Hondaは、日本という国名よりスポーツカーの聖地で知られていた。高橋国光 Hondaスポーツカーの思い出といえば、やはりS600やS800が印象に残っていますね。僕はS600が出た頃、Hondaのワークスライダーでした。Hondaがつくったレーシングバイクに乗り、世界のサーキットでHondaの高回転型エンジンのすごさを存分に味わっていたわけです。
僕が日本人としてはじめて世界GPで勝ったのが1961年。Hondaが世界GPに参戦して3年目のことでした。2ストロークエンジンを搭載した他のマシンの追随に、1961年に世界GPでチャンピオンに輝いたHondaは4ストロークエンジンを高回転化して対向したのです。だからすごかったですね。Hondaの二輪レーサーのエンジンは、突き抜けるように回るエンジンでした。

HondaのSシリーズは、その二輪レーサーのエンジンを彷佛させるエンジンを搭載したスポーツカーです。ダブルオーバーヘッドカムシャフトで10,000rpmぐらい回るエンジンなんて他のクルマでは見当たらないわけですよ。
それにとてもコンパクトで、まさに二輪のようなエンジンだった。音もあきらかに他のクルマと違う。チェーンドライブの音も印象に残ってますね。「シャリ、シャリ」といった独特の走行音だった。
まだ日本のクルマはサイドバルブやシングルオーバーヘッドカムシャフトの時代でしたから。エンジンも大きいし、Hondaほど回らないわけです。
日本のなかで、いや世界のなかでもS600やS800は、すごく珍しいスポーツカーでした。まるでオモチャみたいに小さいボディもよかったな。とにかくいきなりDOHCの高回転エンジンを積んで、しかもオープンのスポーツカーで四輪に進出しはじめたところにHondaらしさを感じましたね。

Hondaが時計のように精巧なエンジンをつくって、マン島TTレースや世界GPで勝ちはじめたとき、僕らは日本人として大変誇りを感じました。ヨーロッパを回っていても注目を集める存在でした。そのときヨーロッパの人は、「日本」というより、われわれを「Honda」として認識していましたね。「Honda」という一メーカーの名前は、その当時「日本」という国の名前より、スポーツカーの聖地であるヨーロッパでは知られていたのではないでしょうか。

日本は敗戦を経験した国であり、なんとなく悪者にされてしまったような、そんな時代において、Hondaの二輪レースでの躍進やSシリーズの人気は、日本人として心強かった。ヨーロッパを転戦する身としては助かったという思いがありますね。われわれレーサー以外にも、日本人の方が海外に行ったとき、Hondaのおかげでいろいろな面で勇気づけられたんじゃないかと思いますね。

僕には、Hondaの思い出が大きくわけて2つあるのです。その2つは、両方とも日本人として誇りを持つことができた思い出。ひとつは、前回お話した4輪の痛快なスポーツカーであるSシリーズの世界的な人気や2輪レースでの活躍、そしてもうひとつは、NSXの思い出です。
1995年、ル・マンにNSXで出場してクラス優勝したこと。これは僕のレース人生のなかでもとても大切な思い出として胸に残っています。
日本が誇るNSXというスポーツカーで、日本人のスタッフで、日本人のドライバー。オール日本のチームでル・マンの表彰台の真ん中に立つことができた。これはすごく価値のあることだと思います。
NSXの抜群の信頼性と高いパフォーマンスもさることながら、土屋圭市選手と飯田章選手の頑張りもすごかった。優勝してみんなで心から泣けた。あんな経験をしたことはありません。感動のレースとして今も僕の胸のなかで、鮮やかに思い出されます。
あのときは、日本に帰ってから十勝24時間レースでも勝ち、そのノウハウを活かしたGTマシンがその後大いに活躍しました。GTマシンのなかでは群を抜いたカッコよさも魅力です。低重心、ミッドシップ、空力のよさなどNSXの基本性能の高さが、GTマシンのメリットとして活かされています。
とにかくNSXというクルマは、世界に誇れる日本のスポーツカー。クルマ自体だけでなく、NSX fiestaなどオーナーが集ったり、サーキット走行を楽しむ活動も活発で、スポーツカー文化の牽引役としても日本を代表するスポーツカーだと思います。NSXに誇りを持って乗っている参加者の顔を見ると、自然と顔がほころんでいる自分に気づきます。僕も長い間所有していましたから。
Hondaは、レースを通じても、スポーツカーを通じても、日本人が誇れるような一本筋の通った活動を行うメーカーとして僕の思い出に残っています。青春の日に、レース界で生きていく僕の人生を決定づけた存在と言っても過言ではありません。
(SPORTS CAR Web 思い出のHondaスポーツより)
高橋 国光 プロフィール
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