NSXプレスvol.28 Topへ
Photo Gallery Taste of New R 復活のニュル CRAFT OF R マイナスリフトの威力 風穴の力学 事の発端 New NSX-R誕生
   
 
風穴の力学
   
  マイナスリフトの実現により、サーキットでの速さの向上に挑んだNSX-R。
この事実を皆さんはどう捉えているだろうか?
レーシングカーでマイナスリフトは当たり前のことであり、市販車でも一線を越えた改造を行うクルマではマイナスリフトを実現しているかも知れない。
しかし、NSX-Rが求めるマイナスリフトとはそれらとはまったく違う。
マイナスリフトを出すだけなら、巨大なチンスポイラーをフロントにつければ簡単。
しかし、それでは公道は走れない。抵抗が大きく性能も出ない。公道を走るスポーツカーであることをスポイルせず、しかもサーキットで速い。そしてもうひとつ。優れた操縦安定性をも実現すること。
こうした性能に挑んだスポーツカーはおそらくこれまでにないであろう。
   
  上原の言葉に刺激されたその開発者は、全身に痺れるような震えが走るのを覚えた。「とにかく性能が出なきゃ採用しないよ」という言葉に、「やってやろうじゃないか」と熱く決意したのだ。新家祟弘。本田技術研究所でクルマの先行的な開発を担当する。なかでも空力による操縦安定性(Honda用語で操安)について研究していた。その研究の成果を、なかなか活かす機会がなく、今回のNSX-Rの開発でようやくチャンスを与えられたのである。本田技術研究所に入った理由はNSXという日本で唯一とも言えるリアルスポーツカーをつくっている会社だったから。
それで、運良くNSX担当になるのだから運命はわからない。

入社当時は、全日本ツーリングカー選手権に出場するアコードの空力パーツの開発に携わった。いきなりHondaのレーシングカーに触れられ、新家は狂喜した。実は大学時代の6年間、彼は「授業に出るよりもクルマと峠で過ごす時間の方が多かった」と断言するほどの走り好きだった。
大学の駐車場にクルマを停めてその中で眠り、目が覚めたら峠へと向かい走り込む。そして戻ってきては、クルマをいじり、その成果を試しにふたたび峠へ。そんな生活を繰り返していたのだ。
そのとき乗っていたのは、解体屋で安く買った初代ビガーのAT。その与えられた?クルマをいかに速くするかに面白さを感じていたのだという。その後中古でアコードを購入。今度はマニュアル。運転席以外の座席を取り払い、そのアコードでもとことん走った。

そんな熱心なチューニング魂を持つ男が、チューニングカーの極限とも言えるレーシングカーを目前にして興奮しないわけがない。クルマをいじること、ドライブさせることに多少の知識があった彼だが、研究所での“プロ”の仕事には圧倒された。緻密な解析、豊富な知識と経験によるノウハウ、ドライビングスキルの高さ…。彼はその仕事で多くのことを学んだ。
その後空力によるサスペンション研究に携わり、さまざまな車種を経て、NSX-Rの開発に携われるというチャンスに恵まれたのだ。
   
  どうやってもマイナスリフトが出ない。
  市販車として欠かすことのできない最低地上高、十分なアプローチアングルの確保。その制限のなかで製作したフロント空力パーツをいくら試しても、最初はまったくフロントのマイナスリフトを得ることはできなかった。風洞のなかで、新家と空力開発の小澤は悩んでしまった。この二人は、全日本ツーリングカー選手権のアコードでも偶然ながらコンビを組んだのだ。
「低いチンスポイラーで覆えば簡単なんだけどな」と思いながら、マイナスリフトの開発に着手してから約2カ月。ついに手詰まりとなった。しかし、空力の可能性が開けなければ、開発は振り出しに戻ってしまう。そして、空力が進まなければ、他の開発に着手することができないのだ。二人に掛かるプレッシャーは相当なものだった。そこで、残される唯一の手段を提案してみた。思いきってボンネットフードに穴を開け、ラジエーターの通過風を上に逃がし、ボディ下面を塞ぐ手法である。
      風穴の力学 Topへ 2/3  
Photo Gallery Taste of New R 復活のニュル CRAFT OF R マイナスリフトの威力 風穴の力学 事の発端 New NSX-R誕生
NSX Press28の目次へNSX Pressの目次へ
 
NSX Press vol.28 2002年5月発行
Photo Gallery Taste of New R 復活のニュル CRAFT OF R マイナスリフトの威力 風穴の力学 事の発端 New NSX-R誕生