ニューヒーローの誕生

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4年越しで成し遂げた悲願の勝利

4年越しで成し遂げた悲願の勝利

混戦となった2016年シーズン

Hondaにとって、MotoGPクラスへの参戦50年目となった2016年。3連覇をかけて挑んだ15年シーズンでは惜しくも涙を飲んだRepsol Honda Teamは、この記念すべき節目に王座へ返り咲くべく、16年型「RC213V」を用意。このワークスマシンを、マルク・マルケス(Repsol Honda Team)、ダニ・ペドロサ(Repsol Honda Team)、カル・クラッチロー(LCR Honda)、ジャック・ミラー(Estrella Galicia 0,0 Marc VDS)、Moto2からステップアップしたティト・ラバト(Estrella Galicia 0,0 Marc VDS)の5選手に託して、王座奪還に挑んだ。

しかし、この年のMotoGPクラスは、エンジンの使用制限、共通ECUソフトウエアの適用、さらには8年ぶりにミシュランがタイヤメーカーとして採用されるなど、マシンに対するレギュレーションが大きく改訂された。各チームは、それまで積み上げてきたマシンの開発を白紙に戻し、ゼロからの再出発を強いられた。この影響もあってか、16年シーズンは、チーム同士の実力が拮抗。混戦の様相を呈することとなる。

13年、14年と連覇を成し遂げたマルケスだったが、3連覇をかけて挑んだ15年は、転倒が多かったことも影響してか、ランキング3位に甘んじる結果に。16年は王座奪還のシーズンだったが、開幕前に行われた公式テストではマルケスの復調は感じられず、その道はますます厳しいものになるのではないかと予想された。

開幕戦カタールGPで3位表彰台、続く第2戦アルゼンチンGP、第3戦アメリカズGPでは立て続けにポール・トゥ・ウインを達成し、序盤から快走を披露してみせるマルケスだったが、バレンティーノ・ロッシ、ホルヘ・ロレンソといったヤマハ勢の猛追が始まると、ヤマハ勢が第7戦までに5勝。シーズン中盤戦に入ると、マシンを熟成させた各チームから次々とウイナーが生まれるようになる。実に、第15戦日本GPまでで8人のウイナーが誕生し、シーズン開幕前の予想通り、混戦が展開されることとなった。

マルケスは第9戦ドイツGPでシーズン3勝目を挙げてからというもの、セットアップがうまく決まらない、不安定な天候に翻ろうされるなどで思うような走りができず、優勝から遠ざかってしまう。それでもコンスタントに上位入賞を続け、再び表彰台の頂点に登壇できるチャンスをうかがっていた。

その結果、シーズンが混戦だったこともあり、第14戦アラゴンGP終了時点でマルケスはポイントランキングトップに。しかも2位に52点差という大量のリードを築いていた。アラゴンで5戦ぶりに優勝を果たし、勘を取り戻したマルケスは、満を持して第15戦日本GPに挑んだ。

MotoGPへのデビューイヤーにチャンピオンを獲得と、圧倒的な速さを見せつけてきたマルケスだが、実はツインリンクもてぎでは、MotoGPクラスでの優勝経験がなかった。マルケスにとっては、ほかと比べると苦戦を強いられてきたサーキットで、混戦となった16年シーズンも、厳しい戦いが予想された。

2016年シーズンは稀に見る混戦となった

多くが待ち望んだ日本GPでの栄冠

迎えたフリー走行初日、午前のセッションでは2番手となり、まずまずのスタートを切ったマルケスだが、午後のセッションではハードタイヤのテスト中にまさかの転倒を喫してしまう。幸運にもすぐに再スタートでき、そのまま走行を継続。セッション終盤では初日ベストタイムを記録した。最終的には好結果となったが、予選、そして決勝に向けて、チームは一層、気を引き締めて臨んだことだろう。

そんなマルケスの日本GP初制覇への機運が高まったのは、絶好のコンディションで行われた予選だった。FP3ではただ一人、1分44秒台に入れる好走でQ2へ進出。Q3はアタック中に転倒車が出た影響で、ポールポジションこそ逃したものの、最終的に2番グリッドからレースに挑むこととなった。この時点で、すでに優勝の可能性を感じさせる走りを披露していたマルケス。そしてそれは、翌日に現実のものとなる。

迎えた決勝当日は、予選に続いて晴天となり、絶好のレース日和に。多くのHondaファンが見守る中、2番手スタートのマルケスは、序盤からハイペースで走ると、なんと4ラップ目にはロレンソをパスしてトップに浮上。そのままライバルを突き放す圧倒的な走りに、会場からは何度も歓声が上がった。百戦錬磨のヤマハのベテラン勢もさすがに焦りが出たのか、ロッシとロレンソは相次いで転倒。ライバルの消えたマルケスは後続を寄せつけない走りを続け、結果、24周のレースを悠々とトップでゴールしてみせた。

この結果、ロッシに77点差、ロレンソに91点差をつけ、マルケスの3度目となるライダーズタイトルが決定した。MotoGPクラスでは、これまで経験のないもてぎでの初優勝。その上でのタイトル獲得に、会場に駆けつけたファンも喜びを爆発。拍手と歓声が会場を包み込んだ。

マルケスが苦手としてきたツインリンクもてぎでなされたこの完全勝利。変革の年に負けじとエンジニアたちが努力を重ねた末に完成させた16年型「RC213V」、そして昨年に比べて大きく安定感の増したライダーの走りの結晶だった。
シーズン4年目を迎え、円熟味を増したマルケスの走りは、日本GPが終わったあとも続き、Hondaは最終戦で14年以来となるコンストラクターズタイトル、さらにチームタイトルも獲得し、見事3冠を達成。王座奪還を果たした。

日本GPでライバルを圧倒する走りを披露したマルケス

ツインリンクもてぎで、4年越しの勝利を果たした

新たなMotoGPライダー登場の予感

Hondaが全車のエンジンサプライヤーを務め、レース向けに開発された専用エンジンを用いて争われるMoto2クラスは、激戦が続く年となった。日本GPの予選では、14年のチャンピオンであるヨハン・ザルコ(Ajo Motorsport)がポールポジションを獲得。日本GPでの2年連続のポール・トゥ・ウインに向けて弾みをつけた。一方、ザルコの前に日本GPを制したトーマス・ルティ(Garage Plus Interwetten)は2番グリッドを獲得しており、決勝ではもてぎを得意とするライダー2人の走りに注目が集まった。

果たしてレースでは、序盤からルティとザルコによる一騎打ちが展開。ルティが好スタートからオープニングラップを制すと、そのままザルコの猛追を振りきり、トップでチェッカーを受けた。3戦ぶりに勝利を挙げ、チャンピンシップでは4位から3位に浮上。シーズン最終戦に向けてのチャンピオン争いに生き残った。また2位でチェッカーを受けたザルコは、日本GPでこそ2年連続の勝利は果たせなかったものの、第17戦でライダーズタイトルを獲得。翌シーズンからはMotoGPクラスへのステップアップを果たした。

またシーズントップ2の戦いの裏側では、ホームグランプリで5度目の表彰台を獲得するべく挑んだ中上貴晶(IDEMITSU Honda Team Asia)が4位に。惜しくも表彰台には届かなかったものの、上位に食い込む好走を披露した。16年は、第8戦オランダGPで念願の初優勝を達成、さらには自己最高のランキング6位でシーズンを終えるなど、中上が徐々にその頭角を現しはじめた年だったと言える。自身が持ち味と語る、タイヤマネジメント能力は、このころからすでに培われていたようだ。若き日本人ライダーがこの年に見せた走りは、今後の大いなる飛躍を予感させるものだった。

中上は表彰台こそ逃したものの、来年のさらなる飛躍を予感させる走りを披露

ホームグランプリでのエネア劇場

Moto3クラスは、日本GPの予選において、トップから1秒以内に23台がひしめき合うというシーズン稀に見る大接戦となった。その激しい予選を制したのは尾野弘樹(Honda Team Asia)で、サーキットのベストタイムを更新。2001年に宇井陽一が達成して以来、実に15年ぶりとなる日本人ライダーのポールポジション獲得は、会場に駆けつけたファンを歓喜の渦に包んだ。

迎えた決勝当日。レースでは、序盤からツインリンクもてぎを得意とするエネア・バスティアニーニ(Gresini Racing Moto3)と、フロントローからレースに挑んだブラッド・ビンダー(KTM)による一騎打ちが展開。ビンダーはオープニングラップにトップに立つと、レースをリードし続け、そのままフィニッシュするかと思われた。だが、最終ラップでバスティアニーニがビンダーをかわし、劇的な逆転勝利を挙げた。

前半戦こそ奮わなかったものの、第7戦で表彰台を獲得してからめきめきと成長をみせていたバスティアニーニが、Hondaにとってのホームグランプリとなった日本GPで奮起。シーズン初勝利を達成してみせた。この勝利によりさらに勢いをつけたバスティアニーニはその後も快走を続け、Gresini Racing Moto3での最終年度を、総合2位で締めくくった。

バスティアニーニは最終ラップで劇的な逆転勝利を果たす

2016年10月16日 第15戦 日本GP結果

■MotoGP(24周)
1位 マルク・マルケス Honda 42'34.610
2位 A.ドヴィツィオーゾ ドゥカティ +2.992
3位 M.ビニャーレス スズキ +4.104
4位 A.エスパルガロ スズキ +4.726
5位 カル・クラッチロー Honda +15.049
6位 P.エスパルガロ ヤマハ +19.654
7位 A.バウティスタ アプリリア +23.032
8位 D.ペトルッチ ドゥカティ +28.555
9位 S.レディング ドゥカティ +28.802
10位 S.ブラドル アプリリア +32.330

■Moto2(23周)
1位 トーマス・ルティ KALEX 42'45.854
2位 ヨハン・ザルコ KALEX +0.386
3位 フランコ・モルビデリ KALEX +5.863
4位 中上貴晶 KALEX +6.090
5位 サンドロ・コルテセ KALEX +16.246
6位 シモーネ・コルシ SPEED UP +20.404
7位 マティア・パシーニ KALEX +20.683
8位 フリアン・シモン SPEED UP +20.760
9位 マルセル・シュローター KALEX +24.394
10位 ザビエル・シメオン SPEED UP +27.113

■Moto3(20周)
1位 エネア・バスティアニーニ Honda 39'24.273
2位 B.ビンダー KTM +0.017
3位 N.ブレガ KTM +4.002
4位 P.エッテル KTM +5.119
5位 ファビオ・ディ・ジャンアントニオ Honda +6.288
6位 F.バグナイア マヒンドラ +7.739
7位 リビオ・ロイ Honda +7.749
8位 F.クアルタラロ KTM +8.344
9位 J.ミル KTM +8.880
10位 ニッコロ・アントネッリ Honda +9.037