屋外で遊ぶ釣りは、怪我やトラブルのリスクが常に伴います。大切なのはそれらを未然に防ぐ予備知識を得ておくこと。夏は行動範囲が広がるため、情報をアップデートするいいタイミングです。今回は「山編」と題し、主に川釣りや渓流釣りで役立つ知識をご紹介します。

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夏に増える虫のトラブル

夏の釣りで多いトラブルの1つに「虫刺され」が挙げられます。刺された箇所が赤く腫れ、人によってはアレルギーも起こりえるため、できるだけ避ける対策が必要になります。夏は虫たちも活動的になり、害はなくても不快な種類もいるので、それらへの対処法をあらかじめ知っておくと釣りが快適になります。虫以外ではヘビも同じ時期に気を付けたい生き物です。釣り場で遭遇することが多い、厄介な虫の種類や対策を押さえておきましょう。

ヤブカ、ヌカカ、ブユ

屋外に生息するカ(ヤブカ)のほかに、夏場の釣りで厄介な虫の代表格に、ヌカカとブユがいます。どちらも非常に小さく、羽音がしないためいつのまにか刺されてしまうのが特徴。虫除けスプレーもある程度の効果は期待できますが、完全に防ぐことは難しく、一番の予防は刺されやすい状況を予期して、肌の露出をしないことになります。特に注意すべきは朝夕の着替え時。釣りの最中は大丈夫だったのに、着替えのために手や足を露出させたわずかな時間に、ひどく刺されてしまったというケースがよく起きます。朝、サンダル履きで釣り場に到着し、クルマを降りて川のようすを見ていたら、いつの間にか刺されていたというのもよくあるケースです。

ヌカカやブユは、標高的にはそれほど高くなく、ただしキャンプ場があるような、きれいな水が流れる土地に多く生息しています。アユ釣りが楽しめるような土地はこうした場所が多い傾向がありますので、短パンにサンダルといったラフな格好は避け、着替えもなるべく短時間で済ませる意識を持っておくとトラブルを減らせます。なお、いずれの虫も同じですが、刺されたあとの腫れや痒みがひどい場合は、なるべく早く医療機関(皮膚科)で診てもらいましょう。

山里のアユ釣り。のどかな景色が魅力だが特に朝夕は虫刺されに注意したい
アブ

お盆前後の渓流(特に標高の高い山地渓流)で大量に発生し、釣り人に集団で襲い掛かるのがアブ(通称メジロアブ)です。二酸化炭素の発生源に引き寄せられる性質から、釣りに行くとまずクルマに多く集まる習性がありますが、クルマから離れて川に入ってしまえば数が減り問題なく釣りができる場合と、川でも多くのアブにたかられて釣りにならない場合があります。どちらかは現場判断になりますが、釣りにならないレベルであれば、思い切って釣り場(河川)を変更しましょう。

そのうえで、アブ対策として有効な方法に、衣類にだぶつきを持たせる方法があります。身体に密着するウェアだけでなく、その上にアウトドア用のシャツやフーディーをゆったり着ることで、アブの口が肌面まで届きにくくなり、アブにたかられても咬まれにくくなります。なお、アブについては、オニヤンマ(=アブにとっての捕食者)の模型を身に着けておくと、アブを忌避できるという話もありますが、実際の効果は釣り人により意見が分かれているのが実情です。

夏の渓流で厄介なアブ。クルマに寄って来る分には実害はないが、水辺に降りても付きまとってくる場合は、数により退散を強いられる
夏の渓流で厄介なアブ。クルマに寄って来る分には実害はないが、水辺に降りても付きまとってくる場合は、数により退散を強いられる
ハチ

スズメバチやアシナガバチといった山で出会う危険なハチは、釣り人が刺激しなければ襲ってくることはありませんが、川では大きな倒木の陰などに巣を作っている場合があるため、不用意に木を蹴とばしたりしないようにします。周囲にハチの姿があるなど、何かサインを感じ取ったら注意して歩くようにします。

川に倒れた倒木などはハチが巣を作っている場合がある
メマトイ

渓流で釣りをしていると、目の周りを常に飛び回る小さな羽虫によく会います。メマトイと呼ばれ、刺されることはないですが、目の中に入ることもあるため非常に厄介です。メマトイにはハッカスプレーが有効で、純度が高いものほど忌避効果を実感できます。ただし、純度の高いハッカスプレーは肌や目にも刺激が強いため、帽子のツバに定期的に噴霧したうえで、偏光サングラスをかけてメマトイが目に近づきにくいようにすると効果的です。

毛虫

渓流で厄介な虫の1つが毛虫です。樹木の枝や葉の裏などにいるものに、うっかり手や首が触れてしまうケースが大半なので、川に降りるまでの間になるべく肌がそうした場所に触れないようにします。

毛虫は非常に種類が多い。葉の裏などにいるものは気付きにくいので、歩く時もむやみに草を掴んだりしないようにするとトラブル回避につながる
ヤマビル

山道を長時間歩く時、地域によって遭遇しやすいのがヤマビルです。シカの生息域拡大にともなって、ヤマビルも広がっているといわれ、人の体温を察知して地面から這い上がって来る性質があります。靴にヤマビル用の防虫スプレーを吹きかけておくのが効果的で、流れの中に入り成分が落ちたと思ったら、こまめに追加の噴霧をすると回避しやすくなります。

ダニ

近年、全国的に注意を喚起されており、山や川近くの草むらに生息しているのがダニです。ダニは肌に食いつくように吸血し、まれに重篤な感染症の媒介になることが知られています。肌の露出をあらかじめ少なくしておく基本的な対策のほか、川に入るために草地を長時間歩いたあとは、ダニに食いつかれていないかを目で確認します。山中で見つけた場合は自分で取り除きますが、頭部が皮膚内に残ることが多く、あとで化膿することもあるので、いずれにしてもダニに咬まれたのを確認した場合は皮膚科で診てもらいます。

ヘビ(マムシ)

出没地には看板が立っていることが多いので、まずはそれらに気を配りましょう。そのうえで、川沿いの草むらのほかに、全体に暗い渓流の中で日なたになっている岩場や護岸のコンクリートの上は、マムシが体を温めるために日光浴をしていることがあるので、うっかり踏んだり、手をついたりしないように、あらかじめ気を付けます。

山間部の釣りは怪我や遭難に注意

また、夏に機会が増える山間部での釣りは、怪我や遭難のリスクも高くなります。多くの場所では携帯電話の電波が届かないため、最悪の場合、捻挫であっても遭難に繋がる可能性がゼロではありません。最後まで無事に帰宅できるように、いくつかのポイントをチェックしておきましょう。

山奥に入る源流行なら二人以上での行動が必須。より一般的な渓流に出かける場合も、行き先は必ず周囲に伝えておく
周囲に行き先を知らせる

どんな釣りにも共通することですが、釣りは「行き先」を周囲に伝えておくことが大切です。特に山間部の渓流に入る時は、「どこの川のどのあたりに入る予定か」を、家族などに伝えてから出かけます。最近は登山計画を地図から作れるweb上のサービスを利用している人もいます。

できる限り複数人で出かける

複数人で行動することで、万一誰かが大きな怪我をした場合にも、他のメンバーが救助を求めに行くなど迅速な対応が可能になります。また、クマなどの野生動物との出会い頭の事故を防ぐのにも、複数人で行動するほうが有利です。

日中の釣りでもヘッドライトを忘れず携行する

山では木や稜線に囲まれているので、思いのほか早く周囲が暗くなってきます。その際、手もとに照明がないと、帰路に焦りや不安がつのって道迷いや怪我の原因になります。たとえ明るい時間だけの釣りのつもりでも、いざという時に両手が自由なまま周囲を照らせるヘッドライトを忘れずに携行しましょう。また、その際は電池の残量も必ず確認しておきましょう。

行動食を用意しておく

照明と同様にいざという時の行動食も用意しておくことで、道迷いなどのトラブルに見舞われた時、体力を落とさずに落ち着いて行動することができます。ポケットに入るような小型の羊羹は糖分と水分が同時に補給できて有効です。

夏はダイナミックな自然に身を置ける分、可能な限りの安全確保が大切だ
むやみに斜面を下りない

渓流では少しでも早く水際に立ちたくなりますが、山の斜面の中には、落差のある崖の上に繋がっていたり、下りることはできても、引き返す(上り返す)ことは難しい場所がよくあります。地形図などを見て事前の情報収集をしておくのが基本ですが、現地で斜面を下りるか迷った場合、必ず「ダメな場合に引き返せる場所か?」を常に確認してから行動に移りましょう。

地図データは出発前にダウンロードし、釣り中の携帯は機内モードにする

電子機器に頼るのは禁物ですが、現在のスマートフォンは、地形図アプリを入れておくことで自分の現在地を正確に把握することができます。コツは自宅など携帯の電波が繋がるエリアにいるうちに、行動する予定の地形図を一度読み込んでおき、さらに現地では電池が消耗しないように、スマートフォンを「機内モード(GPSは機能するが電波を拾おうとして大きな電力を使わない)」にしておくこと。それにより、山中でも電池の消耗を抑えながら、地形図アプリ上で自分の正確な位置を確認しながら釣りをすることができます。

三点支持と先行者と間隔を空ける行動を徹底する

渓流で落差のある場所を移動する時は、両手両足の四肢(四点)のうち、常に三肢(三点)で身体を支え続ける「三点支持」を徹底します。これにより、動かしている手や足が滑った場合でも、体勢を崩さず滑落を防ぐことができます。なお、滑落は上り同様に、下りでもよく起きます。下降の最後に油断して三点支持をやめ、着地でバランスを崩して転倒する怪我も多いので気を付けましょう。また、斜面を上る場合は、先行者が上にいるうちに行動を開始すると、先行者が落石を起こした時に、避けられず大怪我をするリスクがあるので、充分な間隔を空け頭上がクリアになってから自分が動くようにします。

音が出るアイテムを携行する

最後に山に入る釣りで有効なアイテムにクマ鈴やホイッスルがあります。クマ鈴は山でもよく通る音を鳴らすことで人間の存在を知らせ、クマなどの動物との出会い頭の事故を防ぐものです。また、救急用のホイッスルは、仮に遭難してしまった場合、体力の消耗を最小限に抑えながら周囲に自分の居場所を音で伝えることができます。山に釣りに入る時は、こうしたアイテムもぜひ携行しておきましょう。

釣り場で起きるトラブルの大半は、ちょっとした予備知識と心掛けで防ぐことができます。慢心を避けたうえで、思い出に残る楽しい釣りの時間を過ごしてください。

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※このコンテンツは、2023年8月の情報をもとに作成しております。最新の情報とは異なる場合がございますのでご了承ください。