鈴鹿8耐・プレビュー

2009.07.21
Posted on July 21, 2009 by Honda

真夏の祭典「鈴鹿8時間耐久ロードレース」(以下、鈴鹿8耐)は、日本最大のバイクイベントとして熱狂的なファンを集め続け、世界で一番勝つのが難しい耐久レースとしても知られている。“8時間のスプリントレース”とも呼ばれ、そのスピードも見どころの1つだ。世界中のライダーにとって、国内4メーカーのお膝元で行われる鈴鹿8耐での勝利は特別のものだ。多くのライダーが、この勝利のために来日して来た。だが、今年はMotoGP、スーパーバイク世界選手権と開催日程が重なったことで海外勢の参戦がなく、例年とはライダーのラインナップに変化がある。今年の鈴鹿8耐は、日本のトップチームとトップライダーがしのぎを削る原点回帰の大会であり、チームの作戦やライダーの個性が際立つことになる。

今年は3強の戦いといわれており、大本命と見られているのが#1 F.C.C TSR Hondaの伊藤真一/秋吉耕佑。加えて、#12 ヨシムラスズキ with JOMOの酒井大作/徳留和樹/青木宣篤、#634 MuSASHi RT HARC-PRO.が山口辰也/小西良輝/安田毅史らが3人体制で挑む。従来どおりの2人体制と3人体制と作戦の違いが、どんな結果を導き出すことになるのか、長く熱い鈴鹿8耐を戦い抜き、最後に笑うのは誰なのかに注目が集まる。

優勝候補の最右翼は伊藤/秋吉組。秋吉は今季ヨシムラからHondaに移籍、2007年大会で悲願の優勝をヨシムラにもたらした立役者だ。Hondaでの初レースは今年の鈴鹿2&4。予選でコースレコードを記録し、決勝でも文句なしの優勝を飾っている。伊藤と組んで参戦した鈴鹿8耐の前哨戦となる鈴鹿300km耐久ロードレース(以下、鈴鹿300km)でも優勝を飾った。日本のサーキットレコードは秋吉が持っていると言ってもいいほどで、最速ライダーの呼び声が高い。かたや伊藤はミスター8耐。3度の優勝、ポールポジション獲得は史上最多の7度の実績。全日本選手権では最高峰チャンピオンに4度輝き、全日本歴代1位の28勝を挙げている。日本のレース界を牽引してきた王者だ。これまで2人はライバルで、ペアになることは考えられなかったが、TSRのライダーとして秋吉が参戦することで実現した夢のペアだ。

秋吉は「レースを始めたばかりの頃、伊藤さんはWGP(ロードレース世界選手権)で活躍している憧れのライダーでした。鈴鹿8耐では、速いし強いし実績もあって、一番嫌なライダーでしたね。その伊藤さんと組めるのは最高」と語る。伊藤も「これまでは、自分がチームを引っ張り、ペアライダーのことも考えなければならなかったけれど、秋吉は経験もあり、速く自立したライダーだから楽ですよ。自分の仕事だけを考えられるというのはいいですね」と歓迎している。初めての顔合わせとなった鈴鹿300kmでも安定した速さは変らず、急激な天候の変化でセットアップが追いついていなかった印象はあったが、その強さは、誰の目にも明らかだった。2人でグァムにトレーニングもに出かけ、高温、高湿度でのハードトレーニングをこなして鈴鹿8耐への準備は万端だ。事前テストでも確実に勝利に向けてのテストをこなしてきた。2人が目指すのは優勝しかない。

鈴鹿8耐
鈴鹿8耐
 

Hondaに挑み続け、Honda VS ヨシムラが鈴鹿8耐の歴史を彩ってきたといっても過言ではない。そのヨシムラは全日本エースライダーの酒井を中心にラインナップを決めた。酒井は秋吉の抜けた穴を埋める急成長ライダーだ。そしてHondaから移籍した徳留をペアライダーに抜擢。徳留は今年、鈴鹿300kmと鈴鹿8耐のみの参戦ながら、鈴鹿300kmで3位に入った。同世代の2人は顔合わせ早々から意気投合し、「チームワークに問題なし」と笑顔を見せている。そこに、急きょ、スズキのテストライダーである青木が加わることになった。青木はWGPの経験もあり、スズキのマシンを知り尽くしているだけに強力な助っ人として若い2人を支える。最終テストでは「3人の納得できるレベルのマシンに仕上がった」と自信を深めている。

ハルクプロは、今季モリワキから移籍した山口をエースライダー迎えた。山口は元々ハルク育ち。さまざまなチームで経験を積み、修業を終え古巣に戻った。全日本第3戦オートポリスではハルク悲願のJSB1000優勝を飾り、ランキングトップでタイトルを狙う位置にいる。そこにST600で3度も王座に輝く小西。昨年はケガで苦しみ、今季はテストに専念して体調を整えてきた安田が加わり3人で挑む。早くから3人体制を打ち出し、入念な準備を重ねてきたハルクのチームワークのよさはトップレベル。3人は一緒にモトクロストレーニングをこなすなど信頼のきずなは固く厚い。3人がぶれることなく安定したアベレージを発揮するレベルまで引き上げたチーム力も特筆できるものがある。鈴鹿300kmはトラブルがあったにも関わらず山口/小西で2位に食い込む力を持っている。

鈴鹿8耐

(左から)安田毅史、山口辰也

真夏の祭典と呼ばれるだけあって、鈴鹿8耐の暑さはライダーにとって過酷なものでもある。ライダーの体力面だけを考えたら3人体制のメリットは大きい。だが、マシンセッティングを考えると、2人でセットアップを仕上げるだけでも困難なのに、それを3人で合わせこむというのは至難の業だ。誰かが、我慢をすることで、チームのアベレージが下がる危険がある。どちらが、戦闘力を引き上げてくれるのかは、本番で明らかになる。そして、どのチームにも言えることだが、多くのライダーに門戸が開かれた鈴鹿8耐は、さまざまなライダーが挑戦する。レベルの大きな違いから周回遅れをパスするタイミングなどに潜む転倒の危険性は大きくなっている。鈴鹿8耐は、まさに予測のできないレースだ。

そして、この何が起きるかわからないということが、プライベートチームにとっては、大きなチャンスなのだ。今年も未来のヒーローを夢見て、トップライダーに挑戦することで、自分の名を高めようと挑む者たちがいる。#2 Honda DREAM RT 桜井ホンダは3強に並ぶチームだ。鈴鹿8耐優勝経験もあるスタッフ、波乱となった全日本開幕戦筑波を制した亀谷の実力と、優勝候補の一角に挙げられる。だが、ペアライダーがなかなか決まらなかったこともあり、準備不足はいなめない。鈴鹿300kmも亀谷が1人で走った。決まったライダーはジョシュ・ブルックス。昨年、桜井ホンダのセカンドチームでの経験があり、英国スーパーバイク選手権で活躍するライダーで、短いテストでもタイムを上げた。亀谷は「8耐ウイークでさらにポテンシャルを上げる」と意気込む。上位チームの中では唯一のダンロップユーザーで、それを強みにできるようにと狙っている。

鈴鹿8耐

亀谷長純

そして、児玉勇太23才、津田一磨21才の若手コンビで注目を集めているのが、#44 ウイダーD.D.BOYS with A-STYLEの2人。児玉は、全日本については不定期参戦、津田は鈴鹿300kmと鈴鹿8耐のみだが、2人はトレーニングが趣味というほど鍛えあげており、ライバルに負けないのは「若さと体力」と粘り強い走りでチャンスをつかもうとしている。#99 テルル・ハニービーレーシングの野田弘樹はトッププライベーター、何に乗せても速さを示す駿足ライダーだ。ペアはWGP経験もある関口太郎。関口も器用なライダーで、瞬時にJSB1000マシンを手なずけてしまった。「チャンスをつかめる位置にいられるかが大事」と上位を伺う。#73 TEAM PLUS ONE & TSRの岩田悟/須貝義行/渡辺一馬は、事前テストで須貝が大クラッシュ、左肺をつぶしてしまうが、奇跡のカムバック。3人体制で挑む。渡辺は初の鈴鹿8耐参戦だが、岩田、須貝がっちりサポートし上位進出を狙っている。

鈴鹿8耐

(左から)児玉勇太、津田一磨

鈴鹿8耐
鈴鹿8耐

カワサキ系有力チームの筆頭は#5 TRICK☆STAR RACINGの井筒仁康/武石伸也/鶴田竜二。井筒は04年限りでレース界を退いたが今年復帰、チームオーナー兼ライダーの鶴田は「井筒とレース界を盛り上げたい」と奮起。全日本参戦を決意し鈴鹿8耐をメインレースとして総力をあげて挑む。ペアライダーには昨年6年ぶりに復帰した武石を起用。3人ともワークスを経験しているスターライダーであり、実力派チームとして侮れない力を秘めている。

このほかにも、多くのチーム、ライダーが真夏のヒーローの座を目指して、しのぎを削る。鈴鹿8耐の魅力は勝利だけではなく、チェッカーを受ける全てのライダーが勇者として称えられることにある。それが、何位でも、ともに協力したスタッフと、見守り応援してくれたファンと、あの8時間を戦い終えた瞬間、一体になれるのだ。トップ争いはもちろんだか、鈴鹿8耐には何位争いをしていようと、ドラマがある。自分にだけしか見えないドラマを探して、鈴鹿8耐を楽しんでみよう。今年は、シンプルに鈴鹿8耐を楽しめる要素にあふれている。

2009 Suzuka8Hours