第4戦フランスGP・ルマンで青山博一は8位。コースレイアウト的にも厳しいレースが予想された第5戦イタリアGP・ムジェロは6位。第6戦カタルニアGPも厳しいレースで、青山はなんとか2位に入ったものの、ランキングを争うバウティスタが優勝を飾った。この段階でのランキングは、バウティスタが首位に立ち、青山は12ポイント差の2位につけていた。
第7戦オランダGP・アッセンは、予選を終えて青山はフロントロー2番グリッド、バウティスタは3番グリッドを獲得した。決勝レースは、序盤に独走していたシモンセリがじりじりと順位を下げはじめ、中盤以降はふたたび青山とバウティスタの一騎討ちの様相を呈しはじめた。ラスト2周の最終シケインでは、青山がわずかにオーバーラン気味に進入したものの、切り返しでラインへ復帰した。ところが、直後につけていたバウティスタがその挙動を読みきれずに真後ろから青山に追突、転倒リタイアで自滅する。マシン右後方に損傷を負ったものの、幸運にも転倒を逃れた青山は最終ラップを独走し、今季2勝目。ランキングも逆転して首位に立った。
表彰式と記者会見の後、欧州のジャーナリストたちが当然のように青山をいっせいに取り囲んで質疑応答が始まる。いつの間にか、青山博一は250ccクラスチャンピオン候補の一角として認識されるようになっていた。
「ラストラップは、(損傷を受けた)右側にマシンが倒れなくて大変でした。でも、最後まで走りきれてよかった。本当は最後までガチンコのバトルをして、どっちが速いか勝負をしたかったけれど、それは次回までとっておくことにします。これでシーズン2勝目。もっともっと勝ちたいですね!」
第8戦アメリカGP・ラグナセカはMotoGPクラスのみの開催となるため、250ccクラスは2週間のブランクが空く。一時帰国でリフレッシュした後、第9戦のドイツGP・ザクセンリンクは4位で終え、2週連続開催の第10戦イギリスGP・ドニントンパークを迎えた。
開催地のドニントンパーク・サーキットは、滑りやすい路面で有名なコースだ。英国独特の不安定な天候が、この滑りやすさにさらに拍車をかける。青山も、2005年のレースでは雨の中トップを独走中に転倒を喫し、初優勝が夢と消えた苦い思い出がある。
今年の日曜日も、案の定、微妙な天候になった。気温18℃、路面温度19℃でウエットレースが宣言された決勝は、途中からコースが乾きはじめる難しいコンディションになった。3番グリッドからスタートした青山は、1周目にトップに立つと、周回ごとに後続を引き離し続け、完ぺきにレースをコントロールして優勝、今季3勝目を飾った。
最新鋭のトラクションコントロールを搭載したライバル陣営にとっては、刻々と変化する路面状態が逆に仇となるレースだった。フルウエットならその性能を十分に発揮して圧倒的な速さを発揮するものの、スロットルを開けると滑るけれども滑らさなければ走れないというドニントンパーク独特の難しい状況下では、逆にパワーを間引くだけの結果に終わり、苦戦を強いられることになった。つまりある意味では、最新鋭機能を搭載しないマシンを駆る青山が、己の技術でライバルたちを凌駕したレース、といってもいいだろう。
だが、最新鋭マシンではないことが有利な展開に結びつくレースもあったとはいえ、一般的にはやはり不利な要素になることのほうが多い。その不利な面が如実に現れたレースの典型が、サマーブレイク明けの第11戦チェコGP・ブルノだ。決勝レースを4位で終えた青山は、ピットに戻ってくると「マシンが疲れてしまいました……」と、苦笑しながら振り返った。
「……レースだからしようがないですね。優勝できるときもあるし、4位で終わるときもある。今日は4位で上出来です。内容には納得できないけれど、ぎりぎりのセットアップだったので、最後までエンジンが壊れずにマシンがもってくれてよかった。気温が上がって集団のバトルになったら、体力的には僕のほうが有利だと思うけど、今回はマシンの体力が尽きてしまった(苦笑)。次に同じような状況になったときには、今回の教訓を生かして何とか対応できるようにしたいと思います」