NSXを愛し続ける仲間たち
何故それほどまでにNSXは走らせて楽しいスポーツカーなのか
―― みなさんNSXによって、人生が変わるほどの大きな喜びを手にされたわけですね。では何故NSXはそんなにも楽しのでしょうか。
黒澤 10数年前、NSXを開発するとき、当然ながら世界の名門スポーツカーを超えようという目標を掲げ、それは現実となったと思います。現在は、各車モデルチェンジして数値的なパフォーマンスとしてはそれぞれに進化したレベルにあると思いますが、そのなかでNSXが古さを感じないのは、先ほど顔が見えるという話がありましたが、無機質の機械であるNSXが命を持った感じがするからだと思うんです。 それは具体的にいうと、NSXの路面とのコンタクト性だと思います。限界のコントロールは当然優しくはないんですが、NSXのように路面が手にとるようにわかるクルマっていまだにないんですよ。その辺りがオーナーのみなさんが、NSXを楽しいと感じる最も大きな要因じゃないかと思います。
上原 ステア特性を含め、コントロールのしやすさは一番狙ったとこですからね。
黒澤 NSXのコンタクトフィールのレベルの高さは、技術以上の技術というか、上原さんをはじめとするHondaの情熱が結果として技術になって現われたのだと思います。 それによりNSXは超越したライド・コンフォートを獲得しています。この面でNSXを超えるクルマはいまだにないと思いますね。
美濃 そうなんですよね。知り合いの持っているヨーロッパのスポーツカーに何度も乗りましたが、何か面白くないんですよね。しっかりした乗り心地やエンスージアスティックなテイストはあっても、走らせる楽しさが薄い。 以前はブランドに惹かれて欲しいな…と思ったのですが、NSXに乗ってからはそれがなくなりましたね。走って楽しいという感じがしないんですから、あれほど騒がれていた海外の名門スポーツカーがこんなものなのかというのが正直な感想でしたね。
花木 その違いは何なんでしょうね。
上原 難しい所ですね。クルマにはホイールベースやパワーウエイトレシオにはじまり、いろいろと測定できる指標があり、設計する上で大変重要な要素となります。 でも、人間にとってクルマって何かというと、測定物じゃなく中に乗り込む乗りものなわけです。だから、クルマの情報は人間に伝わらなくちゃいけないし、人間の意志もクルマに伝わらなければならないわけです。そういう関係をどう詰めていくかが重要で、NSXの場合そのためにニュルに行ったりしたわけです。そこをどこまでやり切れたかで、結果が出るんじゃないかと思います。もうそこは設計できる領域じゃないんですよ。もちろん数値を把握しながら定量的に考えていくわけですが、一番大切にするのは人間の“いい”と感じるフィーリングです。 当然そういうことは言い古されていて、どこでも開発では走行テストを重視しているのでしょうが、何といいますか…同じ“いい”でも、つくり手によって“いい”の感じ方が違うのだと思います。あとは、妥協しないでどれくらいまで頑張れるかということろですね。これが結構開発する人によって変わってくるわけです。 先ほど黒澤さんがライド・コンフォートと言ったので思い出したのですが、タイプRが出た次の年の日本グランプリが終わった後、鈴鹿の西コースでアイルトン・セナにNSXに乗ってもらったのですが、セナはコクピットから降りてきて「コンフォート」と言ったんです。つまり、意志通りに動くという意味で「快適」と。
黒澤 僕もこの10年間くらい、ライド・コンフォートについていろいろと考えたり、各方面とディスカッションしているのですが、クルマのパフォーマンスは結局コンフォートに尽きるわけです。もちろん快適という短い言葉に隠されたさまざまな意味があるのですが、どんなクルマでもいかにライド・コンフォートを獲得するかということになる。NSXの場合、それがニュルに集約されるわけです。NSXを仕上げるサーキットをどこにするかと、今はアメリカにいる鈴木久雄さんとヨーロッパ中を旅して探したわけですが、やっぱりニュルしかないという結論になった。しかし、ニュルは当時10マルク払えば観光バスでも走行でき、一般の人に見つからないようにテストすることは不可能です。そこで先に発表してもらって、公にしてからNSXをニュルに持ち込んで仕上げたというわけです。
ああ、そういう理由で先行して発表になったわけですか。
上原 そうです。ニュルで詰めなかったら今のNSXはなかったでしょうし、鷹栖もなく、今Hondaのなかで販売台数の多いオデッセイもストリームも、あれほどスポーティに走るクルマにならなかったわけです。 パフォーマンスに対する評価が低かったら、この10年を記念するディスカッションもなかったでしょう(笑)。

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路面からの情報を正確に早く伝える。だからNSXは楽しい
市川 NSXはドライビング中にドライバーの期待を裏切らないという意味で、本当にコンフォートだと僕のレベルでも感じますね。 プレシジョン…正確性という評価がありますが、高いスピードでコーナリングすると常に一瞬先を予測しながら運転することになります。NSXはその予測による操作と現実が本当にピタリと合う。だから、速く走っても安心だし、楽しめる。つまり快適という印象を持つわけです。
黒澤 市川さんは今非常に重要なことをおっしゃったのですが、NSXの素晴しさはそこにありますね。サーキットをスポーツ走行しているとき、コーナーで滑ってから対応するようでは遅いんです。正確な予測に基づき、一瞬一瞬の操作行う必要がある。さっき、NSXは路面が手にとるようにわかるクルマだといいましたが、それはタイヤに入力された情報の正確さ、ち密さです。もちろんそれも大切ですが、人間は努力しても神経の伝達速度による反射の遅れをゼロにすることができませんから、正確な情報をより早く欲しい。その点NSXは情報が正確なだけでなく、伝わり方が早いわけです。それがドライブのしやすさにつながっていると考えられます。
山根 黒澤さんがミーティングなどでよく教えてくださるタイヤとの対話ですね。
黒澤 そうなんですが、僕がこういう考えに至ったのはNSXオーナーのみなさんのおかげなんです。現役時代から、ドライビングのメカニズムについて漠然と考えていたんですが、話す必要がないのでそれ以上考えを発展させることはありませんでした。 しかし、NSXのオーナーズ・ミーティングを担当するようになり、みなさん知的レベルが高い方ばかりでいい加減なことを言えませんから一生懸命勉強したわけです(笑)。そのとき、ミーティングで知り合った神経外科や脳外科医師の方々のお話などから、先程のような神経の伝達速度の話に辿りついたわけです。
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NSX Press vol.26 2001年3月発行