はじめてのトライアル講座―日本GP@もてぎに行こう!―

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世界選手権の戦い方

ロードレースやモトクロスは、いっせいに他のライダーと同時にスタートし、決められたコースをいかに速く走るかを競います。一方、トライアルは、セクションと呼ばれるコースを一つずつ、いかに減点数を少なくクリアできるかを競います。他のスポーツでいうと、ゴルフが似ているともいえます。ゴルフは、コース場に10以上にもおよぶホールがあります。ゴルファーは、それぞれのホールでなるべく少ない打数でホールを目指します。一つのホールが終わると、ゴルファーは次のホールへと移動し、そのホールでベストを尽くします。

トライアルでは、ゴルフでいうホールにあたるのがセクションです。そのセクションで、減点数を最小限に抑えることが求められます。そのことから、一般には減点を競う競技と説明されますが、もともとがマシンの信頼性を評価する試験であった経緯から、タイムキーピングも重要な要素です。それぞれのセクションでは、スタートしてからゴールまでが1分と制限されています。1分以内でセクションをクリアできなければ、それは失敗とされて減点5がつきます。

会場には、セクションが第1から第15まであり、第15セクションを終えると、1周とカウントされます。1周は、3時間以内という時間制限が設けられ、第15セクションを終えた時点で2周目に入ります。最終的に、2周目をゴールするまでの時間制限は5時間以内と決まっています。この3時間と5時間の持ち時間を超過すると、1分につき1点の減点が科せられます。

ライダーは、それぞれ別々にスタート時刻が設定され、一人ずつスタートしていきます。競技は、それぞれのライダーがそれぞの時間を刻んで進みます。ひとつの勝利を争う競技ですが、その戦いの過程は完全なる自分との戦い。それがトライアルです。

さまざまな時間管理を必要とされるトライアル。最近のトライアルは、マインダーと呼ばれるサポート要員が、ライダーにぴったりついています。マインダーの仕事は多種多様。ギャラリーから見て分かりやすいのは、ライダーが失敗したときにマシンを押さえ、ライダーとマシンを決定的なトラブルから守る仕事。これはたいへんな重労働です。

同時に、マインダーはライダーにセクションでの残り時間を伝えます。今年から、セクションでの持ち時間は1分となりました。残り30秒を切り、残り10秒になってからのマインダーとライダーのやりとりは、見ているも側にも緊張感が伝わります。

ゼッケンを着用し、常にライダーと一緒に行動しているのが、マインダー。アドバイスをしたり、絶えず時計を確認し残り時間を伝えたり、精神的にもライダーをサポートする重要な役割。

しかしマインダーの、本当の仕事は、ライダーの心の支えです。マインダーという単語が、それを示しています。右から攻めるか左から攻めるかの相談、あるいは、今日はもう勝てないのではないかと落ち込むライダーを励まし高揚させるのもマインダーの仕事。ライダーのために献身的に働くマインダーの姿は、モータースポーツとしてのみならず、人間ドラマとしても興味深いものがあります。

現在、競技中にマシンに触れることができるのは正式に登録されたマインダーのみとなっています。いかに大きなチームが大勢のスタッフや物資を持ち込んだとしても、試合中にそれを生かせるのはライダーとマインダーのみ。したがって、マインダーは必要なパーツを背負い込み、万が一マシンが破損したり調子が悪いときでも、その場でメンテナンスできるよう準備を整えています。マインダーが移動用に乗るマシンのハンドルバーには、この万が一に備えスペアのハンドルバーをしばり、競技中食事に戻れないライダーために、食糧なども携行して、ライダーとともにコースに出ていきます。

世界選手権のライダーには誰でもがなれるものではありませんが、しかしマインダーも、誰もができるものではないというのは、世界選手権を一度見ていただければご理解いただけると思います。

どんな崖やドロドロの場所でも、ライダーより先回りしサポートするマインダー。

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