MONTHLY THE SAFETY JAPAN●2002年2月号

あやとりぃ教育の効果と可能性

 小学生への交通安全教育プログラム「あやとりぃ」がスタートして今年で6年目を迎えました。現在、三重県鈴鹿市、四日市市、桑名市など5市43校で展開されています。「あやとりぃ」を実践する小学校を取材し、その授業の模様を描くとともに、蓮花一己・帝塚山大学教授と鈴鹿モビリティ研究会、ホンダ安全運転普及本部の共同研究によるその教育効果の検証を紹介します。

ph 6年前、鈴鹿市牧田小学校での研究授業から始まった「あやとりぃ」による交通安全教育は、三重県の5市43校で実施されるまで広がりました。四日市市塩浜小学校では、2000年度、2001年度の市の安全教育指定校として、その教育プログラムに「あやとりぃ」を採用し、全学年を対象に道徳の時間で「あやとりぃ」を実施しています。
 伊藤信雄校長は「あやとりぃ」は、文部科学省が提唱する「真の学力」につながるものがあると評価します。「自ら考えさせ、判断し行動に落としこんでいく。これが一番大事な学力だと思います。子どもたちは『生きる力』を体験の中で、生活の中で学んでいくのです」
 1年生の授業では2学期に「あやとりぃ」の「歩く場所いろいろ」、3学期に「とびだしいろいろ」を授業で取り上げたそうです。「歩く場所いろいろ」は、登下校時に歩道の車道側の端を歩く子どもが多いため、「とびだしいろいろ」も自転車事故が多いことから、交通安全を身近な問題として考えさせることがねらいだったといいます。2組担任の内田三佐子教諭は「『あやとりぃ』の授業では、1年生の子どもたちでも『こういうところは危ないよ』などと自主的に考えて積極的に発言します。また、子どもの別の一面に気づかされることも多いです」と語ります。
 「『あやとりぃ』には家庭との連携で学習することも特長となっています。親子で登校することで通学路のことなど共通の話題ができます。そこから生活面の話にもなります。また、各学期に1回、授業公開週間を設け、地域の高齢者に授業を見てもらっています。ここから高齢者の交通安全にも寄与できるのではないかと思っています。子どもたちのいきいきとした発想と、高齢者の生活の知恵から『あやとりぃ』をさらに発展させたいと考えています」(伊藤校長)。 
 
 「あやとりぃ」教育の中心である鈴鹿市から、昨年さらに新たな動きがありました。幼稚園、小学校、中学校にわたって取り組む形です。山崎正邦・鈴鹿市教育委員会事務局指導課長によると、「三重県では昨年の1学期、子どもたちの交通事故が増えました。市として何ができるかいろいろと議論した結果、『あやとりぃ』に真剣に取り組もうということになりました。そこで9月に公立の幼稚園、小学校、中学校すべての交通安全担当を対象に、『あやとりぃ』の実践報告をもとにした研修会を行なったほか、『あやとりぃ』を全小学校に配布しました。来年度は公開授業と検討会の形で研修する予定です」。山崎課長は、今年4月から総合学習の時間が導入されることで、「あやとりぃ」の授業も、より時間がとりやすくなるのではと期待しています。
 こうした「あやとりぃ」の広がりに連動するように、幼児を対象にした「あやとりぃ ひよこ編」を使った幼稚園や保育園での安全教育、さらには「子ども自転車編トレーニングマニュアル」を使った小学校での自転車指導なども広がりを見せています。風口善紀・同交通安全対策課副参事は、「『あやとりぃ』は、子どもの自転車事故の原因は一時不停止、安全不確認であることに注目して、それに対応した技能を身に付けるという目標が明確です。きちんと止まることの必要性、止まらないとよく見えないことを実技で教えます。また、公道で実際に自転車に乗る校外教室を今年度は16回実施しました。その際、保護者の方にご協力いただき、各ポイントごとに監視役として立っていただきました。保護者の方も自分の子どもたちの走り方を見て、実際にどんな乗り方をしているのか、安全な乗り方とは何かを気づくという効果がありました。今年度から自転車教室はこの方法でやるように各学校にすすめています」と「あやとりぃ」を評価しています。
 
 今号では、広がる「あやとりぃ」教育の姿を鈴鹿市神戸小学校、鈴鹿市愛宕小学校の2校の授業風景を交えながら紹介しています。

「あやとりぃ」の教育効果を実証
 「あやとりぃ」の教育効果の検証は、帝塚山大学人文科学部応用心理学研究室(代表・蓮花一己教授ほか)が鈴鹿モビリティ研究会、ホンダ安全運転普及本部との協力で行ないました。1998年に実施された効果測定研究(蓮花教授)で立証された、「『あやとりぃ』の学習による児童の交差点での確認行動や一時停止行動の改善」を参考に、「あやとりぃ」教育実施前後での知識面、理解面の変化について調査・分析をしました。
 調査は2000年度にあやとりぃ教育を実施した教育実施群5校と、あやとりぃ教育を実施していない対照群1校の計6校の3年生児童、延べ676名を対象に、「あやとりぃ」に含まれる教育内容を、(1)法的知識、(2)安全知識、(3)危険回避行動、(4)総合問題の4つのカテゴリーに大別した質問項目によるテスト形式で実施しました。
 調査の結果を総合得点の群別ヒストグラム(度数分布表)で表わすと図1のようになりました。「あやとりぃ」教育実施前と比べると、教育実施後は全体的に高得点側へとシフトしていることがわかります。


 また、法的知識、安全知識、危険回避行動、総合問題の4つのカテゴリー別の比較では、図2のようにすべてのカテゴリーで教育実施後の得点が高くなっています。一番上昇したのは「安全知識」でした。これはクルマの死角やタイヤの軌跡など子どもには難易度の高い問題であり、「あやとりぃ」の学習によって初めて理解したと可能性が高いと考えられます。
 これらの結果から、「あやとりぃ」教育による児童の知識面・理解面での改善が、行動の変容に結びついていると推定することができます。


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