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ジェンソン・バトンのF1ダイアリー

2003年3月9日 日曜日(決勝)

 ゆっくりと睡眠をとってベッドから出る。日曜日の朝のフリー走行がなくなったおかげで、エンジニアとの打ち合わせに間に合うようにサーキットに入れば良くなった。去年までの6時起床の生活とはおさらばし、朝9時半にホテルを出る。

 午後1時半、ピットレーンがオープンし、ジェンソンは午後2時のスタートに備えて自分のスターティング・グリッドにマシンを進める。すべてのドライバーの頭の中を去来するのはタイヤのことだ。ドライでいくべきかウェットでいくべきか。コースの反対側は早朝に降った強い雨によってまだひどく濡れているが、雨はすでにあがっていたし、今後降ることはないという予報が出ていた。ジェンソンは、もともと予定していたピットストップのころにコースも乾くだろうという読みもあって、ウェットを選ぶ。

  レースの出だしは上々だった。ジャックをスタート時に抜き、1周目で6位に順位を上げた。しかし予想に反してコースが早く乾き始め、5周目に最初のピットインを強いられた。その間にジャックは再びジェンソンの前に出た。

  しかし25周目に、あろうことかジャックとジェンソンが同時にピットインしたことによって、レースは台無しになってしまう。ピットでの混乱によって2人ともタイムロスをした上に、ジェンソンはジャックに14秒遅れてコースに戻る。事実上この時点でジェンソンのレースは終っていた。このことさえなければポイントをゲットできたかも知れない。

「イヤホンの故障でピットの声が良く聞き取れなかったんだ。チームの指令が良く理解できなくて、あの時には1ラップ早めにピットインしろというのがわからなかったんだよ」
と、ジャックはレース後の会見で述べた。

  25周目以降、ジェンソンとジャックのペースは極端に差がつき始める。1ラップ、平均1秒のペースでジャックを追いかける。しかし結局10位でフィニッシュ。
「ピットストップでの出来事は不運としか言いようがない」
デビッド・リチャーズは言った。
「チームオーダーというものはB・A・R Hondaには存在しないが、あの時点で明らかに2人にスピードの差がないかぎり、ジェンソンのピット作業を優先させるのは無理だ」

  レースのあった日曜の夜、レース時から続く緊張をほぐすためでもある冷たいビールを飲みながら、ジェンソンは静かに彼自身の感じたことを話し始めた。
「振り返ってみればそんなにひどい週末ではなかったと思う。むろん、もっといい結果を残せたかもしれないけど、これよりもっとひどい結果に終った可能性だってあったわけだし・・・。なにしろメルボルンに着いた時に体調は最悪な上に、燃料を最小限しか積んでないマシンをテストしたことはなかったんだから、良しとしないとね」

「今日のレースではジャックより速かったことと、彼をオーバーテイクできたことを考慮すれば、入賞してポイントを獲得できたと思う。彼がピットにいる間にもう1ラップしてれば彼より前にコースに戻れたと信じている。しかし第1戦はもう終ったんだし、次戦、そして残りのシーズンに向けて気持ちを切り替えなきゃいけない。わかっていることはマシンの出来が良いことで、マシンの力を最大に引き出せるようになる日が待ち遠しいよ。」

  翌日、クイーンズランドのポート・ダグラスへ飛行機で移動したジェンソンは、赤道に近いセパンの熱気をともなう、最も肉体的に厳しいマレーシアGPを想定したトレーニングを開始した。闘いは幕をあけたばかりなのだ、ジェンソンには休む間などない。(終わり)

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