この青山博一の言葉にもあるとおり、Hondaの250ccレースマシン、RS250RWは一昨年いっぱいですでに開発が終了している。わかりやすくいえば、今年の青山が乗っているのは、2年前の2007年モデル、ということだ。開発最終年の2007年にこのマシンを駆っていたのは、現在MotoGPで活躍するアンドレア・ドヴィツィオーゾ。17戦中、2勝を含む10戦で表彰台に上り、ポールポジションは2回獲得。2008年は、高橋裕紀がこのマシンで戦った。この段階で開発が終了していたRS250RWを操る高橋は、前年のドヴィツィオーゾが記録したタイムや順位を比較材料として自らの目標に設定していた。リザルトは、3戦で表彰台を獲得し、ランキング5位。日進月歩で進化を続けるライバル陣営の最新鋭ワークスマシンを相手に、開発の終わったマシンでよく健闘したといっていい。
その高橋が走っていたマシン環境を受け継いだのが、今年の青山だ。このような状況では、ある程度以上の苦戦は当然予想できる。だからこそ、与えられた条件で最大のパフォーマンスを見せることが実力のアピールと評価につながる、と周囲は考えていたし、それは本人にとっても同様だった。現在の時点から開幕当初を振り返って、チャンピオンシップをリードするとは思ってもいなかった、と青山が述懐する背景にはこのような事情がある。
しかし、青山はそのような予測をあっさりと上回るパフォーマンスを披露し、皆を驚かせてゆく。第3戦スペインGP・ヘレスでは、目の肥えたスペインのレースファンや関係者たちも熱くさせるほどの走りを披露した。
6番グリッドからスタートした青山は、トップグループで激しいバトルを展開。ラスト3周を迎える頃にはシモンセリとバルベラが脱落して、バウティスタとの一騎討ちの様相を呈していた。最終ラップまで背後にピタリとつけていた青山は、9コーナーでインを刺してわずかに前に出る。最終コーナーではバウティスタが最後の勝負を仕掛けて先にイン側へ飛び込んでゆくが、出口ではらむラインをクロスさせた青山が先にコーナーを立ち上がり、優勝をもぎ取った。もてぎではバウティスタに優勝をさらわれたものの、その相手の地元で見事に借りを返した格好だ。
「やってやりましたよ!」
レースを終えた青山は開口一番、流れる汗を拭おうともせずに満面の笑みで叫んだ。
「4台でバトルすると辛いので一対一にしたかった。ラスト2周でシモンセリとバルベラが離れたのを確認し、一発勝負にしようと考えた。最終コーナーの立ち上がりでは自分が前にいないと、ゴールラインまでの間に抜かれてしまう。でも、進入で自分が前にいれば、向こうは絶対に抜きにくる。その最終コーナー進入で自分が前にいるためには、9コーナーでトップに立っていなければならない。そう逆算して、狙ったとおり9コーナーの進入でうまく刺すことができた。これで13コーナーに入るときに、絶対に抜きにくる。思ったとおり、13コーナーではインに入ってきた。ブレーキングで向こうの車速が落ちたところに、ラインをクロスさせて自分が先に立ち上がって、狙いどおりの展開になりましたね」
一方、ホームグランプリで敗れたバウティスタも、すべてを出しきってクリーンに戦った結果に、敗れはしたものの満足といった様子でレースを振り返った。
「最終ラップの最終コーナーまで激しいレースだった。彼がコーナーに15m深く入ったら、僕は16m深く入ろうとしたのだが、相手の地元で優勝をさらったお返しをされる格好になってしまった。レースはとても楽しく、自分では勝てると思っていたのだけれども、今日の青山はとても速かったよ」
この戦いを制した青山は、3戦目にしてランキングトップに立った。