2012年、Hondaは2年連続の3冠を達成すべくシーズンに臨んだが、惜しくもライダーズタイトルを逃し、チームとコンストラクターの2冠で終えた。13年はそのリベンジの年となったわけだが、ワークスチームのRepsol Honda Teamは、絶対的エースだったケーシー・ストーナーが引退。代わって、Moto2クラスのチャンピオンであるマルク・マルケスが加わった。前年のMoto2クラスを圧倒的な強さで制したマルケスだったが、それでもルーキーが最上位クラスで活躍できるのかは、だれにも確証はなかったはずだ。
ところが、マルケスは開幕戦カタールGPで3位となり、さっそく表彰台に登壇。第2戦アメリカズGPではポール・トゥ・ウインを果たす。そうしてマレーシアGPまでの15大会で、転倒リタイアを喫した第5戦イタリアGPを除く14大会で表彰台に登壇。うち6度はその頂点にいた。その時点で、マルケスが積み重ねたポイントは298点。2位のホルヘ・ロレンソ(ヤマハ)に43点という、圧倒的な差を築いていた。そのときにはもう、マルケスの天才性と、ルーキーイヤーでのチャンピオンの獲得を疑う者はいなかった。
ところが、第16戦オーストラリアGPにおいて、風向きが変わる。
第16戦オーストラリアGPは、路面グリップがよすぎることでのタイヤの負担を考慮し、周回数の減算、“フラッグ・トゥ・フラッグ”が適用され、9周目と10周目のいずれかでマシンをチェンジしなければならなかった。そんな中、マルケスがチームのミスにより失格。大切なシーズン終盤の一戦を、ノーポイントで終えることになった。
これにより、総合2位のロレンソとの差は、43点から18点へと詰め寄られてしまう。タイトルに王手をかけているとはいえ、盤石と思われていたマルケスのライダーズタイトルが、こぼれ落ちる怖さを感じさせる大会だった。
そうして迎えた第17戦日本GPに、チームは当然ながら、これまで以上の緊張感を持って臨んだことだろう。そんな中での金曜日のフリー走行だが、なんとキャンセルとなってしまう。台風27号の接近による雨と霧の影響で、選手の救命救急のために義務付けられている、ドクターヘリの飛行条件がそろわなかったからだ。
別にケガをしたわけではない。大自然の猛威は皆に平等である。ところが、ここでマルケスがルーキーであることが大きな逆風となる。ルーキーであるマルケスには、MotoGPマシンでのツインリンクもてぎの走行経験がなかったのだ。一方で、タイトル争いにおいて、事実上の唯一で最大のライバルであるロレンソは、2008年にMotoGPクラスへデビューし、2度のチャンピオンに輝いている。経験豊富な大敵を前に、その部分で劣るマルケスにとって、決勝レースまでにどれだけの走行機会を得られるかはとてつもなく重要なことだった。
2日目になっても台風の影響は残り、午前のフリー走行はキャンセル。雨が小降りになった午後は、それらを補おうと、予定していた走行時間を延長する特別スケジュールとなったが、予定されていた走行時間からは大きく短縮された形。それでも、ようやく始まったと言える日本GPで、マルケス、ペドロサともに、路面コンディションの回復とリンクするようにセットアップを進め、着実にタイムを上げていった。結果、予選ではマルケスが2番手、ペドロサが4番手となった。
そうして迎えた決勝日の天候は晴れ。これまでの悪天が嘘のように、青空が広がる。ただそんな中、マルケスは午前に実施されたフリープラクティスで転倒を喫し、首を負傷してしまう。ちなみにこのケガは、大会後にリハビリを要するレベルだった。
決勝では、1周目で3番手にダウンしたマルケスは、2周目には元のポジションへ復帰。そこからは先頭を走るロレンソを追いかけたが、日本のファンを前に、惜しくもトップでチェッカーを受けることはかなわなかった。MotoGPマシンでの初めてのチャレンジ。比較するためのデータのないドライコンディション。さらに、天候に翻ろうされタイヤ選択が決まらなかったこともあり、デビューイヤーにしてそこまでに6勝を挙げるなど、すでに天才ライダーと呼ばれていたマルケスであっても、シーズン最大のライバルであるロレンソを打ち破ることはできなかった。
マルケスはかつて、「Hondaの地元でチャンピオンを獲得できればすばらしい」と語った。母国のスペインはもちろんだが、日本にも強い思い入れがある。13年シーズンは、日本GPでチームとコンストラクターズタイトルを獲得し、最終戦バレンシアGPにおいて、史上最年少でのライダーズタイトルの獲得も決めた。Hondaに2年ぶりの3冠をもたらし、傍目には順風満帆のシーズンを過ごしたように映る。史上最年少チャンピオンをはじめさまざまな記録を塗り替え、この年が最上のものであったのは間違いないだろう。ただ、日本GPでの勝利を逃したことを悔やむ気持ちもある。勝って当然とも言える、圧倒的な天才性を備えたマルケスだからこその悔しさがあるのだろう。
最高のシーズンにもかかわらず、逃した日本GPでの勝利とチャンピオンタイトルの決定。本人はもちろん、ファンも心の底から待ち望んだこの勝利への挑戦は、翌シーズンに持ち越されることになった。
Hondaのワンメイクエンジンで争われ、毎年激戦が繰り広げられるMoto2クラスは、ポル・エスパルガロ(Tuenti HP 40)がタイトル王手で日本GPを迎えた。第15戦マレーシアGPを終えた段階では、スコット・レディング(Marc VDS Racing Team)が総合首位に立っていたものの、第16戦オーストラリアGPの予選で、そのレディングが転倒して左手首を骨折。日本GPへの出場には間に合ったものの、ベストコンディションとは言えず。そして3位のエステべ・ラバト(Tuenti HP 40)にすら逆転王者の可能性はほとんどなく、エスパルガロが日本GPを7位以内でフィニッシュすれば、タイトルが決まる状況だった。
迎えた決勝レースは、スタート直後の多重クラッシュで赤旗中断となり、15周に短縮された。7番手スタートのエスパルガロは、1周目でトップに立つと、そこからだれにも前を譲ることなくチェッカー。タイトルを意識していないかのようなアグレッシブな走りで、今季6勝目を挙げて自身の初タイトルに華を添えた。
また今大会には、レギュラー参戦の中上貴晶(Italtrans Racing Team)のほか、長島哲太(JiR Moto2)が代役で、野左根航汰(Webike Team Norick NTS)がワイルドカードで参戦。中上が9位、野左根が16位、長島が20位という結果だった。
Moto3クラスは、ワイルドカードで出場した2人の日本人ライダーが予選で輝きをみせた。アジアロードレース選手権のアジア・ドリーム・カップで13年シーズンのチャンピオンを決めていた尾野弘樹(Honda Team Asia)が8番手。そして全日本ロードレース選手権のJ-GP3でランキングトップに立っていた山田誓己(Team Plus One & Endurance)が10番手に入り、訪れた観客を沸かせた。
しかし、決勝レースは、世界のレベルを痛感させられることになった。ここでHonda勢のトップとなったのはロマーノ・フェナティ(San Carlo Team Italia)。26番手でスタートしたフェナティは、序盤のほぼ毎ラップでポジションを上げると、最終ラップでも3台を抜き去り、5位でフィニッシュした。また、TASCA RACINGの渡辺陽向が15位でフィニッシュし、初のポイントを獲得。一方、ワイルドカードでの参戦組は、山田誓己が転倒再スタートで23位、尾野弘樹(Honda Team Asia)が転倒リタイアで悔しい結果となった。
1位 | J.ロレンソ | ヤマハ | 42'34.291 |
2位 | マルク・マルケス | Honda | +3.188 |
3位 | ダニ・ペドロサ | Honda | +4.592 |
4位 | アルバロ・バウティスタ | Honda | +19.755 |
5位 | ステファン・ブラドル | Honda | +22.810 |
6位 | V.ロッシ | ヤマハ | +24.637 |
7位 | C.クラッチロー | ヤマハ | +27.496 |
8位 | B.スミス | ヤマハ | +30.969 |
9位 | N.ヘイデン | ドゥカティ | +37.010 |
10位 | A.ドヴィツィオーゾ | ドゥカティ | +42.944 |
1位 | ポル・エスパルガロ | KALEX | 28'15.162 |
2位 | ミカ・カリオ | KALEX | +1.344 |
3位 | トーマス・ルティ | SUTER | +3.379 |
4位 | ザビエル・シメオン | KALEX | +8.420 |
5位 | フリアン・シモン | KALEX | +10.315 |
6位 | ニコラス・テロール | SUTER | +11.364 |
7位 | アレックス・デ・アンジェリス | SPEED UP | +12.718 |
8位 | ドミニク・エガーター | SUTER | +15.609 |
9位 | 中上貴晶 | KALEX | +18.414 |
10位 | マティア・パシーニ | SPEED UP | +20.679 |
1位 | A.マルケス | KTM | 39'45.953 |
2位 | M.ビニャーレス | KTM | +0.027 |
3位 | J.フォルガー | KALEX KTM | +7.750 |
4位 | M.オリベイラ | MAHINDRA | +15.889 |
5位 | ロマノ・フェナティ | FTR Honda | +18.323 |
6位 | ジャック・ミラー | FTR Honda | +18.432 |
7位 | ジョン・マクフィー | FTR Honda | +18.439 |
8位 | N.アジョ | KTM | +25.608 |
9位 | ニッコロ・アントネッリ | FTR Honda | +25.950 |
10位 | B.ビンダー | MAHINDRA | +32.933 |