マシン、ライダー、チーム。三位一体の進化

2013年、24年ぶりにダカールラリーへ参戦した「TEAM HRC」は、そこで多くを学んだ。手探りだった部分が、経験したことで明快になり、確かな足取りで2014年のダカールラリーへと歩み出したのである。

2013年のラリーを終え、最初に取りかかったのはマシン作りだった。ダカールラリー2013への参戦で得たのは「ダカールはわずかな不安要素、準備不足も見逃さない」という教訓だった。既存のプロダクトであり、エンデューロモデルであるCRF450Xをベースとするのではなく、ラリースポーツ専用にマシンを開発する必要がある。ワークスチームとして戦うには、軽量化とパワーアップも必要となる。こうしてあらゆる部分が新設計された。

なかでも、ライバルのKTMラリーファクトリーが現場で見せた整備時間の短さは、TEAM HRCを驚かせた。2013年型のCRF450 RALLYは、後付けとなった燃料タンクのレイアウトがスペースを圧迫し、メカニックの作業スピードが低下。整備は連日、明け方まで続いた。2週間続くラリーにおいて、これではミスを誘発しかねない。整備のしやすさも大切な性能なのだ。また、ゆくゆくはプライベーターに向けたラリーマシンの市販を開始する上でも、基本性能の一つとして、整備のしやすさやメンテナンスの必要性が低いことは、ラリーマシンにとって大切なこととなる。

エンジンは、レギュレーションに合わせ450㏄まで、という排気量こそ不変だが、動弁系、エンジンデザイン、吸排気レイアウトなどをラリーで求められる性能に合わせて専用化。その吸排気レイアウトに合わせて、フレームボディーもデザインされた。各部のレイアウトも、素早く整備ができるように見直された。

CRF450 RALLY
CRF450 RALLY

燃料供給には2013年同様、電子制御燃料噴射装置(PGM-FI)を継続して投入。気温40℃をはるかに超えるアタカマ砂漠の砂丘群から、アンデス山脈での峠越えでラリーが入る標高5000m近い世界の気圧と気温まで。こうした場面でPGM-FIを採用したCRF450 RALLYは、大きなアドバンテージになる。パッケージの見直しと、各部をアップデートさせたことで、CRF450 RALLYはピュアなラリーマシンとして仕上がった。

チームメンバーは、12カ国から集まった36名のスタッフにより構成され、目標であるダカールラリーの優勝、そして高性能の市販ラリーマシンのリリースへと、TEAM HRCを近づけることになる。

サム・サンダーランド選手、ハビエル・ピゾリト選手、エルダー・ロドリゲス選手、パウロ・ゴンサルヴェス選手、ホアン・バレダ選手
左から
サム・サンダーランド選手
ハビエル・ピゾリト選手
エルダー・ロドリゲス選手
パウロ・ゴンサルヴェス選手
ホアン・バレダ選手

ライダーラインアップも強化された。エルダー・ロドリゲス選手(ポルトガル)とハビエル・ピゾリト選手(アルゼンチン)が2013年同様に参戦。新たに、ホアン・バレダ選手(スペイン)とパウロ・ゴンサルヴェス選手(ポルトガル)、そして2012年の最終テストにおける負傷で、ダカールラリー2013を欠場したサム・サンダーランド選手(イギリス)が加わり、5名体制となった。

これに加え、アルゼンチン・ホンダ・ラリーチームからパブロ・ロドリゲス選手(アルゼンチン)、ライア・サンツ選手(スペイン)が、ホンダレーシング・ブラジル・ラリーチームからジェアン・アゼヴェド選手(ブラジル)が、市販プロトタイプとなるCRF450 RALLYを走らせることになった。

前年同様、TEAM HRCはマシンのシェイクダウンを兼ねて10月に北サハラで行われたモロッコラリー、メルズーガラリーに参戦し、手応えを得た。こうして近い将来に市販される量産モデルにとって、特別な実験室となるラリーの本番が始まったのである。

 

2014年1月5日。TEAM HRCにとって復帰2度目となるダカールラリーは、アルゼンチンのロサリオから始まった。ラリー序盤からCRF450 RALLYはその速さを証明する。ステージ1でバレダ選手が、ステージ2ではサンダーランド選手が、そしてステージ3では、バレダ選手が2度目のステージ優勝を飾る。

エルダー・ロドリゲス選手
エルダー・ロドリゲス選手


ホアン・バレダ選手
ホアン・バレダ選手


ライア・サンツ選手
ライア・サンツ選手

バレダ選手は総合順位でのトップをキープし、2014年のダカールをリードし始めた。他方で第3ステージにおいて、TEAM HRCのサンダーランド選手とゴンサルヴェス選手は、地形を巧みに使ったラリーの罠にかかり、2時間近くミスコース。これで上位争いから離脱することになる。

4日目のリエゾンステージ中、サンダーランド選手のマシンがエンジントラブルにより、また、アゼヴェド選手はエンジン下部を強打したことにより、リタイアを余儀なくされる。

そしてチレシトからサン・ミゲル・デ・トゥクマンへと向かうラリー5日目、ゴンサルヴェス選手のCRF450 RALLYのエンジン部分に、コース上にある低木の枝が入り込み、それが原因で車両火災が起こるトラブルが発生。50℃近い気温と乾燥した気候がもたらすダカールのいたずらだ。これでゴンサルヴェス選手は戦列を離れることになる。この日、マシン火災はほかにも発生し、ラリーが持つ多面的な要素が浮き彫りになった。

この砂のステージでバレダ選手もミスコース。マルク・コマ選手(KTM)に40分以上のリードを与えることに。このリードは優勝経験が豊富なコマ選手とKTMファクトリーチームにとって大きなマージンとなり、展開はマネージメントされていく。

その後も、バレダ選手とTEAM HRCのCRF450 RALLYは随所で速さをみせ、ラリー終盤のステージ12で猛アタックを仕掛けるも、転倒によってマシンが大きくダメージを受けてタイムをロスしてしまう。最終的に、TEAM HRCはエルダー・ロドリゲス選手が5位、バレダ選手は7位、ピゾリト選手が23位。アルゼンチン・ホンダ・ラリーチームの女性ライダーであるサンツ選手が市販プロトタイプのCRF450 RALLYを16位でフィニッシュラインに運び、パブロ・ロドリゲス選手が32位でラリーを終えることになった。

マシンにトラブルが多発した復帰初年度と比較すると、ダカールラリー2014におけるHondaは、13ステージのうち6ステージで優勝を果たすなど、マシン性能が飛躍的に進歩したと言える。これにより、チームとしても勝利に向けた戦略を立案、遂行可能となったことが昨年からの進歩であり、2015年へと続く確かな成長となった。また、TEAM HRCが参戦するまでは、ダカールラリーに参戦する大多数のトップライダーたちが、ペナルティータイムが加算されるのを承知の上で、エンジンを交換するという戦略を採っていたのに対して、CRF450 RALLYが2年連続でエンジンを無交換で完走した点は、翌年以降のHondaにとって大きな収穫だったと言える。

しかし同時に、ダカールラリーで勝つためには、速さを継続的に維持しながら、短期的な総合順位でのトップを守るという戦略だけでなく、2週間の戦いの末に待つフィニッシュラインで1位にいるという、長距離マラソンでのゲームメイクが求められる。ライダー、マシン、チームが三位一体となり、さらに前進する必要があると痛感したのである。

Reports & Results - Honda Dakar Rally 2014
  •  レースレポートリザルト
  • 第1ステージ
  • 第2ステージ
  • 第3ステージ
  • 第4ステージ
  • 第5ステージ
  •  レースレポートリザルト
  • 第6ステージ
  • 第7ステージ
  • 第8ステージ
  • 第9ステージ
  • 第10ステージ
  •  レースレポートリザルト
  • 第11ステージ
  • 第12ステージ
  • 第13ステージ
PAGE TOP