Suzuka 8hours 2008

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2008.07.23

宮城光の鈴鹿8耐プレビュー

今週末、いよいよ鈴鹿に31回目の暑い夏「鈴鹿8耐」がやってくる。我々レースファンにとってもHondaにとってもこの鈴鹿8耐は年に1度の特別なレース。世界選手権2輪ロードレースには大きく分けて、FIMロードレース世界選手権(MotoGP)、スーパーバイク世界選手権(WSB)とFIMロードレース世界耐久選手権シリーズと3つのカテゴリーがある。

鈴鹿8耐とは、このFIMロードレース世界耐久選手権シリーズの中の第3戦にあたり、気温30℃を超える鈴鹿サーキットをスプリント並みのタイムで走る、世界一過酷なロードレースといわれている。世界中のレースファンから注目を浴びているだけに、このレースでの好結果を望む気持ちこそが各チームの「負けん気」を熱くさせている要因だ。

清成龍一

 

清成龍一

清成龍一

もちろん、このレースにかける思いはライダーたちにとっても特別。かつて、レギュラー参戦しているGPやWSBからスポットで出場して鈴鹿8耐から多くのことを学び、のちに世界チャンピオンになったライダーも数多くいる。ワイン・ガードナーやミック・ドゥーハン。ウェイン・レイニー、ケビン・シュワンツにダグ・ポーレン。スコット・ラッセルにアーロン・スライト。コーリン・エドワーズやバレンティーノ・ロッシ。加藤大治郎も2回の優勝を経験して世界チャンピオンに輝いた。

そんな、見る側も参加する側も熱い鈴鹿8耐に、今年もHondaからは多くのライダーとチームがチャレンジする。

カルロス・チェカ

 

カルロス・チェカ

カルロス・チェカ

まず参戦チームとして、最も注目したいのが#11 DREAM Honda Racing Team 11の清成龍一とカルロス・チェカ組。昨年の鈴鹿8耐でのトップ10トライアル(最終予選)で見事な走りを披露し、ポールポジションを獲得したのがカルロス・チェカ。決勝では2位に入賞して、昨年、話題のライダーとなった。しかし、彼はMotoGPライダーとして13年220戦のキャリアを持つ「仕事請負人」。今シーズンは活躍の場をMotoGPからWSBに変え、参戦1年目にして、早くもWSB第6戦アメリカGPにて、フルモデルチェンジしたCBR1000RRでダブルウィンを達成した。

6月に行われた鈴鹿8耐の前哨戦といわれる「鈴鹿300km耐久ロードレース(以下、鈴鹿300km)」ではレース後半に驚愕のラップタイムで先頭を猛追したのは記憶に新しい。結果は2位であったものの、HRCとしては多くのデーター取りをし、鈴鹿8耐へ向けての問題点を洗い出したに違いない。

決勝に向けて着々と仕上がるマシンと、百戦錬磨のチェカ。そして、その相方を務めるのが清成だ。彼については今さら多くを語る必要は無いであろう。2005年の鈴鹿8耐優勝、英国スーパーバイク選手権で2年連続チャンピオンを獲得し、今シーズンからはWSBでチェカと同じくHannspree Ten Kate Hondaに所属しチームメートとしてお互いを切磋琢磨する間柄だ。長い経験を持つチェカと短時間の中で凝縮されたキャリアを持つ清成。今季のWSBだけの成績を見ればチェカが一枚上手に見えるが、海外生活の中で年々研ぎ澄まされていく清成は、成長著しい「上を目指すライダー」だ。

1台のマシンを複数人で共有して走る耐久レースの場合、第一の問題となってくるのはライダーの好みが分かれてしまい、限られた事前テストの中で解決できないまま決勝を迎えてしまうことだ。しかし、WSBにおいて同じチームで戦う僚友として信頼関係を構築することも可能ではないか。チームメートとして、ライダーの先輩として年齢差10歳のチェカが大きな気持ちで清成を受け入れてくれるだろう。

高橋裕紀

高橋裕紀

ジョナサン・レイ

ジョナサン・レイ

そしてもう1台、#33 DREAM Honda Racing Team 33に急きょライダーとして帰国することになった高橋裕紀にも注目だ! ロードレース世界選手権250ccクラスのJiR Team Scot 250からに参戦する高橋は、小排気量マシンから大排気量マシンまでトップレーシングスピードで走らせることが可能な、貴重なライダーの一人といえる。これは、高橋が国内250ccクラスに参戦しているころから鈴鹿8耐へ出場、その次週には250ccのテストといった具合にシーズン中での乗り換えを何度も繰り返してきた経験の上に、彼自身の努力の賜物に他ならない。

世界で戦うトップライダーになった現在でさえ、GPシーズンのちょっとした時間を有効に使って帰国した際には、仲間たちとミニバイクトレーニングも欠かすことの無い努力家。余談だが、私が監督を初めて担当した03年の鈴鹿8耐、ライダーとして走ってくれた高橋は予選タイヤの経験が無く、当時スペシャル・ステージといわれたTOP15チームが走るタイムアタックももちろん初めてであった。予選本番を前にして、僭越ながら私なりのアドバイスをし、とにかく無事に1ラップを走りきってくれることを祈った。結果は、高橋自身のベストを大幅に更新、非凡なる才能を場内にいる者が感じたに違いなかった。

そのときのS字、逆バンク出口からダンロップコーナーへの見事な体重移動とマシンの切り返しは、今も鮮烈に脳裏に焼きついている。06年の鈴鹿300kmでは清成とのペアで見事優勝、今回の鈴鹿8耐は久しぶりのCBR1000RRでどんな走りを披露してくれるのか楽しみでならない!

今年、高橋とペアを組むのは、ジョナサン・レイ。昨年まで英国スーパーバイク選手権(BSB)で清成のチームメートとして活躍、今季はスーパースポーツ世界選手権(WSS)に参戦。昨年の鈴鹿8耐にはTEAM HRCのリザーブライダーとして活躍し、決勝を走ることはなかったものの、今年の鈴鹿8耐ウィークでどのように準備を整え、仕上げていくのか楽しみな一人といえる。

CBR1000RRW

CBR1000RRW

今年の鈴鹿8耐には70台のグリッドに対して82台のエントリーがある。その内、最も多くエントリーをしているのがCBR1000RRをベース車輌としているマシンで、35台がチャレンジする。市販車の性能が重要な鈴鹿8耐、ここで新しいマシンも簡単だが紹介しておこう。

CBR1000RRは、従来のモデルから完全にフルモデルチェンジし、人間の意志にダイレクトに反応する運動性能を徹底的に追求されている。大幅なマスの集中によって生み出される高い次元でのスタビリティーと、エアロダイナミクスを追求したカウル&シートでのハンドリング、カウル前面に移動したエンジンへのフレッシュエアー導入口の採用、新設計のエンジン部のクラッチ機構には、長く望まれたアシストスリッパークラッチを標準装備し、クラッチレバー荷重を軽減し、扱いやすさも実現。動力性能は前モデルを上回り、鈴鹿のサーキットのコースレコード大幅更新も夢ではない。

伊藤真一

伊藤真一

辻村猛

辻村猛

事実、先に行われたメーカー合同テストでは、CBR1000RRユーザーチームの#2 F.C.C. TSR Hondaの伊藤真一が決勝用タイヤで2分7秒台で走行し周囲を驚かせている。伊藤は今大会も03年来6年目となる辻村猛とペアを組む。伊藤は、97年と98年の鈴鹿8耐を優勝している。一昨年の06年大会は辻村とともに、プライベートチームのTSRを優勝に導き、鈴鹿8耐になくてはならない存在。それだけではない。TSRでの03〜06年4大会連続ポールポジションも激烈な印象だ。

この週末のトップ10トライアルで、伊藤が今までの記録をどこまで更新するのか楽しみにしてほしい。テクニカル・スポーツ(TSR)の代表としてチーム監督を務めるのは藤井正和氏。藤井氏は元全日本ライダーであり、私とは同期の仲だ。監督業を担当する現在、その冷静沈着なオーガナイズぶりは業界No.1といっても過言ではない。ライダーのみならず、レース界のカリスマ的存在の藤井監督ファンとしてこのチームを長く応援している人も多いはずだ。ライダー、マシン、チーム力の3つのバランスと経験が一番マッチングしているので、土曜日の午後辺りから大荒れになりそうな予感だ。

山口辰也

山口辰也

山口辰也

 

また、忘れてはいけないのが、#19 モリワキMOTULレーシング。山口辰也は昨年よりモリワキからのエントリーを開始。現在、モリワキを引っ張るライダーといえるだろう。鈴鹿8耐では総合のポディウムこそ取り逃しているが、過去7年連続トップ10フィニッシュを実現しているだけに、今年こそは表彰台に上がりたいところだ。山口自身の仕上がりも今季は順調で、全日本開幕戦のツインリンクもてぎではJSB1000クラス・デビューレースの新CBR1000RRを3位に入賞させている。

関係者の中では、新型車のデビューレースは辰也でしょ! と言われるぐらい走りへの信頼は高い。ここに、森脇社長得意の人材発掘でイギリスからカル・クロッチローとオーストラリアからジェイソン・オハローランがジョイントする。2人は鈴鹿300kmにも出場しているので、モリワキレーシング、山口とのチームワークにも注目だ。

身近なチームで親近感バツグンのチームが、ショップ系チームとして過去に鈴鹿8耐で総合優勝経験がある、#10 Team 桜井ホンダ 10だ! 東京都内に6店舗のHonda販売店を展開する桜井ホンダ、鈴鹿8耐には89年から参戦するレーシングチームとしても一流どころだ。マシンが整備されるのは本店になる「ホンダドリーム杉並」でチームスタッフは桜井ホンダ全店から有志が集まり自分たちでマシンを作り上げている。

つまり、我々が車輌をメンテナンスに持っていったときのメカさんが、そのまま鈴鹿8耐の整備やピット進行を担当しているわけだ。桜井ホンダでは毎年鈴鹿に向けて「応援バスツアー観戦」も企画しているので、身近なチームとしてぜひとも注目していただきたい!

亀谷長純

亀谷長純

亀谷長純

 

Team 桜井ホンダ 10のライダーを務めるのは亀谷長純。元々250ccのライダーだけにコーナリングスピードには定評がある。05年よりJSB1000にスイッチし、ポールポジションや優勝と、毎シーズン話題にこと欠かないレーサーだ。プライベートではとてもレーサーとは思えない優しい人柄で、多くのファンに支えられている。昨年の鈴鹿8耐では終盤6位を走りながらも、トラブルで惜しくも完走扱いにならなかっただけに、今週末は雪辱に燃える走りを見せてくれるだろう。

ペアを組むのはイギリス人のレオン・ハスラム。そう、80年代GPで大活躍した「ロケット・ロン」、あのロン・ハスラムの実息だ。父親であるロンも鈴鹿300kmには来日していたので、この週末も親子で鈴鹿登場の可能性は大。80年代GPファンには涙物のスーパーヒーローだけに、ぜひパドックパスをGetしてピットまで尋ねていってほしい。

あと、もう1チーム紹介したい! #73 急募.com team HARC-PRO.だ。本田重樹氏率いるHARC-PRO.も、これまた本当の意味でのプロフェッショナルチームといえる。全日本125ccや250cc、600ccクラスでも多くの若手チャンピオンライダーを輩出、このチームから世界に巣立っていったライダーは数多い。

しかし、鈴鹿8耐への参戦キャリアは意外にも短いが、04年からの参戦で、3年目の06年には総合2位に入賞しているから流石としか言いようがない。もちろん、ライダーの実力もすばらしい内容だ。小西良輝はかつて世界選手権GP500ccクラスにプライベートでチャレンジした、鈴鹿サーキットがホームコースの38歳の全日本チャンピオンライダーだ。ペアを組む安田毅史も、HARC-PRO.でST600クラスのチャンピオンを獲得。ともに04年の鈴鹿8耐初参戦から、本田氏の元でしっかりと信頼関係築いてきたコンビネーションだ。しかも、この2人のライダーは師弟関係ながらも本当に仲がよいだけに、安心して応援できるパッケージだろう。

以上、Honda系有力チームを紹介してきたが、ほかにもハニービーレーシングのようなショップ系チームや、専門学校のホンダ テクニカルカレッジ関西など、多くのHondaユーザーチームが全国からエントリーしているので、ぜひとも応援していただきたい。

手島雄介

手島雄介

CBR1000RRW

CBR1000RRW

鈴鹿8耐での過去最高ラップ数は02年の219ラップ。このときのライダーは加藤大治郎とコーリン・エドワーズで、VTR1000SPWの圧倒的な性能と抜群によかった燃費で通常8時間で7回ピットを6回に減らし、ピットストップでの損失タイムをなくす作戦で達成した周回数だ。そこから6年、新しいCBR1000RRでのラップ数はどこまで伸ばすことができるのか?

昨年は、ヨシムラ・スズキがレース開始直後から8時間後にチェッカーを受けるまで、一貫して攻めの走りで216ラップを周回し制した。今年、松原輝明 DREAM Honda Racing Teamプロジェクトリーダーは、優勝には217ラップが必要とし、作戦を練っているという。06年の優勝チームTSR監督の藤井氏も、そのあたりの周回数が必要と判断している。この周回数を達成するには、耐久仕様の超希薄燃焼となりライダーへの負担も増える上に、スタート直後の第1スティントでの前半は2分7秒後半から8秒台の走行になり、バックマーカーとの走行になっても9秒から遅くとも10秒中盤での安定走行が要求されてくるだろう。

どこのチームがこれを現実のものとするか! 8時間のシナリオの無いドラマに全力でチャレンジするHondaチームの応援をお願いします!

ますます熱い戦いが予想される鈴鹿8耐ですが、今年はあの世界チャンピオン、フレディー・スペンサーの来日が決定! 当日朝のオープニングセレモニーでは伝説の勇姿を見ることができる。もちろん、ほかにも前夜祭やバイクで会いたいパレードなどバイクファンお楽しみイベント盛りだくさんになっています。

私は、昨年まで5年間務めた監督から、レースウィーク中はHonda DN-01によるマーシャルライダーとして、この真夏の祭典をコース上で支えていきます。ぜひ皆さん鈴鹿でお会いしましょう!

鈴鹿8耐は、今までに30回のドラマがありました。ぜひ今年も、鈴鹿サーキットで31回目のドラマを確かめてください!

宮城光Hikaru Miyagi

プロフィール

元Hondaワークスライダー。全日本選手権および全米選手権でチャンピオンの獲得経験を持ち、4輪レースでもその才能を発揮。現在はTVなどでレース解説者を務めるほか、Honda Collection Hallに関する所蔵車両の動態確認テストを行うなど多方面で活躍。昨年まで5年にわたりチーム監督として鈴鹿8耐に参戦しています。