和歌山利宏さんのベスト・オブ・8耐
2009.07.22
Posted on July 22, 2009 by Honda
和歌山利宏｜モーターサイクルジャーナリスト
1975年から84年までヤマハ発動機に在籍し、ロードスポーツモデルの開発に携わっていた。その後、レース活動に専念した期間を経て、90年からはモーターサイクルジャーナリストとして活動。国内で広く活躍しながら、海外メーカーなどの試乗活動も精力的に行っている。
1978年 第1回大会
初めて開催された鈴鹿8耐は、ジュニアライセンス(国内ライセンス)でも出場でき、マシンにも大きな制限がなく、今の「もて耐」以上に参加型で、ライダーのお祭りのようなものでした。当時、私はまだレースを始めて3年目で24歳。ワークスマシンや海外からのライダーが一緒に走っている雰囲気に妙に興奮したのを覚えています。
私とともに戦ったマシンはヤマハの市販レーサーTZ350でしたが、回転を抑えて耐久性を高めるため、ワークスマシンYZR750のシリンダを用い、TZ373として出場。数多く参戦したTZ勢がマシントラブルで離脱する中、初参戦で完走し7位に入賞。終盤、ヘッドライトが消えてピットインし、応急処置として懐中電灯をガムテープでしばり付け、その場をしのいだのも古きよき時代ならではの思い出です。
レース終了後は、花火を見ながらビールで乾杯。あの時に勝る花火の美しさとビールの味には、いまだ巡り合ったことがありません。
1982年 第5回大会
当時、ヤマハでレースに参戦できる市販4ストロークマシンは、1985年のFZ750の登場までなかったため、独自にマシンを製作。ベースをXJ750とし、シャフトをチェーンドライブに改造、TZ500の車体にそのエンジンを押し込むという狙いで、フレームを設計しました。開発期間はわずか半年。最初のプロトマシンが組み上がったのは、鈴鹿8耐が開催される3週間前でした。
予選はそこそこのタイムが出たものの、パワー差は歴然としているし、耐久性も不安。しかし、本番は台風による豪雨。パワー差と耐久性の問題が出にくく、準備にがんばってきた僕たちへの、神様からの恵みだと思いました。
最悪のコンディションでのレース。10周ほど周回を重ねた時、自分がトップだと気が付きました。それまで主役を海外ライダーに奪われてきた鈴鹿8耐で、日本人がトップを快走しているということ、また、シケインのない最終コーナーから見えるスタンドのお客さんが歓喜し、応援してくれているのが一気に伝わってきました。その時の感激は、今も強烈に残っています。
しかし、1時間を過ぎた頃から、クラッチトラブルの影響で徐々に順位が後退。最終的には4位に。1位と2位はHondaのブルーヘルメットに奪われ、今も感激とともにその悔しさを思い出します。
1982年 第5回大会（写真は優勝した飯嶋/萩原組）
1999年 第22回大会
第1回から5回までは5回連続で出場してきたが、その後は参戦の機会がありませんでした。もう一度走ってみたいという思いながら、叶わぬ夢とあきらめかけていたとき、友人からの誘いで参戦が実現。
しかし、昔と違って物理的にも高度化し、急造プライベートチームにとって準備は大変。協力を仰ぎながら、ライダーの持ち出し金額は2人で200万円というところまでいき、参戦に漕ぎ着けました(終わってみると、マシンや備品を売却したことで、その出費も必要のない健全チーム経営だった……感謝)。
鈴鹿8耐に出場するのは17年ぶり。レースそのものからも引退して10年経っており、実際のレースで走れるかどうかも不安でした。予選を通過するため、久々の本気モードの走りは正直キツかったですが、それも自分の肉体と精神へのいい刺激でした。
迎えた本番。ウオームアップから整列し、各チームのライダー紹介から続いてサイティングラップへ。そして、スターティンググリッドからチームクルーが退散し、ル・マン式スタートの秒読みが開始。気がつくと、スタートライダーにとって負担になる一連の流れを、無意識にこなしていました。この流れが、身体に染みついていたことは自分でも意外でした。
決勝レースの8時間はつらかったです。そしてチェッカーを受けた時、『もう走らなくていいんだ』という安堵感から出た涙が、ヘルメットのシールドの内側に飛び散った。
