HONDA The Power of Dreams

2位 1999年 第22回大会（優勝：#4 岡田忠之&アレックス・バロス）

過去何度か、夏の鈴鹿は雨に見舞われている。この予想外の展開こそが8耐の面白さでもある。予想外にいろいろなことが起きるといえば、よくあるのが、転倒者救出のためのセーフティカーのコースイン。これは、チームにとって燃費計算やルーティンの変更が出るため、事前に準備をしていたとしても、ピットは慌しくなり、監督からエンジニアに、すべての変更ポイントに基づき計算をし直すよう指示する必要がある。その他には、転倒やトラブルでの予想外のピットインが挙げられる。もちろん、トラブルや転倒の場合などにサーキットモニターで場内に映像が流れるので、ピットクルーも作業準備ができる。また、ピットからは、サインボードによって走行中のライダーに情報を送ることも可能で、ライダーからもマシンにトラブルが発生している場合などに決められたサインをサインマンに送ることで、チームと走行中のライダーがコミュニュケーションができるわけだ。

1999年の大会、スタート直後は加藤大治郎&玉田誠の若手コンビvs岡田忠之&アレックス・バロスのベテランコンビのし烈な戦いとなった。順調にレースが進む真夏の鈴鹿に雨が落ち始めたのは、3時間が過ぎたころだ。各チームは予想外のピットインの準備に追われ、ピットロードは騒然としはじめた。もちろん、Hondaチームも準備を整えて、走行ライダーがなんどきピットに飛び込んできてもいいように準備を整えた。チームからはサインボードで「P-in」や「BOX」の文字がライダーに伝えられる。

ピットインを待つHondaチーム、バロスは小雨が降る中を手探りながらも慎重なペースで走行を続けている。通常、ピットが整えばタイヤ交換をするのが一般的だ。しかし、一向にバロスはピットに戻らないのだ。その後、2、3、4、5ラップとサインボードを出し続けるスタッフにも焦りの表情が見える。そんな中、トップを行くバロスの後方を走る加藤がS字でまさかの転倒。加藤も雨の中でバロスを追うべくスリックで走行を続けていただけに、場内からは悲鳴が上がり、Hondaチームにも緊張が走る。すでに伊藤真一&宇川徹組は序盤で転倒、加藤&玉田組も転倒で戦線離脱しているからだ。しかし、最高峰WGPライダーであり、バロスをよく知る岡田は冷静であった。また同じくHondaワークスの司令部も同じ考えであった。「ライダーがしっかりと判断している。ライダーを信用しよう」。リスクの高い雨の中でのスリックタイヤでの走行だが、ライダーが本当にダメだと思えば入ってくる。いつピットに入って来ても万全な準備をしておく。鈴鹿8耐3連覇を狙うHondaチームとライダーに狂いは無かった。

結果、バロスは自分に与えられたスティントを雨にも関わらず完ぺきにこなし、トップポジションのまま岡田にマシンを渡したのであった。経験値が高く、お互いをリスペクトしているからこそ、難局を迎えた状況でもしっかりと走りきる、そんなプロ魂を見たレースであった。

3位 2008年 第31回大会（優勝：#11 清成龍一&カルロス・チェカ）

2004年から単身イギリスに渡り英国スーパーバイク選手権(BSB)に参戦、3年目には見事にBSBチャンピオンを獲得した清成龍一。05年の鈴鹿8耐では、宇川徹とのコンビで見事優勝。07年の鈴鹿8耐ではジェームス・トーズランドとペアを組み、優勝候補として誰もが期待していた。しかし、その年、30周年を迎えた鈴鹿8耐の優勝にかけるヨシムラ・スズキのスタートからの完ぺきともいえるレース展開に、Honda勢はついていくこともできず、清成のペアライダーであるトーズランドも交代直後に転倒、リタイアとなったのである。

そのつらい思いを1年間抱き続け、08年は圧倒的な走りで他の誰をも寄せつけないスピードを見せたのが清成であった。もちろん、元WGPライダーで、WSBでもチームメートであるカルロス・チェカに全信頼を置けるからこそ、清成も迷うことなく走りに集中できたのであろう。

人が目的に向かって努力をし、それが形になったときの喜びはなにごとにも代えがたい充実感があるはずだ。まさに、そんなレースを清成は見せたのだ。07年、ライバルチームに歯が立たなかったその差を、昨年は自ら他のどのライダーより速く、安定した走りで逆転して見せた。それはスタート直後からチェッカーを受けるまで、まるで何かを追い詰めていくような走りであった。鈴鹿8耐というレースで、毎年清成は一回りも二回りも大きくなって日本に帰ってくる。今までも何人もの日本人がポディウムに上がっているが、清成のリべンジに燃えた昨年の鈴鹿8耐の走りは忘れられないレースの1つになった。