インフラDXとは?必要とされる背景・技術・活用事例・進め方を解説
日本の社会インフラは現在、急速な老朽化と深刻な人手不足という大きな課題に直面しています。これらを解決し、安全で持続可能な公共サービスを維持する施策として注目されているのがインフラDXです。
インフラDXは、データや最新技術を駆使して業務プロセスや組織のあり方そのものを変革する重要な取り組みです。
本記事では、インフラDXの基本概念から現場の最新技術、導入事例、具体的な推進ステップまでを実務視点で網羅的に解説します。
目次
- インフラDXとは
- インフラDXとデジタル化の違い
- インフラDXとi-Constructionの関係
- インフラDXが必要とされる背景
- インフラの老朽化と予防保全への転換
- 技術者不足と働き方改革
- 災害対応と公共サービスの高度化
- インフラDXを構成する3つの変革
- インフラの作り方の変革
- インフラの使い方の変革
- データの活かし方の変革
- インフラDXで使われる主な技術
- BIM/CIM・3次元モデル
- AI・IoT・ドローン・ロボット
- クラウド・GIS・データプラットフォーム
- デジタルツイン・車両プローブデータ
- インフラDXの活用事例
- 施工の自動化・遠隔化
- 点検・予防保全
- 道路・交通管理
- 防災・災害対応
- インフラDXの進め方
- 1. 解決する課題とKPIを定める
- 2. 業務フローとデータを棚卸しする
- 3. 対象を絞って実証する
- 4. データ連携と運用体制を整える
- 5. 効果を検証し、段階的に拡張する
- インフラDXを進める際の課題
- データ品質・標準化・更新
- 既存システム・調達・セキュリティ
- 人材育成・組織連携・合意形成
- まとめ
インフラDXとは
インフラDXとは、データやデジタル技術を活用し、社会資本や公共サービス、業務、組織、働き方を変革する取り組みです。対象は、調査・測量から設計、施工、維持管理、災害対応までインフラライフサイクル全体に及びます。
インフラDXでは、単なるITツールの導入にとどまらず、安全性や生産性の向上、そして持続可能なインフラ運営を実現することを目的としています。
インフラDXとデジタル化の違い
デジタル化が紙の電子化や個別作業の自動化を指すのに対し、インフラDXはデータを組織や工程をまたいで活用し、業務プロセスや判断方法そのものを再構築する点に違いがあります。
そのため、評価の軸もツールの導入数ではなく、作業時間の削減や安全性の向上、予防保全の実現といった実質的な成果や提供価値の向上に置かれます。
インフラDXとi-Constructionの関係
i-Construction(アイ・コンストラクション)とは、ICT施工などを通じて建設現場の生産性向上を目指す施策です。「i-Construction2.0」では省人化やオートメーション化が加速しており、2040年度までに少なくとも省人化3割・生産性1.5倍を目標として掲げています。
参考:「i-Construction 2.0」を策定しました~建設現場のオートメーション化による生産性向上(省人化)~|国土交通省
インフラDXは、こうした建設現場の効率化に加え、維持管理や行政手続き、データ活用、利用者サービスまでを含んだ、より広範な概念として位置付けられています。
インフラDXが必要とされる背景
老朽化するインフラの増加に加え、深刻な人手不足や予算制約、激甚化する災害、多様化する住民ニーズなどが同時に押し寄せています。従来のやり方では現状維持すら難しいため、限られたリソースで安全性とサービス水準を担保する新たな仕組みとして、インフラDXの推進が求められています。
インフラの老朽化と予防保全への転換
道路や橋梁などの機能を保つには、適切な点検と修繕が必要です。しかし、不具合が起きてから対処する事後保全では、コストや安全面で限界があります。
そのため、インフラの状態を常時把握し、修繕の優先順位を判断する予防保全への転換が進められています。これを実現するには、過去の点検結果や補修履歴を一元管理できるデータ環境の構築が欠かせません。
技術者不足と働き方改革
熟練技術者の減少に伴い、個人の経験に頼っていた業務の標準化・可視化と技術継承が急務となっています。遠隔臨場やICT施工、AI画像解析などを導入することで、現場作業の負担を大幅に軽減できます。
省人化を目指すだけでなく、現場の安全確保と誰もが働きやすい環境づくりを同時に進めることが重要です。
災害対応と公共サービスの高度化
大規模災害時には、被害状況や通行可否をいち早く把握しなければなりません。平常時からデータを蓄積・比較できる環境を整えておけば、迅速な復旧判断や避難・輸送支援が可能になります。
また、住民へわかりやすい情報をリアルタイムで発信することは、公共サービスの質を向上させることにもつながります。
インフラDXを構成する3つの変革
国土交通省が策定したインフラ分野のDXアクションプラン第2版では、施策全体を「インフラの作り方」「インフラの使い方」「データの活かし方」という3つの柱で整理しています。個別技術を導入するだけでなく、インフラのライフサイクル全体を見渡し、利用者にとっての価値をどう高めるかという視点からDXの全体像を捉えることが重要です。
インフラの作り方の変革
BIM/CIMやICT施工、遠隔臨場などを活用し、インフラの生産プロセス全体を効率化する取り組みです。3次元データを設計から施工、維持管理まで引き継ぐことで、手戻りの削減や施工品質の向上を実現します。
また、自動・自律施工の技術を取り入れ、現場作業の安全性を高めるとともに、監督・検査業務のスマート化を図ります。
インフラの使い方の変革
センサーやカメラ画像、走行データなどを用いて、施設や交通状況を継続的に把握する取り組みです。収集したデータをAIで解析し、異常検知や劣化予測を行うことで、点検箇所や補修の優先順位付けに活用します。
さらに、災害時の迅速な対応や高度な交通マネジメント、行政手続きのオンライン化など、利用者の利便性と安全性を高めるサービスの改善も欠かせません
データの活かし方の変革
組織や工程ごとに分散していた施設台帳、図面、点検・施工データなどを連携させます。標準仕様の策定や共通ID、APIの活用によって、データを再利用しやすい環境を整えられる点が特徴です。
データの公開や連携を進めることで、行政内の業務効率化はもちろん、民間サービスへの活用や研究開発を促進し、社会全体で新たな価値を創出します。
インフラDXで使われる主な技術
インフラDXでは多種多様なデジタル技術が用いられますが、技術導入を目的とするのではなく、解決したい課題や利用場面に合わせて手法を組み合わせることが重要です。具体的には、データを「取得・統合・分析・実行・検証」というプロセスに沿って整理し、活用していきます。ここでは、インフラDXの基盤となる代表的な技術について解説します。
BIM/CIM・3次元モデル
構造物の3次元形状に属性情報を付与し、設計から維持管理までの工程間で共有する技術です。関係者間での干渉確認や施工計画、数量算出、合意形成をスムーズに行えます。
導入時はモデル作成を目的化せず、後工程でどの情報を誰が更新してどう活用するかを明確にすることが成功の鍵となります。
AI・IoT・ドローン・ロボット
IoTセンサーで水位や変位を継続計測し、ドローンやロボットで高所・危険箇所の点検を安全に行います。さらに、収集したデータに対してAIによる画像解析や異常検知を実施し、熟練者の判断を支援する仕組みです。
点検の抜け漏れを防ぎつつ、現地確認が必要な箇所を効率よく絞り込めます。
クラウド・GIS・データプラットフォーム
位置情報を共通軸として、施設台帳や点検・工事・災害・交通データなどを地図上に重ね合わせて可視化する技術です。クラウドの活用により、関係者が常に最新情報を参照でき、更新履歴やアクセス権限の管理も容易になります。
自社構築だけでなく、国土交通省が推進する「道路データプラットフォーム」などの公的基盤を利活用することも有効です。
デジタルツイン・車両プローブデータ
3次元モデルなどの静的データに、交通量や通行実績、路面状態といった動的データを重ね合わせる技術です。現実空間を仮想空間上に再現することで、現況把握や施策のシミュレーション、整備前後の効果比較、技術導入の効果を高めつつ、最終的に人が確認・判断すべき範囲を明確にすることが成功の鍵です。
データ分析の際は、対象車両やエリア、更新頻度などデータの代表性を考慮して評価することが大切です。
インフラDXの活用事例
インフラDXは現場のあらゆる場面で活用が広がっています。ここでは、施工や維持管理、交通、防災という4つの代表的な分野について、活用データと判断場面のセットで解説します。技術導入の効果を高めつつ、最終的に人が確認・判断すべき範囲を明確にすることが成功の鍵です。
施工の自動化・遠隔化
ICT建機や自動施工、出来形計測、遠隔臨場で、現場作業や確認を効率化する取り組みです。設計データと施工結果をリアルタイムで連携させることで、施工のズレによる手戻りや検査負担を減らせます。
ただし、円滑に運用するためには、安定した通信・測位環境の整備や安全管理、異常発生時の停止ルールおよび責任分担をあらかじめ設計しておくことが重要です。
点検・予防保全
カメラ画像やセンサーデータ、過去の点検履歴を組み合わせ、構造物の変状や劣化傾向を捉える手法です。AIの判定結果を一次スクリーニングとして活用することで、現地で優先的に確認すべき箇所を効率よく絞り込めます。
また、補修後のデータも蓄積して判断基準や予測モデルを継続的に改善する運用が、将来的な予防保全の精度向上につながります。
道路・交通管理
交通量や走行速度、旅行時間、通行ルート、急減速の位置などから道路の使われ方を詳細に把握します。渋滞対策や生活道路の安全対策、工事に伴う影響の緩和、道路整備による効果の事前・事後比較に役立てることが可能です。
施設の点検データと道路の交通重要度を組み合わせれば、優先度の高い調査・補修候補をデータに基づいて検討できます。
防災・災害対応
平常時と災害時のセンサー値、カメラ画像、車両の通行実績を比較し、状況の変化を迅速に把握する取り組みです。通行可能なルートの特定や被害箇所の抽出、復旧作業の優先順位判断を効果的に支援します。
ただし、大規模災害時の停電や通信断、データ欠損を想定し、手動による確認ルーティンや代替手段を事前に準備しておくリスク管理が不可欠です。
インフラDXの進め方
インフラDXを成功させるには、将来的な全体最適を見据えつつも、現場の具体的な業務課題に絞って小さく始めるアプローチが有効です。技術検証だけでなく、実際の運用フローや人材育成、調達方法、データの継続的な更新ルールまでを設計します。
1. 解決する課題とKPIを定める
「誰の、どの業務や判断を、どのように変えるのか」を具体的に言語化します。点検時間や移動時間、作業の手戻り、事故リスク、補修費用、通行支障といった項目を指標(KPI)として設定し、可視化する作業が必要です。
プロジェクトの成果を正しく評価できるよう、導入前の基準値と効果の比較方法をあらかじめ定めておきましょう。
2. 業務フローとデータを棚卸しする
現在の作業手順や使用帳票、既存システム、担当者の承認フロー、データの更新頻度を可視化します。同時に、必要なデータの所在や形式、品質、利用権利、共通IDの有無を細かく確認することが欠かせません。
継続する工程、廃止する工程、自動化する工程を整理することで、無駄のないデジタル化の基盤を整えられます。
3. 対象を絞って実証する
特定の施設や路線、点検業務などの限定的な範囲でPoC(概念実証)を実施します。技術的な精度だけでなく、現場で実際に運用できるか、作業負担が減るか、データ更新を継続できるかといった実用性を検証してください。
従来の手法と並行して比較評価を行い、安全性と導入効果を確かめながら進めることが重要です。
4. データ連携と運用体制を整える
データのフォーマットやID、API、保存期間、アクセス権限などのルールを標準化します。発注者や受注者、システム事業者間の責任分界点と障害発生時の対応手順を明確にしましょう。
さらに、現場での操作教育やマニュアルの準備、問い合わせ窓口の設置、運用予算の確保といった体制整備も求められます。
5. 効果を検証し、段階的に拡張する
設定したKPIの達成度をはじめ、コストや現場の作業負担、利用率、想定外の影響を総合的に確認します。成功要因と課題を記録に残し、ほかの施設や地域へ展開できるかを判断するステップです。
技術の進歩や法制度の変化に合わせて運用ルールを柔軟に見直すことで、持続可能なシステムへと成長させられるでしょう。
インフラDXを進める際の課題
インフラDXを推進する際は、データ品質や既存システム、人材育成、セキュリティ対策などを一体で考える必要があります。デジタルツールを導入した結果、現場で新たな属人化が発生したり、特定ベンダーへ過度に依存したりする状況が生じないよう、仕組みを整えることが大切です。
データ品質・標準化・更新
台帳や点検記録におけるデータの欠損、表記ゆれ、取得時期の違いは、分析精度の低下を招く大きな要因となります。共通IDや座標、用語、ファイル形式を統一するルール策定が欠かせません。
データの更新責任者と品質管理の手順を定め、古い情報を最新の状態と誤認して判断を誤らないような管理運用スキームを構築することが重要です。
既存システム・調達・セキュリティ
既存システムとの連携可否やAPIの有無、将来的な移行のしやすさを事前に確認しましょう。費用評価では、初期コストだけでなく通信費や保守・更新費用、教育費も含めた総費用で判断する視点が重要です。
また、重要インフラを脅威から守るため、アクセス制御やバックアップ体制、サイバー攻撃への対策も考慮しなければなりません。
人材育成・組織連携・合意形成
現場の担当者や情報部門、企画、財務、調達、管理職が同じ目的意識とKPIを共有することが成功の鍵を握ります。データを解読できる人、現場業務に精通した人、技術を実装する人を組み合わせた横断的なチーム構成が効果的です。
さらに、地域住民や利用者に対しては、導入による効果だけでなく限界や安全確認の手順も含めて丁寧に説明する姿勢が求められます。
まとめ
インフラDXは、データとデジタル技術でインフラの作り方・使い方・データ活用を変革する取り組みです。成功に向けては、課題とKPIの明確化や業務の棚卸し、小規模な実証、運用体制の構築を段階的に進める必要があります。
BIM/CIMやAI、IoT、ドローン、デジタルツインといった技術は、自社の目的に応じて組み合わせることが大切です。特に交通分野では、施設台帳などの静的データと、交通や路面の変化を示す動的データとの連携が、より効果的な施策を実現する鍵となります。
Hondaが提供する「HDDS(Honda Drive Data Service)」は、車両プローブデータから交通量や走行速度、通行実績、急減速、路面状況などを可視化し、道路管理や防災、交通施策の検討・効果検証をサポートするサービスです。具体的なデータ種別や精度、システム連携については、自社の要件を整理したうえで、専門事業者へ相談しながら導入を進めていきましょう。
このコラムの執筆者

- 増田真吾
-
自動車ライター
自動車整備士・自動車検査員- 国産車ディーラー、ガソリンスタンド、車検工場で約15年間整備士として勤務
- 国内最大手の中古車買取販売会社本部にて保証判定部署に転職し、保証認否および提携工場からの技術相談業務に従事
- 40歳手前で自動車関連記事の執筆を開始しフリーランスとして独立
- 2022年に自動車関連企業やサービスをきっかけとして、WEB制作やSNS支援、YouTube制作を行う「株式会社グラフィカ・ワン」を設立
- 現在は複数のライターと主にチームとして記事執筆担当
- 大手カー用品店、レーシングチーム、eモータースポーツなど様々なプロジェクトに参画中
増田 しんご - Instagram