今つくっている足回りがもっと活きてくると、新たに見えてきた展望。「トロフィーは持ち帰れなかったけれど、見えないものをいっぱい持ち帰れたレースでした」。