レジェンド 小川友幸 Gatti - 全日本史上初6連覇への挑戦

3 “奇跡に近い”強さが生んだ、歓喜のとき

“奇跡に近い”強さが生んだ、歓喜のとき

1986年に5連覇を達成した、
山本昌也さん (Honda)に聞く

―Hondaで最初に5連覇(全日本トライアルの歴史でも初の快挙)を成し遂げた山本昌也さん、そしてもう一人5連覇した黒山健一選手(ベータ/スコルパ)の記録を、小川友幸選手が6連覇を達成して塗り替えました。Hondaとしては、山本さん以来32年ぶりの記録更新です。その歴史を振り返ってみれば、お二人の記録があってこその栄光ではないかと思います。実際、小川選手はまだだれも成し得ていなかった6連覇に高いモチベーションをもって、新たな金字塔を打ち立てることができました。記録を超えられたことへの、感慨などはありますか。

山本昌也 「記録が破られたこと自体は、なにも思ってないです。黒山選手か小川選手がもっと早く塗り替えるのではないかと思っていたので、思ったよりも結構時間がかかったかな、とは思います。記録自体はあまり気にしていなかったというか、5年、6年といつも同じ顔ぶれで、若い子が出てこないことが気になります。僕もそう思われていたかもしれないけれど(笑)。小川選手も42歳ですもんね、もちろん6連覇はめでたいことですが。トライアル界にとって、それを打ち破れない若手は情けないかな。もっと若手も活躍して、おもしろくなってほしい。
氏川政哉選手は15歳の伸び盛りで、ちょっと伸びて来そうやね。丸山胤保さん(注・1980年の全日本チャンピオン(Honda)。2018年の最終戦SUGOでは大会審査委員長を務めた)とも話しとったけど、『追いつけ』と来たわけじゃなくて。『知らんうちに上におるな』という感じ。『目標』じゃなくて、『気がついたらレベルを超えてた』というくらいじゃないと、チャンピオンは難しいかな。氏川くんは、可能性があるんちゃうかな。独自のラインで行ったりして、真似をしないので、ちょっと楽しみです。
話しが少しそれましたが、6連覇自体はまあまあ取るかなとは思っていました。時間がかかったのは、それだけ難しかったかも分からんね。僕の場合は、3年目にケガをしたじゃないですか。ヒザをケガして、今は寝返りを打ってもヒザが外れる状態です。ケガをする前は、自分の中ではもっといけるなと思ってました。ライバルと一緒に練習していても差があるし、ヒザのケガをだましだまし勝って、なんとか5連覇したわけです。ケガが一番気をつけなければならないですね。黒山選手もケガで世界チャンピオンになれなかったのではないかと思います。氏川くんもケガに気をつけてほしいですね。
最終戦SUGOで、僕はセクション査察員を務めました。自分が選手をやっていたときにはセクションの査察がなかったし、大会によってレベルが一定してなかった。大会によってやさしかったり、難しかったりした。それを自分なりになんとかしたいと思っていました。MFJ(日本モーターサイクルスポーツ協会)の選手会で、自分から『こういうことをしたい』と願い出て。全国へ、最初は全部自費で行きました。そのあとは査察員制度を作ってもらって役務になったけど、ほかにやる人はいないし、僕が言い出しっぺやからやってます。(中略)地元の人が一からセクションを作っているので、全部変えるわけにもいかないですし、できる範囲でレベルの統一をできるだけやってきました。(中略)僕が選手のときはライダーのレベルの差が出るようにしてほしかったし、今はそうしていきたいと思っています。なぜ役員をやっているかというと、選手生活が終わってから考えると、影でやってくれる人がいるから大会が成り立っている。恩返しじゃないけど、やらせてもらおうと思ってやってきました。今のトップライダーも引退したあと、役員をやっていただければうれしいなと思います」

山本昌也

山本昌也プロフィール
山本昌也選手は1982年から1986年まで全日本で初めて5連覇を達成しただけではなく、世界でも活躍。
1984年はHonda RTL250Sでトライアル世界選手権に挑戦、第11戦フィンランドGPで初出場ながらいきなり6位に入る驚異的な実力を発揮しました。
写真は1985年の開幕戦スペインGP、山本選手はRTL250Sで11位に入賞しています。

MFJ 全日本トライアル選手権 歴代チャンピオン

年度 ライダー マシン
1973年 木村治男 ヤマハ
1974年 近藤博志 ヤマハ
1975年 加藤文博 カワサキ
1976年 黒山一郎 スズキ
1977年 近藤博志 Honda
1978年 近藤博志 Honda
1979年 近藤博志 Honda
1980年 丸山胤保 Honda
1981年 黒山一郎 スズキ
1982年 山本昌也 Honda
1983年 山本昌也 Honda
1984年 山本昌也 Honda
1985年 山本昌也 Honda
1986年 山本昌也 Honda
1987年 伊藤敦志 ヤマハ
1988年 伊藤敦志 ヤマハ
1989年 成田匠 Honda
1990年 伊藤敦志 ヤマハ
1991年 中川義博 ヤマハ
1992年 パスカル・クトゥリエ アプリリア
1993年 パスカル・クトゥリエ ヤマハ
1994年 成田匠 ベータ
1995年 藤波貴久 ベータ
1996年 黒山健一 ベータ
1997年 黒山健一 ベータ
1998年 藤波貴久 Honda
1999年 藤波貴久 Honda
2000年 藤波貴久 Honda
2001年 藤波貴久 Honda
2002年 黒山健一 ベータ
2003年 黒山健一 ベータ
2004年 黒山健一 ベータ
2005年 黒山健一 ベータ
2006年 黒山健一 スコルパ
2007年 小川友幸 Honda
2008年 黒山健一 ヤマハ
2009年 黒山健一 ヤマハ
2010年 小川友幸 Honda
2011年 黒山健一 ヤマハ
2012年 黒山健一 ヤマハ
2013年 小川友幸 Honda
2014年 小川友幸 Honda
2015年 小川友幸 Honda
2016年 小川友幸 Honda
2017年 小川友幸 Honda
2018年 小川友幸 Honda

トライアルジャーナリスト 藤田秀二

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