モータースポーツ > 世界ツーリングカー選手権 > WTCC 開発プロジェクトリーダーレポート > Round 1 - Round 5 念願の優勝とトップチームの宿命

WTCC 開発プロジェクトリーダーレポート

Round 1 - Round 5 念願の優勝とトップチームの宿命

Civic WTCC開発プロジェクトリーダーの堀内大資です。所属は本田技術研究所モータースポーツ開発室で、2012年にWTCCへの参戦を決める以前から、1.6リッター直噴ターボエンジンの開発に携わっており、参戦を正式に始めたときから、プロジェクトの開発リーダーを任されています。 2013年シーズンも、すでに5大会10戦が終わりました。ここで、これまでの開発の経過やレースの状況などを振り返り、ファンの皆さまにWTCCのおもしろさや、華やかなレースの裏側で起きている激しい戦いをお伝えしたいと思います。

WTCCのエンジンとは

まずは、WTCCで使用されるエンジンについて、簡単にお話ししたいと思います。

WTCCで使用されるエンジンは、FIAのスーパー2000規定に則ったもので、中でもGRE(グローバル・レース・エンジン)と称される1.6リッター直噴ターボエンジンが現在の主流です。エンジンに関する規定をご説明しましょう。排気量は1600cc以下で直列4気筒、燃圧200bar以下の直噴方式で、エンジン回転数は8500rpm以下と定められています。ターボはFIA公認のギャレット製の装着が決められており、過給圧は2.5bar以下です。このターボチャージャーは年間で6個までしか使用できません。ピストンやコンロッドなど多くの部品は、寸法や重量が決められており、エンジンの重量も82s以上と、細かな部分まで規定が及んでいます。そして、使用できるエンジンは年間1基です。トラブルやクラッシュなどでエンジンを交換する際には、ペナルティーを科せられる場合もあります。

これだけ規定が詳細にわたり、エンジンが年間1基しか使えないことが前提となると「シーズン中はエンジン開発ができないのでは?」と、思われるかもしれません。確かに、エンジン本体は仕様を変えることができないため、抜本的な変更はできませんが、ターボやALS(アンチラグシステム)、燃料噴射などの制御コントロールは常に調整できますし、リストリクターより前のインテークと、ターボ以降のエキゾーストは改良でき 、我々は常に性能向上の努力をしています。

ALSはスーパー2000規定で装備が許されているシステムです。通常ターボは、アクセルオフしたときには回転が落ちます。そのため、次にアクセルを踏み込んだ際、ターボの回転が上がるまでにタイムラグが生じます。これをターボラグといい、ターボが効いてエンジン出力が上がるまでに時間がかかってしまうのです。このターボラグを少なくし、クイックなレスポンスでパワーを得るために考えられたのがALSです。アクセルオフ時にALSバルブを開き、酸素を含んだ吸気を直接排気管へ送り込みます。ここでエンジンから出てきた未燃焼のガソリンを燃焼させ、その爆発圧力によってタービンは高回転を維持し、アクセルがオフのときでも過給圧を保つことができます。排気管やターボ周辺が非常に高温になることから、未燃焼のまま出てくるガソリンの量と、送り込む空気の量を調整する必要があります。

また、このエンジンは、リストリクター(WTCCはφ33mm)によって空気の吸入量が制限されています。最高回転数は8500rpmに制限されていますが、実際には吸気がリストリクターによって制限されているため、300ps強のピークパワーは6000rpm程度で発生しています。このため、回転数を上げてパワーをかせぐ昔ながらの方法ではなく、一定の回転数で燃焼効率を極限まで高めることが、エンジンの性能を高める上でとても大切です。また、超接近戦が展開されるWTCCでは、エンジンの出力がドライバーの要求したぶんだけ瞬時にアウトプットされること、いわゆるドライバビリティーの向上も重要なファクターです。これらをよくするために、点火時期を含めた制御コントロールをサーキットごとに細かく調整します。

エンジン本体は、ホモロゲーションで承認されたものから変更できませんが、吸排気やこれらの制御系を向上させ、トータルでの性能を常に高めていくことが、WTCCにおけるエンジンのポイントとなります。

Back to INDEX
  • 前へ
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6
  • 次へ
PAGE TOP