NSX-GTが「NSXであること」の強さ。

“勝てるマシン”を生み出すための魔法など存在しない。積み重ねた経験とこだわりの技術をもとに挑み、結果として“勝てるマシン”にたどりつく。それが、勝利に向かうただ一本の道となる。
重量物を可能な限り車体の重心に近づけ、かつ低い位置に載せる。ボディは軽量高剛性。エンジンは、パワーと扱いやすさと信頼性をも兼ね備えなければならない。はるかな限界と優れたコントロール性を両立するシャシー。最大限のダウンフォースを得ながら、ドラッグを極力削り込んだ空力。この理想に、どれだけ近づくことができるのかが勝負を分ける。

SUPER GTでは、ベースとなるモデルの素質もものを言う。NSX-GTのベースとなるのは、世界を驚愕させたスーパースポーツカーNSXだ。1990年に生まれたHondaのフラッグシップスポーツであるが、2005年に生産を終えるまで15年にわたり世界の最高峰に立ち続けた名機である。
NSX-GTは、1997年の参戦開始以来、自然吸気エンジンの優れたドライバビリティと、リアルスポーツカーならではのミッドシップレイアウトを活かした高いコーナリング性能を最大の武器としている。市販のNSXゆずりであるその“最大の武器”を継承し続け、国内屈指のレーシングコンストラクターである童夢の熱きノウハウを注ぎ込み進化させ続けている。参戦以来12年を経てもなお、高い戦闘力を保ち続けている事実をみても、レーシングマシンのベースとして、NSXが類い希なる素質を有していることの証明であると言えよう。

参戦当初からNSX-GTプロジェクトに関わっており、NSXの強さを知り尽くしている童夢レーシングチームの中村 卓哉監督は、レギュレーションが大きく変わった今も、その強さの源は“NSXであること”だと語った。
「NSXに10年以上も関わり続け、もういい加減やりつくしただろうと思っても、レーシングカーとしての完成度を高めるためのアイデアは尽きない。まだまだやれることがあるんだな、というのが実感です。自分でやっていて言うのも変かもしれませんが」。

NSX-GTのチーフデザイナーでもある中村監督は、マシンの設計を行うとき、まず全体のパッケージングをフリーハンドで描くのだという。

「あとから『やっぱり足りないものがあったから付け足そう』というのでは、バランスの取れたパッケージングにはなりませんから」、と中村監督。手描きのデッサンに、あらゆるコンポーネントの配置を含め、アイデアを埋め込んでいく。そしてフレーム、サスペンション、エンジン、電気系統、安全装備…。それらがすべて機能的に、かつ美しく収まるようにレイアウトするのだ。レーシングマシンは、サーキットを走るためのすべての機能を含めた、トータルの完成度が何よりも大切だからだ。

ベーシックな部分に手を加えていこうとすればするほど、ベースとなったマシンの素性が活きてくる。たとえば、タイヤの性能を引き出すための重量配分であれば、軽量なアルミモノコックボディがその設計に自由度を与えてくれる。
空力性能には、“スーパースポーツ”と呼ぶに相応しい、シルエットそのものが貢献。レーシングカー全体のパッケージングということを考えたとき、“NSXであること”は大きな武器となりうる。
思い切った設計を許容する、懐の深さがあるのだ。2008年のNSX-GTは、ダウンフォースの強化、冷却系統のリファインによるエンジンの信頼性向上、慣性モーメントの低減といった課題に取り組む中で、サスペンションやギアボックスは“普通ではない、オリジナリティあふれるレイアウト”を採用するに至ったという。

2年連続のダブルタイトル獲得を目指して走るNSX-GTには、まだ多くの進化が用意されている。第3戦の予選で、独特のエキゾーストノートを響かせた1本出しエキゾーストはその一例。
空力パーツも、経験と実績をもとに、さまざまなトライが続けられている。

数々の独創をその内側に秘めながら、あくまでも美しいボディワークを保ち続けるNSX-GT。サーキットで、そこに至るまでの長い道のりに想いを馳せていただければ、レース観戦はより味わい深いものになるはずである。