フォトグラファーの視点だと、シンガポールはナイトレースということもあり、美しい写真がたくさん撮れるといううれしさもあるんです。腕の見せ所でもありますよね。さて、前回に引き続き、僕のF1でのキャリアについて語っていこうと思います。
そばで見るF1マシンは本当に美しいんです。それがすごいスピードで駆け抜ける姿をどれだけカッコよくできるかと言うことだけにフォーカスしています。好きなものを撮っていると、もっと良くしたいというモチベーションは常に沸いてきます。昨年よりも今年、先週のレースよりも今週のレース、そして昨日よりも今日と言う感じで、もっといい写真を撮りたいといつも思っています。
あとは、これはフォトグラファーによりけりですが、僕自身は余計な編集をせずに撮ったものをそのまま使える写真というのも心がけています。デジタルフォトはいろいろなことができますが、F1は自分がサーキットで撮影した写真がWi-Fiで飛び、その2分後にはSNSで使用される世界なので、そのあたりのスピードを考慮すると撮ったまま使用できるというのは僕たちの仕事に求められる要素の一つです。
もう一つ、これは当たり前なんですが、きちんとそれぞれのサーキットの空気を伝えることもテーマですね。シンガポールはナイトレースの美しさでしたが、先日の2連戦のスパ、モンツァは、どちらも伝統のトラックで、特別な空気を感じます。ファンが熱狂的であることで有名なので、それを伝えることが僕の仕事です。
スパで言えば第二セクターにあるプーホン、モンツァで言えば最終コーナーのパラボリカが、スタンドにいるファンの空気感とともにマシンを撮影できるポイントです。特にパラボリカは撮影ゾーンがトラックに覆いかぶさるように設定されているので、撮っていて楽しいですね。どちらもマシンのスピードがとても速いので、リズムをつかむまでは少し時間がかかります。
たくさんのレースを観てきましたが、好きなドライバーは誰かと聞かれたら、4人ほど名前を挙げると思います。小さい頃は、ジャン・アレジとミカ・ハッキネン。英語で”Under Dog”と言うんですが、速いのに1番手になりきれず最後には2番手で終わる感じが応援したくなるんです。プロになってからは、フェルナンド・アロンソとマックス・フェルスタッペン。2人とも実際にサーキットで写真を撮っていますが、ドライバーとして”パーフェクト”としか言いようがないですね。間違いなくスペシャルな2人です。
一方で、フォトグラファーとしてリスペクトしている人や、憧れの存在がいるかと問われると、特にいないかもしれません。プロがたくさんいる世界ですが、いつも彼らに負けないと言う気持ちでいつも写真を撮っています。
Hondaとはかれこれ5年間一緒に仕事をしていますが、自分のキャリアの中でもひとつのハイライトだと思っています。無限の時代も含めて、1990年代によくTVで見ていましたし、メンバーは本当にみんないい人ばかりです。
2015年の復帰の際は、F1で偉大な歴史を持つメーカーが戻ってきたこと自体がすばらしいストーリーでしたし、そこに最初から関われたことをうれしく思っています。とても厳しい時間を過ごした後に、積み重ねた苦労が報われる姿を見られるのは本当にすばらしい経験でした。僕自身本当にうれしかったですし、自分の写真を通して、その想いが伝わったんじゃないかなと思っています。
今の僕に大きな課題があるとすれば、笑顔のタナベサンの写真を撮ることかもしれませんね(笑) 普段はにこやかなのですが、いざメディアやカメラの前にでるととても硬い顔になってしまうので、もしかしたら皆さんには実際のタナベサンとすこし違うイメージで伝わってしまっているかもしれません。
Hondaのサクセスストーリーはまだまだこんなもんじゃないと思っています。もっとたくさんの栄光の瞬間を、これからも皆さんに届けていきます!