成田さん親子に聞く世界制覇までの30年

Part.3 30年目の金字塔

セクション作り

「藤波君に比べてランプキンは体重があるから、タイヤをグリップさせやすい傾向にあったと思いますよ」と、当時を振り返る匠さんは、日本GPのセクションコーディネーターとして毎年さまざまなことを考えているという。セクションの設定には1カ月以上かかるし、見せ場となる人工セクションの第1と第15セクションだけで2週間かかるそうだ。

「2000年から数年間は、セクションに変化がないのは面白くないだろうと、フリースタイルモトクロスのトリッキーなイメージを考えたりしました。コースを設定する場所の制約もありますし、演出の見極めや難易度のさじ加減は難しいですね」

07年の日本GPで垂直の壁を上るトニー・ボウ。日本GPでは、このようなダイナミックな走りを間近に観ることができる。

結果的に、ひと握りのトップライダーしか行けないセクションでは、他のライダーも行けるようにするなど、もっと面白く観戦できるよう当日に修正することもあるという。逆に晴れても雨が降っても(なぜかもてぎは雨になる場合が少なくない)修正する必要がないセクションも考えなくてはならない。

「昨年、09年型のヨーロッパ製マシンに乗った瞬間に、セクション設定の新しいイメージが湧いたんですよ。つまり、ライダーの要求というか、マシンのコンセプトはハッキリとある方向に向いているわけです──それは後輪だけで走る傾向なんですよ。上りなんかでも前輪をつけないようなイメージですね、昨年からはそういうテクニックを織り込んだセクション設定を意識しています。今年もそういう傾向になるでしょうし、マニアックに見るならそういうところを注意して見るといいと思いますよ」

昨年、09年の第6戦日本GPでの藤波。第4戦の大クラッシュで負った胸部打撲をひきずりながらの総合2位を獲得。

ダイナミックな上りや人工セクションでの派手なアクション以外にも、ライダーの微妙なテクニックや、最近のトレンドを間近に見ることができるのも、大会の魅力だ。そういえば、今年の4月に行われた第2戦ポルトガルの2日目では、藤波が3年連続チャンピオンのトニー・ボウを抑えて2年ぶりの優勝を決めているから、今年の日本GPはいつになく面白いものになるかもしれない。

「山の中でも、家族連れでお客さんが来てくれるのが、うれしいですね。もっと面白く、楽しく観戦できるよう、今後も何とかがんばっていきたいと思います」と匠さんは言う。

日本GPでセクションコーディネーターをしている最中の成田匠さん。

トライアルの世界は、他のモータースポーツよりも言ってみれば家族的で、ちょっと世襲制みたいなところがある。藤波のライバルだったドギー・ランプキンの父は、1973年のSSDTで成田さんに“大丈夫か?”と声をかけた75年の世界チャンピオン、マーチン・ランプキンだし、あのルジャーンやタレス、ミショーは兄弟がマインダーだったりした。

日本では成田さん親子がいて、ここで紹介したように多くの仲間たちとトライアルを支えてきたし、黒山さん親子もトライアルの発展に大きく貢献してきた。

もうすぐ開催される11回目の日本GP、そんな人たちの姿や物語を意識しながら、トップライダーの戦いを観戦してみるのもまた、ひと味違って面白いかもしれない。