
自動車からのリアルな走行データを保有するHondaと、Yahoo!検索やYahoo!知恵袋などのオンラインデータを保有するLINEヤフー、それぞれで分析業務に携わる2人が対談しました。
前半では、交通安全を実現するために活用できるデータについて。様々なデータで実現できる未未について語ります。
後半では、データアナリスト2人の仕事の流儀をテーマに、データ分析業務に携わるようになったきっかけや、今後の展望について聞きました。

池宮 伸次氏
LINEヤフー株式会社
MSカンパニー データソリューション企画開発本部
シニアデータアナリスト

杉本 佳昭
本田技研工業株式会社
電動事業開発本部 SDV事業開発統括部
SDV戦略・企画部 UX戦略課
アシスタントチーフエンジニア
交通安全を実現するためにリアル+オンラインで活用できるデータとは
前半は、交通安全を実現するために活用できるデータとして、どのようなものがあるかについて。走行データを用いた実際の分析事例や、検索データからドライバーの傾向や関心事について考えます。
交通安全にデータをどのように活用できるか?
Hondaでは自動車についての様々なデータを保有しています。以前のトピックスでは、Honda車の走行データから取得した、ブレーキ時の急減速が発生した件数や地点のデータを活用した事例を紹介しました。
千葉工業大学の分析によると、交通安全教室にて、小学生が交差点で飛び出さないように安全な横断方法を指導したことで、横断時の安全確認の回数が明らかに増加しました。その結果として複数の交差点周辺において急ブレーキ数の減少が確認されました。

また、生活道路での細かな速度変化の分析にも取り組んでいます。主に学校周辺や住宅地など人通りの多いエリアでは、交通事故減少を目的とした安全施策が実施されています。Hondaではこの施策前後期間の自動車の速度を比較することで効果検証を行い、施策が速度変化に寄与したか?といったデータを提供しています。

「安全運転管理者」といった言葉が出てくるということは、企業の担当者が検索している、ということでしょうか。
そもそも荒い運転をする人は「安全運転」といった言葉では検索しませんよね。違反がない、という意味では「ゴールド免許」などで検索する人はいそうですね。
Safe Driverカードですね。無事故・無違反の証明として自動車安全運転センターから発行され、全国各地のお店で優遇が受けられる、というものですね。
そうです。このSDカードを維持するために安全運転を意識している人もいるのでしょう。節約意識の高い人や、ポイント好きな人も傾向として挙げられます。
また、ハンドルカバーを付ける、洗車にこだわりがある、といったような自家用車に愛着がある人は、愛車を傷つけたくないという心理から安全運転の意識が高い傾向が見えます。
SDカードを取得したい人や節約意識が高い人のように、インセンティブを目当てにして安全運転の意識が芽生えている人、という傾向は、今回の調査で初めて言語化された考察だと思います。「1年間無事故無違反」などの成果に対して、企業側からインセンティブを与えると意識が高まるのかもしれません。
冬の交通安全について分析する
次のトピックは冬の交通安全についてです。今回は、雪道の運転が不安な人にどのような情報を提供すればよいか、という視点で調査しました。
2018年1月に東京で20cmを超える積雪があったのですが、その大雪の日を対象に、普段は雪道を運転しない人が多い東京の人が、運転に関して特徴的に検索しているキーワードを抽出して、分析を行いました。
その結果、検索キーワードを分類すると、「タイヤ」や「チェーン」に関するニーズが多いことが分かりました。

具体的に見ていくと、タイヤについてはノーマルタイヤかスタッドレスタイヤか、使用に関する安全性、付け方、変えたほうがいいのか、といった内容が検索されていました。また、チェーンについてはその必要性や、付けないことによる影響、付けなかったときに法律に触れるのか、といったことが検索されていました。
これらについて検索するのはもっともですが、正しい答えに辿り着けたのかが気になりますね。基本的に、スタッドレスタイヤを付けていればチェーンは不要ですが、本当に雪が多いときはチェーンが必要、といった答えに辿り着けていれば良いなと思います。
今回実際にデータを分析することで、ドライバーの困っている内容が見えてきたので、どのような情報を用意しておけばニーズを満たせるか、そしてそれらの対策を提言していくことが重要だと感じました。自動車からの実際のデータで雪道での運転の傾向や、ブレーキの様子などと組み合わせることができれば、より有益な情報提供が可能になると考えています。

私も同じく雪に注目しており。発進・加速時のタイヤの空回りを防止するトラクションコントロール(以下、TCS)という車両の機能があるのですが、その作動データを見ていました。
この図は、札幌でTCSが作動した場所を示したもので、ほとんど交差点で作動しています。
その際、重大事故のリスクが高い高速道路における潜在的なリスク検知を試みたのですが、実際のデータを見ると合流部の一部でしかTCSは作動していないことが分かりました。
理由として、停止状態からの発進時ほど強い加速をしないことや、道路管理者が常に適切な除雪作業や早い段階で通行止めをしているからだと考えています。

様々なデータを活用して考えられる未来
先ほどお見せしたTCSの作動情報は、あくまでもスリップしてしまった結果を表すものです。そのため雪氷対策の効果検証はできますが、「あと30分で事故リスクが高まりそうだ」といった兆候をつかむのは難しかったです。
しかし、当時は走っていなかった新しい世代のコネクテッド車両ではより多様で緻密なデータが取れているので、そのポテンシャルを活かすための研究もしています。
例えば冬道という切り口では、短時間で天候や環境状況が大きく変化することがあるので、横滑り防止装置(ECS)が作動するほどではない僅かなスリップや不安定な挙動をデータから見出して、事故の潜在リスクを評価するような研究を進めています。潜在リスクを道路管理者や周囲のドライバーに前もって通知できれば、事故防止に繋がると考えています。
このように、技術の進歩とともにできることも広がっていくため、数年先の当たり前を見据えた技術研究も事業と併行して進めています。

検索するという行為は、自分が知らない状態にあり、その知識や情報を得たいと探す行動なので、検索データで集められるのは、不安や悩みが多い傾向にあります。このため、ニーズに関するキーワードは集めやすい一方で、解決策を提案するアドバイスや、直接的に行動を促すのは難しいのです。
しかし、我々はニーズを可視化できます。そこから他のサービスへ他のデータと組み合わせて解決策を考えて届けることで、社会課題の解決に繋げられると考えています。我々だけで完結する問題ではなく、広く取り組めるきっかけになると嬉しいです。