モータースポーツ > ロードレース世界選手権 > Honda Force V4 Story > 高性能かつローコストの市販レーサー
2013年にマルク・マルケスが駆ってチャンピオンを獲得したRC213V。そのポテンシャルをフルに反映させて設計し、14年に販売した市販レーサーがRCV1000Rだ。
メーカーが独自に開発したECU(Engine Control Unit)ソフトを使用するファクトリーマシンにはさまざまな制限が設けられ、これとは別に主催者の供給する公式ECUキットを使用する「オープンカテゴリー」が新たに創設されたことを受け、RCV1000Rが開発された。パフォーマンス面で大きな差があったファクトリーマシンとそれまでのCRTマシン(フレームビルダーの車体と量産車エンジン)の隔たりを埋めると同時に、高性能でありながらもコストを抑えることが目的で、プライベートチームにもより高い競争力を提供しようという構想に基づいている。
したがって、RCVの車体構成やジオメトリーなどはRC213Vのスペックをほぼそのまま踏襲しているが、最高出力175kW以上/16,000rpmの90度V型4気筒999.5ccエンジンは、公式ECUソフトを使用し、吸排気バルブの駆動方式とコンベンショナルなトランスミッションを採用した新設計である(RC213Vはエア駆動のニューマチックなのに対し、RCV1000Rはスプリング)。RC213Vのノウハウを可能な限り高い純度で投入しながら、車体各部には普遍的な材料や構造を取り入れることでローコスト化を図ったのだ。
14年シーズン、RCV1000RはHonda系サテライトおよびプライベートチームの3チームに販売され、青山博一、ニッキー・ヘイデン、MotoGPルーキーのスコット・レディングら5人のライダーがこれに乗った。この中でレディングと青山がほぼ全戦でポイントを獲得したが、ファクトリーマシンの壁は厚く、シーズン最高位はレディングの7位、シリーズランキングはレディング12位、青山14位に終わっている。
そして、最終戦では15年のオープンカテゴリーマシンとしてRCV1000Rを進化させたRC213V-RSが登場した。RC213V-RSは新たにRC213Vと同じニューマチックバルブを採用し出力の向上を図っており、15年はこのマシンを3チーム・5人のライダーが走らせた。しかし、ライバルメーカーのオープンカテゴリーマシンが、前年から軒並みファクトリーマシンレベルの仕様にしたのに対し、Hondaは実直にローコストを追求したたため、残念ながら成績は低迷した。
つまり「最新ファクトリーマシンの戦闘力を市販レーサーとしてリアルアイムで提供し、ひとつでも多くの歓びを創造する」という目的に対し、かたくなであり過ぎた結果とも言える。しかし、このオープンカテゴリーマシン開発における確かな成果として、RCV1000Rをベースに開発されたRC213V-RSとほぼ同時に、公道走行用市販車RC213V-Sが誕生したことをあげておきたい。そこには、Force V4の“未知なる領域へと果敢に挑み続ける力”が確実に息づいていた。
トップエンド性能を狙うV4とは別にもうひとつ、1985年のRVF750をルーツとし、30年近い年月によって熟成されて来た「Force V4」がある。それがVFR800Fだ。
2014年、スポーツツアラーとして高い評価を得ていたVFR800Fが、バランスの高いパッケージを最新テクノロジーでリファインし10年ぶりに復活した。“大人のスポーツバイク”をコンセプトにVFR800Fの原点を見直しつつ、10年分の技術的進化を与えて高いスポーツ性と優れた利便性を実現。アルミツインチューブフレームと片持ち式スイングアームの車体は、大幅な軽量化と剛性の最適化によって、高速巡航時の安心感とワインディング走行時の軽快感を両立している。
伝統の90度V4エンジンは、HYPER VTECの採用と吸排気系の見直しを行い、V4らしいトルクフルな性能をそのままに、加速時における独特の鼓動感と滑らかなエンジンフィールを実現。また、LEDヘッドライトやTCS(トラクション・コントロール・システム)、前後輪の速度差で制御を行うウインカーオートキャンセラーなどの最新制御システムを採用するなど、先進テクノロジーとV4伝統のテクノロジーを高次元で融合させている。