Behind the ScenesVolume14

Behind the Scenes -ピット裏から見る景色- Vol.14

Behind the Scenes -ピット裏から見る景色- Vol.14

初めまして。Honda F1の岡田と言います。

先日のロシアGPは、Hondaにとってはなかなか厳しいレースでしたね。まだまだ、自分たちの実力を上げていかなくてはいけないと感じた一戦でした。

私はいわゆるHonda F1の第二期、1991年からF1プロジェクトにかかわっています。今回は冬季五輪で知られるロシア、ソチでのレースでしたが、当時の感覚では、ロシアでレースをすることになるなんて想像もできなかったです。東欧と言ってもハンガリーまでですし、時代は変わるものなんだなと思っています。同じ欧州だけど言葉も全く違いますし看板の字も読めないので、私が馴染みのある伝統的なF1開催地とはずいぶん雰囲気が違いますね。

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ここでは自分の仕事について書いてほしいと言われていますが、第二期のメンバーで今もサーキット業務をしているのは私と田辺テクニカルディレクターだけですし、せっかくなのでそのころの話を交えてみようかと思います。

私の仕事はHonda F1のなかでは通称「電気屋」と言われるものです。と言っても別に電球やTVを売ったり修理したりしているわけではありません。ただ、電流や電圧という部分に関わっているので、そこは名前の通りですね。「エンジン屋さん」は内燃機関やICEと言われる「エンジン」が専門で、ガソリンと空気を燃やし、いかに効率よくパワーを出せるかを追求していますので、彼らとは異なる領域です。

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現代F1では、私たちはハイブリッドの回生部分、高圧系ともいわれる、MGU-H/MGU-K/バッテリーなどの、ハードウェアの信頼性部分に携わっています。もう少し分かりやすく言うと、たとえば走行中にバッテリーなどに異常が発生して、周囲にいる人が感電する危険な状況になっていないかといった部分を、データを見ながら常時監視しています。

F1マシンに使われている回生システムは、サーキットで速く走るためのパフォーマンスを引き出すことが最優先になっているので、お店で売られているハイブリッド車とはいろいろな部分が大きく異なります。我々が扱っているハイブリッドは高電圧ですし、常に開発と改善が続けられている”ワンオフ(少量生産)”の特注品です。何年もかけて開発され、安全性に確実な担保がされた量産のハイブリッド車のシステムと比較すると、F1のシステムは非常に繊細な扱いが必要で、監視体制も万全でなくてはなりません。ただ、開発陣の努力もあり、幸いにもこれまで感電などの事故は発生したことがありません。扱いは難しいのですが、特に’熱回生’と言われるMGU-Hのシステムなどは間違いなく最先端の技術で、ロジックとしても非常に優れているので、それらに携われる喜びは感じています。

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―約30年前のF1は?

ちょっと込み入った話になりすぎましたが・・・

ここまで読んで、ハイブリッドシステムがなかった第二期のころは何をしていたのかと思われる人もいるかもしれませんね。そのころは私もまだまだ新人の若造で、ファクトリーでの仕事がメインでした。今とは違い、怒ると鬼のように怖い先輩方が山ほどいた時代です。

当時はハイブリッドどころか、「データ」という概念自体がほとんどありませんでした。データ戦争ともいわれる現代F1ですが、そういった領域は当時の私たち、Honda F1のメンバーが切り開いてきたといっても過言ではないと思っています。

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まず、私の新人時代から少し遡った先輩たちが「走行中のエンジンデータ」を集めることを始めたんです。初期はテープレコーダーをシートの下に入れ、走行中の水温、湯音、水圧といったエンジン屋さんが欲しいデータを電気信号に変えてテープに記録、それを走行後に回収していたんですよ。健康診断の心電図のデータをイメージしてもらうと分かりやすいかもしれませんね。

―「テレメトリーシステム」を生み出したHonda F1

私の新人時代には、そのデータを走行中にガレージに飛ばす試みが開始されました。いまのF1の「テレメトリーシステム」の先駆けですが、この辺りは間違いなく当時のHondaが時代をリードしていたはずです。

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当時、サーキットのスタート/フィニッシュラインには、ラップトリガーという、タイムを記録する装置があり、そこを通り過ぎたときの電波を記録することで、1周のタイムを計っていました。当時の私たちは、記録したエンジンのデータをその電波に乗せて飛ばすことを思いついたんです。ですので、現在のように常時データが飛ぶのではなく、あるラップの油温や水温などの最大値、最小値といった値が、そのラップを終えたときに1度だけ飛ぶ仕組みから始まったんです。現代F1に比べるとデータの種類も数千分の1というほどで、頻度や精度も高くはなかったですが、それでも当時は非常に画期的なシステムだったんです。

すみません。話がマニアックすぎますね・・・。少しは興味を持っていただけたらいいのですが、よく分からなかったらごめんなさい。

まだまだ話したいことがありますが、今回はこのくらいにしようかなと思います。

次回は日本GPの思い出や、今年の日本GPにかける想いなどを話せたらなと思っています。それではまた!

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