30歳になる直前に奮起して初めて購入した新車がこの車だった。
スポーツカーに憧れ、スポーツカーに乗りたいと思い、実現できるころには免許を取ってから十年近く過ぎていた。
クーペやオープンを強く意識していたが将来家族を持つと考えた時、ちょうどマイナーチェンジをするこの車が妙に気になったというのが始まりだった。
アクセルを踏む、ハンドルを切る、少しだけ遠くに行ってみる、特別なことは何もしなかった、ただそれだけ。しかしその「ただそれだけ」のなんと特別なことか。
目的がある時もそうでない時もこの車に乗って出かける。結婚し、娘が生まれ息子も生まれ、30代はこの車と駆け抜けた。40代は落ち着いて乗っていた。この車だったからここまで乗ることができたと思うようになっていた。相変わらずシートに身を預け、イグニッションを回し、静かに走り出す。今日もエンジンの音が心地いい。
ついに20年が経過した。
結婚前、嫁サンに「俺は車道楽だからしょっちゅう乗り換えるからね。」と言っていたのにいまだに同じ車に乗り続けている。次に何に乗るかなんて夢にも思わなくなっていた。いくつか部品は変えてきたが今日も調子はよさそうだ。
アラウンドではなくジャスト50歳となり11月には21年目の車検と51歳の自分が控えていた。
少しだけ衰えを見せたこの車には、もう交換できる部品が無いとの事だった。
いつもより念入りに洗車をしてその姿を写真に収め、いつもより近場にはなるが今までと同じように、だけど一つ一つをかみしめる様にシートに座り、イグニッションを回し、ハンドルを握り、静かに走り出す。
この車を持つこと、この車に乗ること、この車を運転すること、全てが特別だった。
そんないつも通りの特別が今日で最後になる。
アコード ユーロR。
21年間本当にありがとう。


