2017年は、ロードレース世界選手権参戦10年目という節目を迎えたマルク・マルケス(Repsol Honda Team)にとってライダーズチャンピオンシップ2連覇、Hondaにとっては3年ぶりの三冠達成を目論むシーズンだった。シーズン前半は2度のリタイアを喫し、思うようにポイントを獲得できないマルケスだったが、第9戦ドイツGPで2勝目を挙げ、シーズンで初めてポイントランキングトップに。それがきっかけとなったのか後半戦に入るとぐんぐん調子を上げ、日本GPまでに3勝を挙げた。一方、チームメートのダニ・ペドロサはホーム・スペインでの勝利を含めて8度の表彰谷に登壇、安定した走りでランキング上位勢の中につけていた。
この年、連覇を狙うマルケスの最大のライバルとなったのがアンドレア・ドヴィツィオーゾ(ドゥカティ)で、第13戦サンマリノGPが終わった時点で、ランキング上ではマルケスと同点トップ。第14戦アラゴンGPで再びマルケスが単独トップに躍り出るも、ドヴィツィオーゾとのポイント差は16ポイント。さらに28ポイント差でランキング3位にマーベリック・ビニャーレス(ヤマハ)がつけており、タイトル争いは三つ巴の様相を呈していた。第15戦日本GPでは、マルケスがさらにライバル勢とのポイント差を広げ、連覇への弾みをつけられるかに注目が集まった。
そんな中で迎えた日本GPは、ウイーク初日から決勝日まですべて雨という、難コンディションの中で行われた。日本人勢は、トレーニング中のケガで欠場したジャック・ミラーの代役として青山博一(Estrella Galicia 0,0 Marc VDS)、中須賀克行(ヤマハ)、 野左根航汰(ヤマハ)の計3名が出場。世界の壁に挑んだ。
雨が降り続ける中で行われたフリー走行では、マルケスが午前のセッションでただ一人、1分55秒台に入れる好走を見せた。午後のセッションでも同様の好タイムを記録するも、転倒を喫し2番手となり、総合でも2番手につけた。ペドロサは総合8番手。翌日の予選はウエットで始まるも、セッションが進んでいくにつれて雨が上がるいう微妙なコンディションとなり、各ライダーは路面が乾きはじめる中でのタイムアタックを強いられる。そんな難しい路面状況をしっかりと見定めたマルケスが予選フロントロー3番手、ペドロサは2列目6番から翌日の決勝に挑むことになった。
迎えた決勝レース当日。気温14℃、路面温度15℃、冷たい雨がツインリンクもてぎに降り注ぐ中、戦いの火蓋が切って落とされた。あまりの雨量の多さに、水煙で前方のライダーが見えない、さらにコースにはいくつもの水たまりもできるなど、シーズンきっての劣悪なウエットコンディションとなったレースは、序盤からリタイア車が続出する波乱の展開に。そんな中、マルケスが絶好のスタートを切ってホールショットを奪う。その後はポジションを一つ下げるも、12周目まで首位のダニーロ・ペトルッチ(ドゥカティ)を追撃。13周目にマルケスがトップを奪ったあとは、2番手に浮上してきたドヴィツィオーゾとの一騎打ちが展開された。19周目、ファステストラップを記録しながら差を縮めてきたドヴィツィオーゾにトップを奪われるも、マルケスも負けじと食らいつき22周目にトップを奪還。ウエットレースとは思えないほどの、両者一歩も引かない激闘を繰り広げながら2台は最終ラップへ突入していった。最終コーナーでマルケスが再びトップに立つも、最後の最後、クロスラインでドヴィツィオーゾに再びトップを奪われ、最終的に2位でフィニッシュ。ウエットコンディションでタイトルを争う2人のライダーが見せた手に汗握る名勝負に、会場に駆け付けたファンからはいつまでも鳴りやむことのない大きな拍手が送られた。
この結果、惜しくも優勝は逃したものの、2位でフィニッシュしたことでマルケスはランキングトップをキープ。さらに125cc、Moto2、MotoGP各クラスの通算100度目となる表彰台への登壇を見事、Hondaのホームコースで果たした。日本GPが終わったあともマルケスの勢いは止まらず、次戦オーストラリアではシーズン6勝目、続く第17戦マレーシアでは4位、最終バレンシアでは3位表彰台を獲得し、2年連続4度目のチャンピオンを獲得。さらにRepsol Honda Teamが3年ぶり8回目のチームタイトル、Hondaは最高峰クラスで23回目のコンストラクターズタイトルを獲得し、3冠の目標は果たされた。
Moto2クラスでは、第14戦アラゴンGPを終えた時点で8勝を挙げ総合首位のフランコ・モルビデリ(Estrella Galicia 0,0 Marc VDS)と、それを21点差で追う総合2位のトーマス・ルティ(CarXpert Interwetten)がタイトルを巡って事実上の一騎打ちを展開。それぞれツインリンクもてぎでの優勝経験があることから、日本GPでも優勝争いに絡んでくることが予想され、タイトルを争う2名のライダーによる戦いの行方に注目が集まった。
予選は雨のち曇りというコンディションで行われ、すべてのライダーがレインタイヤからスリックタイヤへチェンジしてタイムアタックに挑んだ。予選ではホームグランプリに闘志を燃やす中上貴晶(IDEMITSU Honda Team Asia)がシーズン初のポールポジションを獲得。日本人ライダーのポールポジション獲得にファンは大いに沸き、決勝への期待も高まっていた。2番手につけたのはマルク・マルケスの弟、アレックス・マルケス(Estrella Galicia 0,0 Marc VDS)。タイトルを争うモルビデリとルティは15番手、13番手と苦戦を強いられていた。
Moto3クラスは、第14戦アラゴンGPでシーズン8勝目を挙げたホアン・ミル(Leopard Racing)がタイトルに王手をかけて日本GPへ臨んだ。Moto2クラスと同じく雨のち曇りとなり、やや難しいコンディションで行われた予選では、総合3番手のアーロン・カネット(Estrella Galicia 0,0)がシーズン6回目のフロントローとなる3番手を獲得、Honda勢最上位のグリッドにつける。自身にとってのホームレースに気合十分の鈴木竜生(SIC58 Squadra Corse)は、FP3まではトップ10内につける走りを見せていたが、予選ではウエットからドライに徐々に変化していく路面コンディションに合わせきることができず、15番手から決勝に挑むこととなった。
決勝レース当日は、朝のウォームアップ走行でコース上にオイルが出て進行が遅れ、20周から13周に短縮してレースが行われた。14番グリッドから挑んだミルはいくつかポジションを下げ、最終的に17位でチェッカー。タイトルの決定は次戦へ持ち越されることとなった。
15番グリッドからレースに臨んだ鈴木は、序盤から追い上げのレースに徹し、一時は表彰台にも手が届きそうなほどの好走を見せたが、最後はあと一歩、手が届かず4位でチェッカー。それでも、実に10台以上をパスした驚異の追い上げは、ファンの脳裏にしっかりと焼き付いたことだろう。
1位 | A.ドヴィツィオーゾ | ドゥカティ | 47'14.236 |
2位 | マルク・マルケス | Honda | +0.249 |
3位 | D.ペトルッチ | ドゥカティ | +10.557 |
4位 | A.イアンノーネ | スズキ | +18.845 |
5位 | A.リンス | スズキ | +22.982 |
6位 | J.ロレンソ | ドゥカティ | +24.464 |
7位 | A.エスパルガロ | アプリリア | +28.010 |
8位 | J.ザルコ | ヤマハ | +29.475 |
9位 | M.ビニャーレス | ヤマハ | +36.575 |
10位 | L.バズ | ドゥカティ | +48.506 |
1位 | アレックス・マルケス | KALEX | 32'08.901 |
2位 | チャビ・ビエルゲ | TECH 3 | +1.465 |
3位 | ハフィズ・シャーリン | KALEX | +3.134 |
4位 | フランセスコ・バグナイア | KALEX | +5.415 |
5位 | マティア・パシーニ | KALEX | +5.618 |
6位 | 中上貴晶 | KALEX | +6.163 |
7位 | ミゲル・オリベイラ | KTM | +7.597 |
8位 | フランコ・モルビデリ | KALEX | +11.400 |
9位 | ドミニク・エガーター | SUTER | +11.572 |
10位 | ロレンソ・バルダッサーリ | KALEX | +14.310 |
1位 | ロマーノ・フェナティ | Honda | 29'22.278 |
2位 | N.アントネッリ | KTM | +4.146 |
3位 | M.ベッツェッカ | マヒンドラ | +5.013 |
4位 | 鈴木竜生 | Honda | +8.767 |
5位 | アーロン・カネット | Honda | +12.827 |
6位 | P.エッテル | KTM | +14.865 |
7位 | ファビオ・ディ・ジャンアントニオ | Honda | +15.482 |
8位 | J.コーンフェール | プジョー | +15.625 |
9位 | B.ベンドスナイダー | KTM | +15.947 |
10位 | ジョン・マクフィー | Honda | +16.216 |