ヒヤリハットマップとは?作り方・活用例・交通安全対策への生かし方を解説

交通安全
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交通事故を未然に防ぐには、実際に発生した事故の統計を分析するだけでは、事故に至る前の潜在的な危険を十分に捉えきれません。そこで重要になるのが、事故の一歩手前の危険な事象を地図上に可視化した「ヒヤリハットマップ」です。ヒヤリハットを地図化することで、地域の危険箇所を的確に共有し、対策を検討しやすくなります。本記事では、ヒヤリハットマップの定義や作り方、具体的な活用例、そしてデータを取り扱う際の注意点について詳しく解説します。

目次

  • ヒヤリハットマップとは
    • ヒヤリハットと交通事故の違い
    • 事故マップ・ハザードマップとの違い
  • ヒヤリハットマップに使われるデータ
    • 住民・児童・運転者からの投稿
    • 交通事故統計
    • 急ブレーキ・急減速などの車両挙動データ
    • 現地調査・道路環境データ
  • ヒヤリハットマップの作り方
    • 1. 目的・対象・期間を決める
    • 2. ヒヤリハット情報を収集・整理する
    • 3. 地図化して集中箇所を抽出する
    • 4. 現地確認と原因分析を行う
    • 5. 対策後の変化を検証する
  • ヒヤリハットマップの活用例
    • 通学路・生活道路の安全点検
    • 道路整備・交通安全施策の優先順位付け
    • 物流・事業所の安全管理
  • ヒヤリハットマップ活用時の注意点
    • データの偏りと母数を確認する
    • 急ブレーキの原因を地図だけで断定しない
    • 個人情報と公開範囲に配慮する
  • まとめ

ヒヤリハットマップとは

ヒヤリハットマップのイメージ

ヒヤリハットマップとは、事故には至らなかったものの、運転中や歩行中に「危ない」「ヒヤッとした」と感じた事象を、発生場所と結び付けて可視化した地図のことです。住民や運転者からの定性的な報告、車両の急減速や挙動といった定量的なプローブデータ、さらには実際の事故情報など、複数のデータを統合して作成されます。危険箇所の早期発見、現地調査の効率化、対策の立案、関係者間での情報共有まで、交通安全対策のあらゆるフェーズで活用できる地図です。

ヒヤリハットと交通事故の違い

ヒヤリハットは、重大な事故には至らなかったものの、条件が少し違えば事故になっていたかもしれない、潜在的な危険事象を指します。一方、交通事故データはすでに起きてしまった結果です。つまり、事故データが事後対応のための情報であるのに対し、ヒヤリハットは事故を防ぐための事前の兆候として扱われます。ただし、ヒヤリハットが多く発生している場所でも、必ずしもすぐに事故が起きるとは限らないため、実際の道路環境や交通状況などの現地条件を慎重に確認する必要があります。

事故マップ・ハザードマップとの違い

地図を使った安全管理ツールには、他に「事故マップ」や「ハザードマップ」があります。事故マップは、過去に発生した事故の位置や事故の属性(重傷者の有無など)を可視化したもので、過去の実績が中心となります。またハザードマップは、おもに洪水や土砂災害、地震などの自然災害リスクを予測・可視化した防災用の地図です。これらに対し、ヒヤリハットマップは、日常の交通における危険体験や、車両の危険回避挙動に焦点を当てており、事故マップでは捉えきれない未然の危険兆候を補完する役割を担っています。

ヒヤリハットマップに使われるデータ

ヒヤリハットマップに使われるデータの種類

ヒヤリハットマップの精度を高めるためには、それぞれのデータが持つ得意・不得意な領域を理解し、単一の情報だけで作成しないことが重要です。定性的な「人からの声」と、定量的な「車両の挙動データ」を組み合わせることで、より立体的に危険箇所を把握できます。

住民・児童・運転者からの投稿

地域住民や通学する児童、または日常的にそのルートを使う運転者からアンケートなどで集めた情報です。見通しが悪い・自転車の飛び出しが多い・横断歩道がなくて渡りにくいといった具体的な体験や主観的な不安感を集めたものです。地域の生活実感を直接的に反映しやすい強みがある一方で、回答者の属性や時期による偏りが出やすく、発生地点の記憶が曖昧になりがちなため、位置情報を整理する際には一定のルールを設ける必要があります。

交通事故統計

警察などが記録している公式な交通事故のデータです。事故の発生場所、当事者の属性(歩行者か車両かなど)、事故類型(追突、出会い頭など)、発生時間帯などを客観的に把握できます。重大な被害を伴う箇所を特定する上で欠かせない実績データですが、事故が実際に起きてからでないと記録されないため、まだ事故は起きていないものの、危険性が高いと考えられる潜在的危険箇所を事前に捉えることには不向きです。

急ブレーキ・急減速などの車両挙動データ

コネクテッドカーやドライブレコーダーなどから得られる、車両が実際に強く減速した場所を広範囲かつ継続的に抽出したデータです。人の記憶に頼らないため、事故前の危険兆候を客観的・定量的に捉える補助指標として極めて有効です。ただし、急減速が発生する理由は、危険回避だけでなく、交通量の多さ、道路形状(急カーブなど)、信号の切り替わり、渋滞など多岐にわたるため、地図上のデータだけで判断せず、必ず現地確認を行う必要があります。

参考:みんなでつくる安全マップ

現地調査・道路環境データ

実際に現地へ赴き、交差点の形状、見通しの良し悪し、標識や路面表示の設置状況、歩行者の動線などを確認して得られるデータです。地図上でヒヤリハットが集中している箇所がなぜ危険なのか、物理的・環境的な側面から分析するために不可欠です。時間帯(登下校時や夜間)や天候、季節を変えて現地を確認することで、一過性の要因や見落としを大幅に減らすことができます。

ヒヤリハットマップの作り方

ヒヤリハットマップの作り方フロー

ヒヤリハットマップは、目的と対象範囲を明確にし、複数データを共通の地図上で整理して作成します。また、単に作成して終わりではなく、具体的な対策の立案とその後の効果検証までをセットで設計することが成功の鍵です。

1. 目的・対象・期間を決める

まずは、何のためにマップを作るのかを明確にします。対象エリアを通学路とするのか、市街地の生活道路とするのか、あるいは特定の事業所周辺とするのか、などを検討します。さらに、歩行者・自転車・自動車のうちどの対象者の危険を重点的に扱うか、平日と休日の違い、昼間と夜間、あるいは特定の季節など、分析を行う期間や条件を具体的に定義します。

2. ヒヤリハット情報を収集・整理する

設定した目的に応じて情報を収集します。アンケートを実施する場合は、質問項目を統一し、車両の挙動データを利用する場合は判定条件(減速Gのしきい値など)を設定します。情報が集まったら、日時、正確な場所、移動手段、事象の内容、進行方向、危険の重大度などをデータとして整理します。この際、個人を特定するような情報は必要以上に集めないよう配慮することが重要です。

3. 地図化して集中箇所を抽出する

収集・整理したデータを地図上に表示します。単に点の集まりとして見るだけでなく、道路区間ごとや交差点単位で集計することで傾向が見えやすくなります。また発生件数だけでなく、その道路の交通量に対する発生率や、急ブレーキの強度なども合わせて確認します。住民の声と車両挙動など、複数のデータが重なって危険を示している場所を、対策の優先候補として抽出します。

4. 現地確認と原因分析を行う

地図上で抽出された危険箇所に対して、現地確認を行います。地図上のデータだけで原因を断定せず、実際の道路構造や標識の視認性、人や車のリアルな利用状況を観察します。必要に応じて地域住民や学校関係者へのヒアリングも行います。原因が速度超過なのか、見通しの悪さなのかによって、速度抑制(ハンプやカラー舗装)、進入抑制(ゾーン30)、カーブミラーの設置、交通安全啓発など、打つべき対策が変わってきます。

5. 対策後の変化を検証する

安全対策を実施した後は、ヒヤリハットマップを再度活用して効果検証を行います。急減速の件数や強度、車両の通過速度、交通量、実際の事故件数、住民の体感評価が施策前後でどう変化したかを比較します。また、特定の道路に対策をした結果、抜け道として利用される別の道路に危険が移っていないか(迂回行動による新たな危険箇所の発生)も確認します。その後は、マップを継続的に更新し、次の優先順位を見直すPDCAサイクルを回します。

ヒヤリハットマップの活用例

ヒヤリハットマップは、目的を明確にすることで、地域の安全活動から行政のインフラ施策、民間企業の安全管理まで幅広く活用できます。利用者に合わせて表示する情報や説明方法を変えることがポイントです。

通学路・生活道路の安全点検

通学路の点検においては、これまで培われた現場の知見や児童・保護者の声に、客観的な車両挙動データを重ね合わせることで、潜在的な危険箇所をより精度よく特定できます。また登下校の時間帯に絞って危険を抽出することで、より実態に即した分析が可能です。学校、保護者、警察、道路管理者などの関係者のデータに基づいた根拠があれば、ルートの見直しや対策の検討をスムーズに行えます。

道路整備・交通安全施策の優先順位付け

自治体や建設コンサルタントが道路整備を行う際、限られた予算のなかで、どこから対策すべきかを決める際の優先順位付けに活用されます。事故が起こる前の危険兆候が集中している箇所を、客観的に洗い出し、ガードレールの設置、路面表示の刷新、見通しの改善、速度抑制など、原因別に対策を検討することが可能です。また、客観的なデータは、地域住民や自治体関係者に対策の必要性を説明する際の根拠にもなります。

物流・事業所の安全管理

物流企業や地域の事業所において、業務中の安全管理に応用することも可能です。所属するドライバーからのヒヤリハット報告や、社有車などに搭載されたデジタコ(デジタルタコグラフ)の急減速情報を一元的に集約します。これにより、配送ルート上にある危険箇所や、事業所の構内・出入口における見落としがちなリスクを可視化し、従業員への安全教育や、より安全な配送ルートへの見直しにつなげられます。

ヒヤリハットマップ活用時の注意点

ヒヤリハットマップは有用なツールですが、データの扱い方を誤ると間違った対策につながりかねません。作成と運用のプロセスにおいては、以下の点に十分注意を払う必要があります。

データの偏りと母数を確認する

住民からの投稿・指摘数は、その地域における参加者数や安全への関心度に大きく左右されます。また、急ブレーキの発生件数が多い場所を、単純に最も危険な場所と順位付けすることは適切ではありません。ベースとなる交通量や、データ取得対象となる車両の走行サンプル数に比例して増減するからです。単純な件数ではなく、交通量あたりの発生率やブレーキの強度、集計期間、走行サンプル数などを組み合わせた評価が求められます。

急ブレーキの原因を地図だけで断定しない

車両データから抽出された急ブレーキの要因は1つではありません。前方の赤信号に気づくのが遅れた、渋滞の最後尾に差し掛かった、路上駐車を避けようとした、あるいは純粋に道路の構造(急な下り坂やカーブ)によるものなどさまざまです。地図上のデータだけで、事故が起きる場所と断定するのではなく、あくまで優先的に調査すべき候補として扱い、ドライブレコーダーの映像、過去の事故情報、そして現地調査を通じて慎重に検証する必要があります。

個人情報と公開範囲に配慮する

住民の投稿や車両データには、プライバシーに関わる情報が含まれるリスクがあります。マップを一般公開する際には、投稿者本人や対象となった車両、あるいは児童の自宅などを特定できる詳細な情報が含まれないようマスキング処理を行います。データ母数が少ない地点では、匿名化しても前後の文脈から個人が推測される可能性があるため注意が必要です。あらかじめデータの利用目的、保存期間、第三者提供に関するルールを明確に定めておくべきです。

まとめ

急減速データの活法方法

ヒヤリハットマップは、交通事故の事後対応ではなく、事故に至る前の危険兆候を場所と結び付け、実効性のある安全対策につなげるための重要なツールです。住民の定性的な投稿、客観的な事故統計、そして車両の急減速データといった複数の情報を組み合わせることで、見落としを大幅に減らすことができます。そのためには、地図上のデータだけで原因を断定せず、母数の確認や綿密な現地調査、そして施策後の効果検証をセットで行うことが不可欠です。

Hondaが提供する「SAFETY MAP」では、急ブレーキ多発地点や事故多発エリア、投稿地点を直感的に地図上で確認することが可能です。さらに、法人・自治体向けのデータソリューションである「Honda Drive Data Service(HDDS)」を活用すれば、指定地域の急減速地点・発生件数・強度などを目的に応じて詳細に集計でき、危険箇所の抽出や対策の効果検証に役立ちます。

参考:みんなでつくる安全マップ

また、HDDSでは新たに「Risk みっけ」というソリューションの提供も開始しています。Risk みっけは、Honda車両の走行データと信号・交差点などの道路環境データをAIで統合的に解析し、地域ごとの交通事故リスクを相対指標として可視化する先進的なシステムです。どの道路が危険かだけでなく、なぜその場所のリスクが高いのかを、速度や不規則な挙動、注意散漫などの要因を分析し、改善提案を含むAIレポートを自動生成します。

これまでは統計データの提供が中心という印象が強かったプローブデータサービスですが、Risk みっけのようにAI解析のインサイトを取り入れた製品が登場したことで、自治体や道路管理者による施策のPDCAサイクルは、より迅速かつ高度に進められるようになります。個別案件でのデータ提供可否やサンプル条件などの詳細については、ぜひ窓口へお問い合わせください。

このコラムの執筆者

執筆者写真
佐藤耕一
自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT業界に転じて自動車メーカー向けビジネス開発に従事。のちライターとして独立。自動車メディアとIT業界での経験を活かし、SDV・EV関連動向を中心に取材・執筆・動画制作・レポート/コンサル活動を行う。日本自動車ジャーナリスト協会会員。
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