Behind the ScenesVolume16

Behind the Scenes -ピット裏から見る景色- Vol.16

Behind the Scenes -ピット裏から見る景色- Vol.16

皆さま、お久しぶりです。広報のスズキです。いよいよ今週末は日本GPですね。(天候がかなり心配ですが…)

今年はToro Rosso、Red Bullとの2チーム体制になって初めて迎えるホームレース。Hondaのメンバー、それにチームのメンバーも例年以上に引き締まった気持ちで週末に臨む準備をしています。たくさんのファンの方々に応援してもらえる楽しみと緊張感が入り混じった思いですが、前向きな成績とともにホームに戻って来られることは、みんな本当にうれしく感じています。

Behind the Scenes -ピット裏から見る景色- Vol.16

僕個人としては3回目のホームGP。初回の2017年はホームGPということ以上に、さまざまなニュースが飛び交い、よくわからないままに週末が過ぎていった記憶、昨年は2台そろってすばらしい予選結果を出した後、あと一歩でポイントに届かず、うれしさ半分、くやしさ半分という思い出です。(予選後に「まだ上に行けた」と言う湊谷エンジニアの悔し涙が印象的でした)

今年は皆さんからの期待の大きさを実感しつつ、夏以降ライバルのパフォーマンス向上もあり、簡単なホームレースにならないとも感じています。とはいえ、鈴鹿は本当に難しいサーキットなので、優秀なエンジニアたちの奮闘に期待しています。

―日本GPへ向けてスペシャルムービーを公開

少し前置きが長くなってしまいました。

今回はいつもと少し主旨が違い、宣伝みたいなこと?をさせていただこうと思います。もしかしたらすでにご覧になられた皆さんもいるかもしれませんが、日本GPを迎えるにあたり、以下のようなムービーをアップしました。

今春にリリースした”Powered By Honda”というビデオの第二弾、今回のテーマは「The Finish Line Is Never The End / ゴールは、まだ先にある」。数々の栄光や苦節を重ねてきたHonda F1の歴史のなかで、アイコニックなシーンをピックアップしてアニメーションと実写で再現したもので、「ここから先の歴史は、僕たちが築いていく」という想いの下に作りました。

皆さんそれぞれの記憶や想いとともに自由に楽しんでいただきたいと考えているので、ここで詳しく企画意図やウラ話を語ることはやめておきます。情熱あふれるUKのクリエイティブチームと一緒に細部までこだわって作ったので、気に入っていただけたら幸いです。

―1965年、F1初勝利後の国際電話のテープを発掘!

そうは言っても、なにかムービーに絡めたエピソードを書けたらと思って始めたこの話。せっかくなので、制作を進める中で見つけた社内資料について、少しだけシェアさせてもらいますね。その名も、「1965年メキシコGP国際電話」。Hondaの生き字引とも言えるベテラン広報、松本から出てきた資料です。

僕たちの大先輩が、50年以上前にF1に挑戦し、地球の反対側で初優勝を遂げた後に国際電話で話した際の記録で、ムービーでは冒頭に登場するレースの夜。メキシコシティのホテルと、和光にあるHondaの研究所との通話です。

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1980年代の第二期ならともかく、1960年代ともなると映像も少なく、僕自身、いったいどういう状況でレースをしていたのか想像がつかなかったのですが、記録を読むと、現代と違う部分、全然変わらない部分など、いろいろと見えてきておもしろいんです。情報伝達スピードの差はあるものの、話している内容は今のエンジニアと同じで、昔も今も「根っからの技術屋、レース屋の会社」なんだなと改めて感じた次第です。

実際はすごく長いので、以下はその中からの抜粋になります。

―今も変わらぬ”技術屋魂”が会話にも

杉浦(研究所所長):おめでとうございました
森(車体設計担当):どうも、あの・・・
杉浦:よかったね。夢ではないかと思って疑ったよ。
森:こちらもね、もう本当にね。
杉浦:涙がこぼれたの(笑)?
森:もう、涙が出ましてね、もう、すごかったんですよ。
杉浦:そうだろう、うん、苦労のかいがあったからな。とにかくこっちからは何にも言うことねえんだよ。「コングラチュレーション」だけだよ。

こんな風に、冒頭は歓喜にあふれた会話から始まります。この辺りは、僕たちが今年、オーストリアで感じた気持ちと似ているのかもしれません。浅木さんと田辺さんの会話もこんな感じだったのかもしれませんね。

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その後、話はレース内容の詳細に入ります。レース展開はもちろん、タイム差、気候、ラップタイムなど、日本側には全く情報がなかったようです。当時はファックスもなく、通信社が発信する”テレックス”から結果を読み取るだけだったそうです。レース内容の合間には以下のようなテクニカルな会話も入ってきます。このあたりは今も変わりませんね。

杉浦:エンジンの調子どうだった?全部12本(12気筒)燃えてたかい?
森:ええ、それは燃えてました。
杉浦:どこで前のマシンを抜くことができたの?
森:それはね、まだ・・・よくわかりません。明日よく聞いてみますけどね。
杉浦:うん。操縦性が抜群にいいというほどのものじゃないよね、うちの車さ。でも、スプリングは、ショックアブソーバーのセッティングも極めて調子よく、うまくあったんだよな。とにかく、みんなの条件がうまいことそろって非常によかったな、これは。本来こういう風にそろえば勝てるべき性質の車だったんだな。
森:一番うまくいったのは、燃料の方ですね。奥さん(エンジン性能研究担当の奥村さん)の方のセッティングなんですよ。
杉浦:なるほど。えーと、あと何か聞くことあるかよ、おい。負けたんなら聞くことあるけど、勝ったのは聞くことねえだろう、もう本当に。

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―「来た、見た、勝った」の秘話

それから、いろいろな人がかわるがわる電話に出て喜びを分かち合った後、メキシコ側でレース後の業務を終えた中村良夫監督が電話に出ます。中村さんはメキシコでの優勝後にHondaの本社宛にユリウス・カエサルの言葉を引用し、「”Veni, Vidi, Vici." (来た、見た、勝った)」という電報を送ったことが知られていますが、それに関する話もしています。

杉浦:おめでとうございました。”ベニ・ビディ・ビチ”ですね。
中村:もう行きましたか?
杉浦:来ましたよ、来ましたけどね、あらつづりが違う。はは、あれ読むのに苦労しましたよ(笑)
中村:あれはシーザーの有名な言葉ですよ。
杉浦:だけどもね、字が違うもんですからね、どういう意味だろうと思って随分考えたんですよ。そのうち思い出しましたね、ははは。
中村:結果は皆さん、社長や専務もご存じですか?
杉浦:本田技研、特に本社の方は、なんかてんやわんやなんだよ。F1が勝ったっていうんで。ちょっとオーバーに言うならばですね、Honda中がひっくり返るような大騒ぎになっているよと。モーターショーのレイアウトも急遽ひっくり返して、F1号を飾るようにしております。今朝9時ごろだったかな、10時ごろかな、APの電報が入りましてね。「何言ってやんだい、うそつけ」そんなもんだったんですよ。それがだんだんコンファームしましたら、「いや、本当だ」になりましてね。「それは大変だ」とワアワア騒いで。急遽社内放送をやりましたし、それから明日は特別食を出して昼飯をおごると。
中村:あんまり早くおごらないでですね、私たちが帰ってからおごってください(笑)
杉浦:どうだろうねえ、ハハハ

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綴りが違っていたのはご愛敬ですが、中村さんの電報について、田辺テクニカルディレクターは以前、「当時は理系のエンジニアといっても幅広い知識があったから、あんな言葉をポンと送れるんだよな。受け取った側もそれでわかっちゃうんだもんなあ。みんな博識で頭のいい人たちだったんだよ」と話していました。たしかに、あんな言葉、急には出てこないですよね。

メキシコと日本との電話は約30分におよび、当時の状況や、喜びをかみしめる様子がが伝わってきます。その中に、「1年間の積み重ねがね、なんか花開いた感じです」という言葉があったのが印象的です。今よりも感覚としてはるかに遠い海外で初めてF1に参戦し、全く情報もない中から1年間戦い続け、ようやく掴んだ初勝利。その喜びはどれほどのものだったんでしょう。

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一方で、僕たちが今年挙げた勝利もゼロから4年以上積み重ね、多くの苦難の末に勝ち取ったもの。どちらも比べようがないですが、それぞれに尊く、重たい1勝だったと感じます。
でも、僕たちのゴールは、まだ先にあります。

さて、今週末は日本グランプリ。

皆さん、歴史の、その先へ。
一緒に挑みましょう。

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