ニューヒーローの誕生

2013 2014 2015 2016

前年にやり残したタスクを。日本で歓喜のタイトル決定

前年にやり残したタスクを。日本で歓喜のタイトル決定

一人の天才に世界中が熱狂

2014年のシーズン開幕前、すべてのマシンに使用が義務付けられるECU(エレクトロニック・コントロール・ユニット)の使用方法により、独自ソフトを使用したファクトリーオプションと共有ソフトを使用したオープンカテゴリーという、レギュレーションの異なる2種類のカテゴリーに分かれるという改革がなされた。Hondaもオープンカテゴリー用に、兼ねてからテストを重ねていた、市販レーシングマシン「RCV1000R」を発表。新レギュレーションによる戦いに期待と注目が集まった。

しかし、いざシーズンが始まると、たった一人のライダーが次々に話題をさらっていく。そのライダーとは、昨年、MotoGPクラスで史上最年少チャンピオンになったマルク・マルケス(Repsol Honda Team)だった。オフシーズンに負ったケガの影響が心配されていたが、開幕戦カタールGPの予選でポールポジション(PP)を獲得。決勝も激しいバトルを制して、いきなり勝利を挙げる。そこから破竹の勢いで勝ちを重ね、6月のイタリアGPまで6戦連続ポール・トゥ・ウインという神がかり的な走りを披露。わずか21歳、最高峰クラス2年目のスペイン人ライダーに世界中が熱狂していた。

同じスペイン人ライダーロレンソとの争いを制しマルケスが開幕から6戦連続ポール・トゥ・ウイン

新記録という重圧

連続PP記録こそ第7戦で止まるが、連戦連勝のマルケスは第10戦インディアナポリスGPまで勝ち続け、1970年にジャコモ・アゴスチーニが打ち立てた開幕10連勝という記録に並び、マイク・ヘイルウッドが1964年に24歳と94日で記録した史上最年少10連勝を21歳と146日で更新することになる。

開幕11連勝という記録に期待がかかった第11戦チェコGPの予選PPはマルケス。決勝での、新記録の樹立を疑う者はだれもいなかった。ところが、レースが始まるとマルケスはじりじりと後退し、ペースが上がらない。代わってトップを走ったのは、チームメートのダニ・ペドロサだった。マルケスの活躍に注目が集まりがちだったが、ペドロサはそれまで7度の表彰台に登壇。安定した成績を残していた。

生きる伝説バレンティーノ・ロッシ(ヤマハ)、同郷のライバルであるホルヘ・ロレンソ(ヤマハ)、そしてペドロサ。今シーズン、だれがマルケスの快進撃にストップをかけるのかが話題になっていたが、それは同じRC213Vを駆るチームメートによってなされることになった。

マルケスはレース後、「肩の荷が下りた気持ちです」と、更新し続けてしまう“記録”というプレッシャーからの解放を吐露した。“天才”と呼ばれながらも、まだ21歳のライダーには大きすぎる期待、それに応え続けてきたマルケスは、これでタイトル獲得という一つの目標に専念することができた。

チェコGPで連勝記録がストップしたマルケスだが、続く第12戦イギリスGPで再び勝利。第13戦サンマリノGPと第14戦アラゴンGPでは表彰台を逃すも、ライダーズタイトルには王手となった。

そして、いよいよ日本GPが始まる。

チームメートのペドロサが連勝記録にストップをかける

記録にも、記憶にも残るシーズンに

10月10日(金)、日本GPの初日は終日青空が広がる絶好のコンディション。マルケスは1回目のフリー走行でコースアウトを喫し、グラベルで軽い転倒。初日は思うようにセットアップを進められずにいた。一方、チームメートのペドロサはタイヤテストをしながら、初日4番手タイムとまずまずのスタートを切る。

2日目の予選は1秒差以内に11台という大接戦となる。その争いを制したのはドゥカティのアンドレア・ドヴィツィオーゾで、2番手にロッシ、3番手には好調のペドロサがつけた。マルケスは初日の遅れを取り戻し4番手タイムに入れてきた。

迎えた決勝日、サーキットに詰めかけた4万人を超える観客が固唾を飲んで見守る中、タイトルをかけたレースが始まった。

2列目4番グリッドからスタートしたマルケスは、プレッシャーなのか序盤はやや精彩を欠く走りで5番手まで後退。しかし、その後は目の覚める走りでポジションを上げていく。3周目にアンドレア・イアンノーネ(ドゥカティ)、9周目にドヴィツィオーゾ、16周目にはタイトル獲得の絶対条件となるロッシの前に出た。

「今大会はタイトルを獲得することが最大の目的だった」とレース後に語ったマルケス。連勝記録はかかっていない、タイトルが取れればいい、その言葉通り2番手に浮上すると、無理にトップを追うことなく、後続との距離を確認しながら走り続け、チェッカーフラッグが振られた。うれしさを爆発させるマルケスに、会場からは大声援が送られた。昨年果たせなかったHondaのホームでのチャンピオン獲得という目標を、わずか1年で果たした瞬間だった。

チャンピオンを決めたマルケスは残り3戦でも次々と記録を打ち立てていった。第17戦にはシーズン史上最多となる13度目のPP獲得。この大会でHondaに21度目のコンストラクターズタイトルをもたらす。そして、最終戦では1997年にミック・ドゥーハンが残した最多優勝記録を更新するシーズン13勝目を挙げる。Repsol Honda Teamはチームタイトルも決め、Hondaは2年連続で3冠を手にした。

このシーズンはまさしくマルケスのためにあったシーズンと言える。若きスペイン人ライダーはそれほどの記録を残してきた。本当に輝かしい一年だったが、日本ファンの目には、日本GPでチャンピオンが決まったあの瞬間が、ひと際鮮明に焼き付いているのではないだろうか。

Hondaのホームグランプリでタイトルを決めるマルケス

ティト・ラバトがタイトルを大きく引き寄せる

毎戦激戦が繰り広げられるMoto2クラスの日本GPはタイトルの行方を占う一戦となった。そこまで7勝のティト・ラバト(Marc VDS Racing Team)、3度の優勝を果たしているチームメートのミカ・カリオ、そして2勝のマーベリック・ビニャーレス(Paginas Amarillas HP 40)の3人によるタイトル争いに注目が集まった。

予選は、それまでの週末はすべてがうまくいっていると語っていたラバトが、今季7度目となるPPを獲得。ビニャーレスが4番手、カリオは5番手と少し遅れをとった。

そして迎えた決勝レース。PPスタートから意気込むラバトがスタートで出遅れる。自身も「失敗した」と語ったオープニングラップを終えると、順位は5番手付近まで落ちていた。一方、ビニャーレスは前を走るライダーにつかまり、思うように順位を上げられずにいたが、4番手をキープ。カリオは3番手まで浮上していた。

このときにトップを走っていたのは、予選2番手のトーマス・ルティ(Interwetten Sitag)で、すでに独走態勢に入っていた。これを2番手に順位を上げたビニャーレスが追うも約1秒届かずに2位。序盤の遅れを取り戻したラバトが3位、カリオは5位でのフィニッシュとなった。

この結果、総合首位のラバトと2位のカリオの差は38点、3位のビニャーレスとの差は70点。なんとか追い上げて16点を勝ち取ったラバトがタイトル獲得に王手をかけた。

最終的に、その後の戦いでもしっかり表彰台フィニッシュを果たしたラバトが、第17戦マレーシアGPでタイトル争いに終止符を打ち、クラス参戦4年で、悲願のMoto2チャンピオンの称号を手にした。

激戦のMoto2クラスでラバトが悲願のチャンピオンに

日本GPのウイナーがシーズン覇者に

Moto3クラスの2014年シーズンは、終盤までもつれる接戦が続いていた。第14戦アラゴンGPを終えた段階で、数字上はランキング首位のアレックス・マルケス(Estrella Galicia 0,0)から、6位のアレックス・マスボー(Ongetta-Rivacold)までにチャンピオンの可能性が存在していた。

そんな中で迎えた第15戦日本GP。シーズンの大局を表すかのように、初日のフリー走行から、1秒差以内に18台という大接戦が繰り広げられた。上位陣は、ダニー・ケント(ハスクバーナ)がトップタイム。総合3位のアレックス・リンス(Estrella Galicia 0,0)が2番手、総合1位のマルケスが7番手となった。

予選も同様に、1秒差以内に15台が入る激戦に。そして、初日に続いてケントがトップに立ち、ポールポジションを獲得。Honda勢では、ジョン・マクフィー(SaxoPrint-RTG)が2番手、アレックス・マルケスが7番手、リンスが9番手に入った。

そうして迎えた日曜日の決勝レース。最終ラップまで続いた激しい攻防戦を制したのはアレックス・マルケスだった。7番グリッドからスタートすると、1周目に4番手まで浮上。3周目で2番手となると、その後はライバルたちと抜きつ抜かれつのバトルを演じたが、3番手で迎えた最終ラップでトップに浮上するとそのままチェッカー。2年連続で日本GPを制し、ポイントランキングでは2位のジャック・ミラー(KTM)との差を25点に広げた。

そして、アレックス・マルケスはバレンシアGPで3位表彰台を獲得し、最終戦までもつれ込んだ激戦の覇者となった。MotoGPクラスでは、兄のマルク・マルケスがタイトルを決め、史上初の、兄弟でのチャンピオンが誕生した。

白熱の決勝レースを制したアレックス・マルケス

2014年10月12日 第15戦 日本GP結果

■MotoGP(24周)
1位 J.ロレンソ
ヤマハ 42'21.259
2位 マルク・マルケス Honda +1.638
3位 V.ロッシ ヤマハ +2.602
4位 ダニ・ペドロサ Honda +3.157
5位 A.ドヴィツィオーゾ ドゥカティ +14.353
6位 A.イアンノーネ ドゥカティ +16.653
7位 ステファン・ブラドル Honda +19.531
8位 P.エスパルガロ ヤマハ +19.815
9位 B.スミス ヤマハ +23.575
10位 アルバロ・バウティスタ Honda +35.687

■Moto2(23周)
1位 トーマス・ルティ SUTER 42'50.219
2位 マーベリック・ビニャーレス KALEX +1.209
3位 ティト・ラバト KALEX +3.631
4位 ヨハン・ザルコ CATERHAM SUTER +7.797
5位 ミカ・カリオ KALEX +8.472
6位 フリアン・シモン KALEX +8.881
7位 フランコ・モルビデリ KALEX +11.203
8位 ハフィズ・シャーリン KALEX +17.509
9位 リカルド・カルダス TECH 3 +18.424
10位 ザビエル・シメオン SUTER +21.192

■Moto3(20周)
1位 アレックス・マルケス Honda 39'26.830
2位 エフレン・バスケス Honda +0.357
3位 B.ビンダー マヒンドラ +0.484
4位 ジョン・マクフィー Honda +0.672
5位 J.ミラー KTM +1.161
6位 D.ケント ハスクバーナ +1.796
7位 R.フェナティ KTM +5.927
8位 E.バスティアニーニ KTM +6.025
9位 N.アントネッリ KTM +6.527
10位 アレックス・リンス Honda +6.686