今シーズンも2強の一騎打ち
優勝だけが残された可能性だった……

 

全6戦を戦い、ともに3勝3敗で3位以下はなし。シリーズポイントは111点で同点。同減点数、同クリーン数の大会が各1回。2013年の全日本トライアル選手権で、Hondaの小川友幸とヤマハの黒山健一選手が繰り広げた戦いは、全日本の歴史の中でもまれに見る大接戦であり、文字通り“しのぎを削る戦い”だった。

 

なにしろ、最終戦を終えて同ポイントで並んだ2人の雌雄を決したのは、MFJ国内競技規則2013の「付則1 MFJライセンス昇格・降格に関する規則」の全日本選手権ランキング決定基準に基づくというルール。ここには、総合得点が多い者から順位を決定するが同点となった場合、上位順位獲得回数の多い者が上位となると書かれているが、それでも決定できない場合、最終戦の成績が上位順位の者を上位とすると記載されている。

 

このような決定基準が今年採用される伏線となったのは、開幕戦の関東大会が中止となり、全7戦の奇数回で開催される予定だったシリーズが偶数回の6戦になったことだ。そして、小川が2勝、黒山選手が3勝で迎えた最終戦の前までに、シリーズポイントでは91対94と、黒山選手が3ポイントをリードしていた状況だ。

 

最終戦では、小川が優勝して黒山選手が2位なら同ポイント、小川が優勝できずに2位でも黒山選手が4位ならば1ポイント差で小川が上回るとなるところだが、この2人の戦いに限っては、小川がチャンピオンを獲得するためには最終戦の優勝しか可能性はなかったといっても過言ではない。

 

なぜなら、今シーズンの戦いを見ても、これまでの戦いを振り返っても、黒山選手が3位以下になることはまず考えられないことだったからだ。ここ10年ほどの全日本トライアルは、この2人がランキング1位と2位をほぼ独占しており、黒山選手は全日本V11という絶対的な強さをみせつけてきた。

 

対して小川はV2を達成しているものの、多くの場合は僅差で黒山選手の後塵を拝するポジションにいた。大会での優勝についても、2011年の第4戦の中部大会以降は途絶えていた。このような事実を考えれば、小川がシリーズの勝率で黒山選手を上回ることは少々難しいと考える関係者やファンも少なくなかった。

 

これを裏付けるように、今年のシリーズは僅差で勝敗が決まる勝負が続き、最終戦までに小川は1勝のリードをライバルに許してしまったわけである。ちなみに今シーズン通算のクリーン数は小川が111に対し黒山選手が115、減点数は小川130点、黒山選手111点。この数字を見ても、2人の間にある微妙な隔たりが理解できるだろう。

 

ともかく、最終戦で勝って勝率5割、同ポイントに持ち込むことしか小川にはチャンピオン獲得の可能性はなかった。最後の最後で、勝つか負けるかというシンプルだが絶対的な勝負に小川は挑んだのである。