
土屋圭市は、歴代のNSXをプライベートスポーツカーとして選択している。
デビュー当初、彼は美しいスタイリングに惚れ込み、初代のNSXのオーナーとなる。その後、初代のNSX-Rにさまざまなカタチで乗る機会を得て、NSXのリアルスポーツが本物であることを知る。
そして、1997年にデビューしたNSXタイプSのオーナーに。プロドライバーでも存分に走りを楽しめて安心感も高い、ワインディングベストのNSXに惚れ込んだのだ。
そして今。彼は、カーボンの空力パーツを身に纏い、前後マイナスリフトを武器とする生粋のリアルスポーツカーのオーナーとなった。2代目のNSX-Rである。彼は、Hondaが情熱を注いで開発したこのクルマを、「21世紀のミッドシップスポーツ」と評した。それこそ世界のありとあらゆるスポーツカーの乗り味を知る男が、「NSX-Rに乗ったら、他のスポーツカーには乗れない」と絶賛した。以下は、自らのプライベートカーであるNSX-Rに乗って、あるサーキットにやってきた土屋に聞いたコメントである。
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世界で一番いいスポーツカーに乗りたいという気持ちから、僕はNSX-Rを買うことにした。これは本心。仕事でポルシェやフェラーリといった世界の頂点のスポーツカーをとことん走らせていてそのテイストは知り尽くしている。
一方で開発段階からインプレッションを行っていたNSX-Rも知り尽くしている。それでたどりついた答えがNSX-R。
世界一のクルマと比較して、どうせお金出して買うんならこのクルマしかないと。それが答えだった。Hondaには申し訳ないけど、テスト=マイカー選びができた(笑)。
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スポーツカーというとスペックに注目しがちだけど、スペックのよさが走るよろこびに直結するとは限らない。一線級のスポーツカーなら、感動できるパフォーマンスはどのクルマも十分に備えている。要はそれを楽しめるかどうかが重要。
僕は、速いだけのスポーツカーなら欲しくはない。こだわりたいのは、そこに幅広い安心感があり、走らせることを楽しめるクルマであるかどうかということ。そういう意味でNSX-Rはダントツ。まさに世界の頂点に輝くスポーツカーと言っていい。正直、他のクルマは高い速度で不安になった。
初代のNSXは、スタイリングが気に入って手に入れた。それを自分なりにリファインして乗っていたんだ。それから初代のNSX-Rが出て、Hondaのリアルスポーツの走りは本物だと僕の中で判断できた。
次にエンジンが3.2リッターになったとき、NSXはまたいち段と良くなった。エンジントルクとボディ剛性、シャシー性能が絶妙にマッチしたと思う。それでタイプSを購入した。このNSXは、プロドライバーのレベルでも存分に走りを楽しめて、それでいて安心感も高い。街乗りでも十分に乗り心地がいい。こんなミッドシップはこれまでなかったと思って購入したんだ。
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新しいタイプRは、乗り心地がどうだとか考える前に、圧倒的な走りの楽しさに心を奪われるスポーツカーだった。NSX-Rをはじめてテストで走らせたとき、「街なかも乗れるだろ」、「サーキットも速いし楽しいだろ。何も不満はないはずだ」とクルマ側から有無もいわさず訴えかけてきた。楽しくて、走り込むほどにどんどんのめり込んでいく。「これは買うしかない」と、NSX-Rをテストで走らせながらすでに心のなかで決めていた。
初代のタイプRは、あれでよかったと思う。ジャジャ馬的だったけど、「HondaのタイプRはこうなんだ」と強烈に訴えるものがあった。まさにサーキット専用チューン。尖りに尖ったスポーツカー。HondaのタイプRブランドを立ち上げるにふさわしいスポーツカーだった。
でも今の時代はそれだけじゃ済まなくなっている。実際、タイプRといえども街なかを走る割合の方が多いわけだからコンセプトの進化は当然のこと。街なかから違和感なく乗れる、でもサーキットに行くとすごい!という方向性に必然的に進化したと言える。その進化は実に大歓迎で、僕みたいなレーシングドライバーがさっそく飛びついてしまった。それほどNSX-Rは魅力的なスポーツカー。
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今年のGTマシンは、空力を進化させて強烈に速くなった。NSX-Rの走りも、空力に注目することで驚くほど変わった。
鈴鹿サーキットで言えば、1-2コーナー、S字の切り返し、デグナー、スプーン、130Rでの安定感、旋回性のよさが明らかに今までと違う。そのレベルは、今までのNSXと別のクルマといっていいほど。
鈴鹿のセッティングは、レーシングカーでも難しいんだけど、NSX-Rは高速コーナーで安定しているのに低速コーナーもよく曲がるし、S字での舵の効きも抜群。本当に言うことない。もちろん公道でNSX-Rの性能を100%引き出すチャンスはないけど、それほど優れた性能のクルマに乗っているという安心感と優越感、それがスポーツカーでは大切だと思う。NSX-Rに乗って、そういう優越感に思いっきり浸りたいね。
NSX-RとNSXのGTマシン。僕はどちらもよく知っているけど、空力を突き詰めたという点では相通ずるものがある。ともにクルマの性能を高める王道を真面目に進化させたと言える。両方ともすごく運転しやすいしパフォーマンスも高い。僕にとってGTマシンは仕事のためのクルマで、NSX-Rはプライベートのクルマ。NSXは仕事でもプライベートでも僕を満足させてくれるクルマだと言える。
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ドライビングについては、何も教えることがないぐらい。とにかくどんなコーナーでもニュートラルステアで思いどおりに曲がっていくし、ターンインから立ち上がりまで不安な挙動を示さない。だから、思いっきり自分なりに楽しんでくださいと。オーナーになる人にはそう自信をもってアドバイスしたいね。今までは、ミッドシップとして操縦性に優れている反面、過敏さはどうしてもあった。20世紀のミッドシップのスポーツカーとしてそれは当然。
でも、21世紀のNSXはすごく進化していて、その究極のモデルとしてNSX-Rが誕生した。鋭い操縦性をそのままに、安心感というすごい価値をミッドシップスポーツカーに与えた革新的なクルマ。それがNSX-R。
エンジンの環境性能も高いレベルにあるし、NSX-Rが登場してくれたおかげでスポーツカーの未来がさらに明るくなったと言えるね。
NSXはオールアルミボディだし、つくりもしっかりしているから上原さんが言っているように長持ちする。NSXオーナーの方には、今乗られているNSXを大切にして欲しいと思う。
( NSX Press vol.29 [2003年]の原稿に加筆 )