屋外で遊ぶ釣りは、怪我やトラブルのリスクが常に伴います。大切なのはそれらを未然に防ぐ予備知識を得ておくこと。夏は行動範囲が広がるため、情報をアップデートするいいタイミングです。今回は「海編」と題し、船釣りや磯釣りで役立つ知識をご紹介します。

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船酔いは薬の飲み方も工夫する

夏に限ったトラブルではありませんが、船酔いは快適な釣りを妨げる大きな要素です。季節的には、寒さが厳しく、海が荒れやすい冬場に比べて、夏は高気圧に覆われて穏やかな条件で釣りができるので、相対的には船酔いの心配は小さくなります。初めて船釣りをするなら、良い季節ともいえるでしょう。

そのうえで、船酔いの心配を少なくするには、原因、対策、安心を得るためのもうひと工夫、といった要素を押さえておくと効果を上げられます。

夏は船釣り入門にもよい季節。子どもは大人に比べて船酔いしやすいといわれるので、対策を知っておけばより楽しい思い出が作れる

まず船酔いの原因は、揺れ続ける船の上にいることで、身体の位置、揺れ、スピードなどを把握するための情報が、脳に過剰に伝えられることにあります。それらが目から入る情報ともずれ、脳が情報を処理しきれなくなると、体内では心臓や血管などの循環器、さらに胃や腸などの消化器をコントロールしている自律神経の働きが乱され、冷や汗、胃の不快感、さらに嘔吐中枢への刺激などが引き起こされます。こうして船に酔い始めた人は顔面蒼白になり、やがて嘔吐してしまうのです。船に酔ってしまったら、目をつむって横になると楽になるのは、目から入る情報を遮断したり、胃が楽な姿勢を取る効果と考えられます。

そのうえで、具体的な船酔い対策には、「基本的な体調管理」と「酔い止め薬の効果的な使用」の2本立てがおすすめです。

具体的な船酔い対策

  • 基本的な体調管理
  • ●前夜は睡眠をしっかり取る。寝不足は乗り物酔いの一番の原因
  • ●乗船前の食事は適度に取る。極端な空腹も満腹も避けたほうがよい
  • ●身体を締め付けないリラックスした服装をする
  • 酔い止め薬の効果的な使用
  • ●酔い止め薬は乗船前だけでなく前日も飲む
  • ※ただし酔い止め薬を飲んで眠くなる状態でのクルマの運転は絶対にしない

基本的な体調管理について、何よりも避けるべきはまず寝不足です。寝不足の状態はそれだけで自律神経が乱れやすく、実際、普段は船酔いをしないという人でも、寝不足で船に乗ったら気分が悪くなったということがよくあります。また、戻してしまうことを心配し過ぎて胃をからっぽにするのもよくありません。炭酸飲料、コーヒー、オレンジジュースなどの胃に刺激になる飲み物は避けたり、消化しにくい海苔の付いたおにぎりは避けるなどしたうえで、適度に食事をするほうが胃も落ち着きます。

食べ物はきちんと食べておいたほうがよい。その際は、胃に刺激になる飲み物は避け、脂っこいパンよりはおにぎりがおすすめ。ただし、海苔はないもののほうがよい

そしてもう一つ、いろいろ対策はしているが、やはり自分は船に弱いと困っている人に試してほしいのが、「酔い止め薬を前の日からしっかり飲む」という方法です。

一般に薬の成分は、腸管から吸収されて肝臓に届けられ、肝臓から血中に送り出されることで身体に行き渡ります。そのため、最も効き目を期待できるのは、血中濃度が最大になった時と考えられます。すると、乗船前に酔い止め薬を飲むだけだと、実は効き目のピークが後ろにずれていることが考えらます。船酔いは船に乗って早いうちに始まり、途中から急に気分が悪くなるというケースはほとんどありません。実際、「船酔いを克服できた」という人には、「前日の寝る前にまず酔い止め薬を飲み、さらに当日の朝にもう一度飲む」という方法を実践している人が複数います。その理由は、乗船時に「最も薬が効いている」状態を作れているからと思われます。

その際、注意が必要なのはクルマの運転です。酔い止め薬には眠気を誘う成分が含まれているので、酔い止め薬を飲んだ状態でのクルマの運転は絶対にしないようにします。そのためには、「電車で出かける」「仲間に運転を頼む」さらに「前の晩から釣り場(港)に出かけてしまい、酔い止め薬を飲んで朝までクルマで寝る」といった方法を考えます。

東京湾などは電車で行ける船宿も多い。遠方でも仮眠所や宿泊施設のある船宿を選べば、前の晩から早めに酔い止め薬を飲んでおける

船酔いの原因の半分は気持ちの問題(=心配や不安)ともいわれ、「心配していたけれど、大丈夫だった」という成功体験が一度できると、次から苦手意識がなくなります。ぜひ心配しすぎず、基本的な対策と酔い止め薬の活用を組み合わせてみてください。

共通点も多い熱中症と日焼けの予防

また、夏の釣りは熱中症対策が欠かせません。基本的な対策はよく言われるように、「喉が渇く」「暑さでふらふらする」といった自覚症状が出る前に、定期的な水分と塩分(ミネラル)の補給を行うことになります。さらに、不用意に体温を上げないように、帽子の着用、通気性・速乾性のある衣服の着用、冷たいタオルなどで身体を冷やす、などの基本的な対策を心掛けます。

具体的には、夏はどんな釣りの場合も、他の季節よりワンサイズ大きなクーラーボックスを持っていくか、複数のクーラーボックスを持っていきます。その中に少なくとも1リットル以上の飲料水(1人当たり)、多めの氷や保冷剤の代わりにもなる凍らせたペットボトル、塩分や糖分を取れることを含めた充分な食料を準備します。その際、濡らしたタオルなども一緒に入れて冷やしておき、たまに首筋に当てて気分転換を兼ねたクールダウンをするのも効果的です。船釣りはもちろん、磯釣りで渡船した際などは、何らかのトラブルで迎えの船が遅れることもあり得ます。特に水分は予備を含めて充分な量を確保しておきましょう。

夏場は意識してクーラーボックスの容量を多めにしておく。1つの大きなものを用意できなければ、中型のものを複数持っていくのでもよい

ウェア類に関しては、ただ半袖を着るよりも、汗を効果的に蒸散させる機能を持った長袖のアンダーウェアを併用するほうが、気化熱の効果で体感温度も下がり、蒸れによる不快感もなくなって快適になります。また、最近の酷暑のような極端な暑さの中では、船釣りのベテランの中にも、いわゆる空調服が快適という意見の人も増えているので、積極的に試してみるのもよいでしょう。

日焼けについては、顔や手など露出した肌に日焼け止めをしっかり塗る以外に、熱中症予防の点からも、Tシャツのような襟のないウェアではなく、ポロシャツやフィッシングシャツなど、襟があって首筋を覆えるタイプのものがすすめです。首には脳につながる太い血管もあるので、頭部の体温上昇を防ぐ効果もあります。

帽子は日差しを防ぐ範囲が広いハットタイプもおすすめ。また、半袖短パン姿の場合も、吸汗速乾性のあるアンダーウエア(ロングスリーブやロングタイツ)を組み合わせると、肌面がドライになり日焼けも防いでくれるのでより快適になる

ちなみに夏の海では、空からのほかに海面からの照り返しも多く、紫外線による目へのダメージを防ぐためにもサングラス(偏光サングラス)を積極的にかけるべきですが、眩しさが軽減されることで、日焼けに気付きにくくなることがあります。サングラスを外したら、日焼け止めを塗り忘れた部分の肌が真っ赤になっていた…という失敗はよくあるので、目を保護するアイテムとして積極的に活用しつつ、他の対策も忘れないようにします。外遊びがいっそう楽しくなるこれからの季節、トラブルフリーな釣りでぜひ素敵な思い出を作ってください。

強い紫外線から目を保護するサングラスは有効なアイテム。一方で日差しの強さを忘れがちになるので、水分補給や日焼け対策も忘れずに行いたい
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※このコンテンツは、2023年8月の情報をもとに作成しております。最新の情報とは異なる場合がございますのでご了承ください。