NSXは、本物を知る大人が、カフェレーサーになりきれるこの国の希有なるスポーツカー。鈴木亜久里 NSXは、まぎれもなく世界第一級の性能を持つリアルスポーツカーだ。全日本GT選手権のベース車両として高いパフォーマンスを示したりドイツのニュルブルクリンク24hレースで活躍したように、リアルレーサーとして高いパフォーマンスを持っている。
ワインディングを走るのにも楽しいし、高速道路を飛ばすのも気持ちがいい。昼間見るNSXは、洗練されたスポーツの顔を持つ。しかし、NSXの魅力はそれだけではない。皆さんは、夜、NSXを持ち出して走らせてみたことはあるだろうか。郊外に走りに行くためでもなく、もちろん環状高速を走りまくるためでもない。
都会の街を眺めながら流したり、お気に入りの店に出掛けたりするためだ。たとえば、たった一杯のコーヒーを飲みに行くためにNSXを走らせる。本物を知る大人が、カフェレーサーになりきれるこの国の希有なるスポーツカー。ライフスタイルを演出する粋な道具として使う。それがNSXを所有するもうひとつのよろこびではないだろうか。

スポーツカーは生活に必要不可欠なものではない。所有していなくても、何ら困ることはない。そんなクルマをなぜ所有するのか。
それはカッコいいからだよね。自分のライフスタイルをカッコよく演出する。純粋な走り以外にスポーツカーを所有するよろこびはそれしかない。大切なのは、スポーツカーありきのライフスタイルではなくてはじめに自分のライフスタイルがあって、そのなかにスポーツカーがあるということ。所有の仕方として、この順序が大切だと思う。
だから、かっこよくスポーツカーに乗るには、スポーツカーだけカッコよくてもだめ。まず生活がカッコよくなければ。スポーツカーはあくまでもライフスタイルを演出する道具であることを認識すればもっとカッコよく乗れると思う。
行く場所もそうだし、隣に乗せる相手もそう。流す場所も大切。ライフスタイルへのこだわりがあると、カッコよくスポーツカーに乗れる人になる。
NSXは夜の華やいだ場所に似合う日本では希有なクルマ。このクルマなら、一流の場所に行ってタキシードを着ていても似合う。スポーティな服を着て乗り込み、カフェレーサーを気取るのもいい。僕としても、NSXならカフェレーサーとして申し分ない。
夜、NSXで出かけるときは、着る服はもちろん、どの道を通るかどの店に行ってどこに停めるかまでこだわりたい。ドライビングポジションも、ワインディングを走るときは変えたいね。そしてショーウィンドウに映るNSXと自分に酔う…。思いっきりナルシストになって、ヒーローになりきる。それくらい陶酔できるクルマ。最後に重要なポイント。NSXに乗って夜の街を流すならゆっくりとしたヒール&トゥで交差点を曲がれるくらいのドライビングスキルを身につけていることは欠かせないだろうね。
( NSX Press vol.30より [2003年] ) 新型NSX-Rは、ひとことで言うと“非常によく仕上げられたレーシングカー” ものすごく乗りやすいからサーキットで速い。新型NSX-Rは、ひとことで言うと“非常によく仕上げられたレーシングカー”のようなクルマです。
レーシングカーでは、「よく仕上げられたマシン」=「乗りやすい」=「速い」という方程式が成立します。新しいNSX-Rは、その方程式にあてはまるクルマだということです。
乗りやすいということは、自分のマシンと闘う必要がないことを意味します。一般の方にはわかりにくいかも知れませんが、バランスの悪いレーシングカーに乗ると、サーキットや他のドライバーと闘う前に、まず自分のマシンと闘わなければならない。特にF1では、マシンのレベルが高いのでそれが顕著になります。ブレーキを踏むとリアの挙動がナーバスになったり、コーナリング時にアンダーステアが強くて曲がらないといったマシンの持つ素性の悪さと格闘しなければならない。“ねじ伏せる”といったらカッコよく聞こえますが、レーシングドライバーは自分のマシンをねじ伏せるのではなく、競っている相手をねじ伏せなければならないわけです(笑)。

しかし、よく仕上げられたレーシングマシンは、乗りやすくて自分の手足のようになる。そうするとドライバーは自分のマシンと闘わなくて済む。つまり、ドライバーの本来の仕事である相手とのバトルに専念できるわけです。
新型NSX-Rは、高速コーナーでもタイトな低速コーナーでも、アンダーステアやオーバーステアがまったくと言っていいほど顔を出さない。これはすごいことです。こんなスポーツカーに今まで乗ったことないですね。通常、高速に合わせたクルマは低速が苦手だし、低速に合わせると高速でアクセルを踏んでいけなくなることが多い。なのに新型NSX-Rは、どんなシチュエーションでもステアリングを切ったら切った分だけ曲がってくれるし、立ち上がりでアクセルを踏んでも挙動が乱れることなく、前にクルマが進んで気持ちよく立ち上がってくれるわけです。ほとんどニュートラルステアなんですよ。

これは、ダウンフォースで高速を良くした分、サスペンションセッティングで低速のタイトコーナーを気持ちよく曲がるようにしているからなんですが、そのテイストがすごくいい。よくまとまってるな…って感じますね。高いスピードでもツインリンクもてぎの130Rを安定して曲がっていきますし、続くタイトコーナーでもアンダーステアがまったく出ない。その上、レーシングカーみたいにロール感が少ないのに乗り心地が硬くない。路面のアンジュレーションを吸収して乗りやすいのにも驚きました。
( NSX Press vol.28より 抜粋[2002年] )
鈴木亜久里 プロフィール
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