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6月の終わりにツインリンクもてぎでNSXオーナーズ・ミーティングベーシックコースが開催された。NSXが誕生して間もなく、1991年から行われているこのドライビングイベント開催回数は、なんと150回以上にも及ぶ。
ベーシックコースは2日間にわたって行われ、今回はあいにく雨がちの天候だったが20人ものオーナーが集まり、満員御礼。息の長いイベントであるが、初参加のオーナーが半分以上。初日に参加者が集まったミーティングルームは、NSXを思う存分走らせる期待に満ちていた。
このイベントの構成は、まずドライビングの留意点などの講義(といっても決して堅苦しくはない)を受けたあと、低い速度から徐々に感覚を慣らしながら高い速度のドライビングメニューへと移行していく。だから、初めての方でも安心して参加できるのだ。
講義は、NSXの開発に携わった本田技術研究所のメンバー(今回は開発責任者の上原 繁)による開発講義と、長年NSXオーナーズ・ミーティングの特別講師を務めるプロフェッショナルドライバーの清水和夫氏による特別講義の2つ。
開発講義は、NSXの走行特性や開発時の想い、エピソードなどが披露され、NSXについてより深く知ることができる。今回は、特にタイヤについて上原は熱く語っていた。当サイトでもご紹介しているが、NSXにとって純正タイヤは命とも言える重要なパーツであるのだ。上原は、みなさんに純正タイヤを使っていただきたいという想いから、強化されるNSXリフレッシュプランに純正タイヤを組み込むよう体制を整えたという背景があるからだ。
一方、特別講義は、ドライビングの基礎知識について。ドライビングポジションが重要であることにはじまり、スポーツドライビングでのステアリング操作の仕方、はじめは「出口側に余裕を持ったライン取りを」といったサーキットの走行ラインの考え方、コーナリング中のクルマの挙動など、スポーツドライビングの基礎をわかりやすく解説してくれる。今回は、雨ということもあり、ハイドロプレーニング現象についてなど、安全に走るための注意に力が入れられた。
清水氏は、雨のレースの際、頭の中のスイッチを切り替えるそうだ。頭の中が準備できていると、無理をしなくなるだけでなく、不意の危険回避を行う場合も精度が高まるのだ。とにかく、ハイドロプレーニングが起きたらどんな操作も役に立たないので、そうならないよう、路面の水の状況を見ながら速度を抑えること。もし挙動を乱して滑り出したら、フルブレーキングで速度を1km/hでも低くして衝撃を軽減する措置を取ること。
どのオーナーもしっかりと聞き入り、これから始まる走行イベントに向けて気持ちを高めていっているようだった。
講義のあと昼食を取り、いよいよドライビングメニュー。ドライビングポジションを確認し、圧雪路なみに滑りやすい路面で、注意深くNSXを走らせるハンドリングレッスンと、直線からのフルブレーキングを試みるブレーキングレッスンが行われる。何度も何度も繰り返される一見地味なプログラムであるが、一台一台に注目していると、明らかにコントロールが巧みになっていく。これらのトレーニングは、のちにスポーツ走行を行う際、限界域で起こるクルマの挙動に対応するために不可欠なテクニックであり、こうしたプログラムの組み立て方からも「安全」を重視したイベントだということを伺い知ることができる。
そして初日は、ツインリンクもてぎのロードコースのストレート部分を使い、180km/hからのフルブレーキング体験でドライビングメニューが終了となる。120km/hぐらいから感覚を慣らし、最後は180km/h。それでも約120mで安定して止まれることを体験し、翌日のサーキットドライビングでの不安とリスクを軽減するのだ。いざというときフルブレーキを踏めること。これが安全にスポーツドライビングを楽しむための第一歩なのだ。初参加の方も、このメニューを体験することで自信をひとつ、胸に抱いたように見えた。
フルブレーキングができるということは、スポーツドライビングだけでなく、日常の走行での安心にもつながる。それがこのミーティングのもうひとつの狙いなのだ。
そしてホテルにチェックインし、ゆったりと休息したあと、参加者、開発者、特別講師、みんな一緒に夜のディナーパーティを楽しむ。NSXを愛する者同士が食事をしながら語り合う・・これもこのNSXオーナーズ・ミーティングの楽しみである。
イベント二日目になると、NSXのGTカーも実際のレースで走るロードコースの先導走行や、フラットな路面にラインでコースを記した南コースでのテクニカル走行といったお待ちかねのスポーツ走行プログラムがはじまる。
一日目に学んだフルブレーキングや、ハンドリングなどのドライビングテクニックを活かすとともに、「もしスピンしてしまったらハンドル操作だけで回避しようとせずにフルブレーキングで収束させる」といった安全に関するテクニックがあらためて特別講師から伝授される。とにかくスポーツ走行の「楽しさ」は「安全」の上に成り立つものであるから、徹底されている。
VTECサウンドを響かせ、軽いスキール音とともにコーナーを駆け抜ける…。これまで学んだことを活かして思う存分駆け抜ける…。クローズされた安全な場所で“解放”されたオーナーたちの走りは、「楽しさ」にじみ出るものであり、その様子はいちスポーツカーファン、NSXファンとしても見ていて胸躍る光景であった。
2日間にわたって元気に走るNSXを見守っていることでまったく当たり前のことだと感じてしまっていたが、その中にはもちろん「17年選手」となる初期型NSXも存在する。まったくその年数を感じさせない、全開の走りであった。NSXの優れた耐久性をあらためて思い知った2日間だった。
安心して性能を引き出せるクルマと、安心して走らせられる環境があればスポーツドライビングはより楽しめる。NSXは、特別な整備を行わず性能を維持できる優れた信頼性を持ち、走り込んだら熟練したクラフトマンの手でメンテナンスを行う「NSXリフレッシュプラン」で隅々までケアすることもできる。そして、安心して走らせることのできる「NSXオーナーズ・ミーティング」もある。まさに、走りを楽しむために生まれてきたスーパースポーツであると言えよう。レポートするという立場を忘れて、うらやましくさえなってしまった。
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