MONTHLY THE SAFETY JAPAN●2002年3月号

高齢者の豊かなカーライフを応援する社会的なケアを

 高齢者の免許保有者数や交通事故件数が年々増加しているなど、交通社会の高齢化が急速に進んでいます。こうしたなかで、高齢者が参画できる交通安全教育の場、さらにそれを支える指導者のあり方が問われています。今回は高齢ドライバー教育を中心に、3人の識者に高齢ドライバーの事故の特徴、運転行動などを明らかにしながら、今後の高齢者に対する交通安全教育の展望について話し合っていただきました。

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生内玲子
(交通評論家)
  高齢者の移動手段を確保するために電動車いすの乗り方教育の実施も

 いちばん最初に衰えるのは動体視力のようですね。私も50歳を過ぎた頃から、ドライブしていてサッと通り過ぎた物がよく把握できなくなってきました。夜間の運転も見えにくくなっています。それから、もともと大きなクルマが好きなのですが、最近友人の小さなクルマに乗ったときに「運転しやすい」と思ったんです。車両感覚も変化してきているようです。こういう現象がいくつか起こってきて、それが老化につながるのではないかと思うのです。
 高齢者の移動の手段として、電動車いすの需要が伸びています。一方で、年々電動車いすによる事故は増えています。今後は、電動車いすの選び方や乗り方教育などを教習所でも気軽に教えてもらえる環境が整うといいですね。
販売会社で実車を使った身体機能のチェックを   ph
長嶋良
((財)交通事故
総合分析センター)

 加齢による身体機能の変化をチェックする方法として、販売会社などで実践してもらうといいと思います。販売会社の方が、安全アドバイスというかたちで購入者の方にクルマの機能などを説明していますが、そのときに店の駐車場を使って実際に走ってもらう。すべてできるわけではありませんから、最低限のブレーキングや、左右に手を挙げた方向に方向指示機を出してもらうとか、手を叩いたときにブレーキを踏んでもらうなどして反射能力について調べてみる。そういうなかで個別指導をしていくといいと思います。
 販売する際に、走らなくてもよいのでブレーキを全力で踏んでもらい、その踏み加減をみる。ブレーキを踏む力が甘いと思えば急ブレーキを踏んでもらう。そういうことをしないと、たぶんブレーキングひとつとってもなかなか理解していただけない。と言いますのは、事故例調査の時、「ブレーキは踏んでいたが、クルマが止まらなかった」という方がおります。本人は危険を感じてブレーキを全力で踏んでいるつもりなのですが、実はブレーキを踏む力が甘くて、スーッと流れている。加齢に伴いブレーキを踏む力も衰えてくるので、実際にブレーキを踏んでいるときの力がどの程度か知ってもらう必要があると思います。
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蓮花一己
(帝塚山大学教授)
  高齢ドライバーの運転データから加齢対策を考えるプロジェクトが必要

 クルマは移動の手段というより、自立やメンタルヘルスみたいなものと結びついているようです。自立した生活ができる、誰も頼らずに自分で買物にも病院にも行ける。豊かな生活を送るために、すべての方の移動の権利とモビリティの確保は大前提です。ただし、自分が豊かなカーライフ、人生を送るには自己管理が必要です。その自己管理がなかなか難しいから、社会的なケアが求められているのです。
 これから高齢ドライバーが増えることを考えると、国家プロジェクトととして、たとえば高齢者3000人の運転日誌をつけて、どこをどのくらい走ったか、なにが起きたか、溝に落ちたとか、こすったとか、どんな違反で捕まったのかといったことを記録しながら、今のような定期的な診断テストを行なって、それとの関連を調べていくという研究が必要です。対象者の層を分けて、定期的に縦断的に時間軸で追いかけていく。この場面でこの能力が低下したらこんな事故を起こしたと関連づけていく。大きなプロジェクトになると思いますが。


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