#3 なぜHondaが
オーディオのための電源を?

コンテンポラリー・シンガーソングライター尾崎裕哉

LiB-AID E500 for Musicを繋ぐことによって、オーディオの音が驚くほど変わる。その理由にも納得した尾崎裕哉さん。クルマやバイクで有名なHondaが発電機を作っていて電気の専門家であることも知った。それでも、なぜ全く実績のないオーディオのための電源をわざわざ作ったのかという背景までを尾崎さんは掘り下げていった。

普段の商品開発ではおよそ縁のない高級オーディオを買い込む。サウンドに関するノウハウもないから試聴を繰り返す。E500 for Musicのためにそんな開発をしたHondaのエンジニアたち。そんな従来にないことをしてまで、そもそもなぜHondaがオーディオ用の電源を開発することになったのか。その点を小野寺さんに尋ねた。すると、Hondaのモノ作りに対する考え方が見えてきた。

オーディオ用のバッテリー電源を作るに至る発端は、アウトドア向けとして2017年に発売した蓄電機の利用状況を調べていく中で、家の中でオーディオに繋いだという方が数名いたことだったそうだ。普通なら気に留めないような極めて少ない使い方だけど、アンケートに書き込まれたコメントが膨大で、回答に込められたオーディオファンの“熱量”を感じ取ったそうだ。そのアンケート回答者の方々は、300万円くらいのオーディオセットに蓄電機を繋いで、音が非常に良くなったと喜んでいた。それなら、蓄電機を活かしたモノ作りとして、もっとオーディオに効果のある電源という考え方もありじゃないかということになったそうだ。そんな小さなきっかけからオーディオ電源の検討を始めたとき、Honda社内にいるオーディオファンのエンジニアが蓄電機に手を加えてオーディオで聴いてみると、50万円もする市販のクリーン電源よりずっと効果があると語ったことから開発に弾みがついたらしいんだ。

Hondaでは、クルマやバイクだけじゃなくて、いろいろな発電機も開発している。そこには、「電気を気軽に持ち出す」という小型・軽量であることへのコダワリがあった。さらに、インバーターの技術を磨いてきたことで、発電機が生み出す電気の波形には相当な自信もあった。リチウムイオン電池が普及してきたのに合わせて、発電機で培った技術を投入して「もっと気軽に電気を持ち出せる」コンパクトな蓄電機を作った。そうした技術の蓄積があったから、バッテリーをオーディオに使うとイイという声を聞いたときに、まったく馴染みのない世界の製品だけど、オーディオのための抜群に効果のあるバッテリー電源を作ることができたわけだ。

小野寺さんが教えてくれた話だが、Hondaには「三つの喜び」という教えがあるそうだ。その教えは創業者の本田宗一郎さんが発した言葉で、「買う喜び・売る喜び・創る喜び」と、商品を購入する方だけではなく、商品を届けるお店や営業マン、エンジニアや製造部門の人まで、Hondaの商品に関わる全ての人が喜びを感じられるモノ作りをしようと伝える言葉だそうだ。
だから、オーディオに向けてキレイな電気を求めている人がいて、そこにバッテリー駆動の蓄電機という商品が既にあった。そして、それをもっと良くできる技術がHondaにはある。それなら、オーディオファンに向けて徹底してこだわり抜いた商品を提案しようと、E500 for Musicの開発に至ったらしい。
音の良さは数字で表せない。それはオーディオでは当たり前のことだけど、Hondaはオーディオの会社じゃない。だから、小野寺さんたち開発チームは、どれだけ優れた製品なのかHondaの中で説明するのに苦労したそうだ。そんなときは、E500 for Musicをオーディオに繋いで実際に音楽を鳴らして聴かせる。僕が感じたときと同じように、聴けば確かにその実力は分かる。
高価なコンセントや電源ケーブル、特殊な材料を使うコントロールパネルや電磁波シールドも、音を聴いてもらえば「ここまで音が変わるのなら、まあ、しょうがないか」ということで納得させていったそうだ。

そもそも、Hondaのエンジニアがオーディオのために電源を作ろうと考えたことも面白いけど、出来上がってきたモノの良さを認めて「まあ、しょうがない」と部下の仕事を認める上司がいて、エンジニアが好きなモノ作りをできるって、本当にいい会社。開発の裏話を聞いて、さらにHondaって面白い会社だなと思った。

オーディオ関連の機器を作っているメーカーはいろいろあると思うけど、グローバルに事業を展開しているHondaが、オーディオ分野の中でも特にニッチな電源なんて製品をあえて作らなくてもいいはず。なのに「良くできる技術を持っているから」って、本当に凄いモノを創り出しちゃう。Hondaって面白いことやるよなぁというのが今回E500 for Musicの視聴で感じたもうひとつの驚き。でも、面白いことをやる分野をオーディオにしてくれたおかげでE500 for Musicが生まれたわけだから、アーティストとしては感謝だね。ありがたい。

尾崎裕哉 スペシャルムービー

■︎前編 サウンドレビュー

■︎後編 開発者インタビュー

コンテンポラリー・シンガーソングライター尾崎裕哉

1989年、東京生まれ。バイリンガル、コンテンポラリー・シンガーソングライター。もっとも敬愛するアーティストはジョン・メイヤー。父親が遺した音源を繰り返し聴き続け歌唱力を磨き、ギターとソングライティングを習得。ライヴパフォーマンスの経験を重ねながら、バークリー音楽大学の短期プログラムへ参加し、音楽スキルをレベルアップ。
2017年ホールツアー《HIROYA OZAKI "SEIZE THE DAY TOUR 2017"》が開催された。