V4エンジン、その35年にわたる技術の変遷と、挑戦の物語

Force V4の極み

RCV1000R 2014オーストラリアGP(青山博一)

世界一操りやすいマシンRC213V-S

RC213Vのオリジナルに忠実に設計されたRC213V-S。同じくRC213Vから生まれたRC213V-RS(旧RSV1000R)とは、一卵性双生児のような関係だ

RC213Vのオリジナルに忠実に設計されたRC213V-S。同じくRC213Vから生まれたRC213V-RS(旧RSV1000R)とは、一卵性双生児のような関係だ


純度を落とさずに採用したレーシングテクノロジーと、精度にこだわった製造手法によって実現したその内容は、まさにRC213Vの公道仕様である

純度を落とさずに採用したレーシングテクノロジーと、精度にこだわった製造手法によって実現したその内容は、まさにRC213Vの公道仕様である


これまでのようにレース参戦で得た技術のフィードバックで形作ったのではなく、MotoGPマシンそのものを一般公道で走らせようという、新たな発想によって開発された特別なモデル、それがRC213V-Sだ。Hondaは“速いマシンは、扱いやすい”ことがレースで勝つための重要な要素であるというフィロソフィーを持っており、その考えに基づいて、“世界一速く走るマシン”であるRC213Vから生まれた、“世界一操りやすいマシン”として、RC213V-Sは設計・開発されたのである。

その開発においては、RC213Vの市販バージョンであるRCV1000Rを直接のベースとし、徹底したマスの集中化、フリクションの低減、そしてMotoGPマシンの手法を用いて使用部品の軽量化と加工精度を妥協なく徹底的に追求。その製作現場ではMotoGPマシンに用いられる“高度な技能”を全て踏襲し、完成車の組立もすべて選ばれた専任スタッフによる手作業で行なわれた。

エンジンは、Hondaの市販車では久しぶりとなるカムギアトレインを採用した90°V型4気筒で、RC213Vと基本構造を同じにする高精度なもの。RCV1000R同様にバルブ駆動をコイルスプリングに、トランスミッションをコンベンショナルな方式に変更した以外は、ほぼそのままRC213Vのエンジン構造とテクノロジーを搭載している。また、動力性能の再現だけではなく、マシンとしてのパッケージングとRC213Vの持つライディングフィールを限りなく再現することも必然的な目的であり、車体はほぼRC213Vと同じ物を与えられている。

このように、一般公道を走るために必要最低限の変更と保安部品の追加を行なっただけのMotoGPマシン、それがRC213V-Sの本質である。加えて、サーキットなどのクローズドコースにおいて、このマシンが持つ本来のポテンシャルを解き放つ「スポーツ・キット」を設定し、RC213Vだけが知っている走りの世界と呼ぶべき高い次元での走行を可能としているのだ。