路面性状調査車からビッグデータへ! Hondaが提案する次世代の道路管理を解説
日本の高度経済成長期に集中整備された道路が、現在、大きな転換期を迎えています。道路の老朽化が深刻な社会問題となるなか、点検や管理を効率的かつ効果的に行うことが、自治体や道路管理者にとって喫緊の課題です。
これまで、道路管理は路面性状調査車という専用車両を用いた手法が主流でした。しかし、予算や人員の削減が進む現代においては、全ての道路を路面性状調査車で点検し続けることは現実的ではありません。そこで、走行する一般車両から得られるビッグデータを活用した、新しい道路管理の形が注目されています。
本記事では、路面性状調査車の仕組みと課題を整理した上で、ビッグデータを用いた道路点検手法のメリットや活用事例を解説します。
目次
- 路面性状調査車の仕組みと役割
- 路面性状調査車による道路管理
- 3大計測項目
- ひび割れ
- わだち掘れ
- 平坦性(IRI)
- 従来の路面性状調査車が抱える3つの課題
- 導入・運用コストが高い
- 調査頻度が限られる
- 解析に時間がかかる
- 道路インフラ管理の現状
- 一斉寿命の到来
- 労働力不足の深刻化
- ビッグデータ活用で変わる道路管理の未来
- 「点」の調査から「面」のモニタリングへ
- 予防保全への移行
- 客観的なデータに基づく意思決定の迅速化
- Honda Drive Data Serviceの強み
- 一般車両の走行データを活用
- リアルタイムに近いデータ収集が可能
- 定期的な観測により経年劣化を予測
- 【活用事例】米国オハイオ州運輸局
- まとめ
路面性状調査車の仕組みと役割
路面性状調査車は、走行しながら高速道路や一般道路の損傷状況を客観的な数値として測定・記録できる特殊車両です。車体に搭載された高精度カメラやレーザースキャナを駆使して、路面の凹凸や亀裂などの詳細情報を収集します。
また、近年ではAI技術を用いた解析により、画像判断を自動化し、損傷部分の特定や劣化レベルの判定をより迅速かつ高精度に行うことが可能です。こうして得られたビッグデータは、舗装の補修計画を策定するための重要な情報として活用されています。
路面性状調査車による道路管理
かつての路面性状調査は、人が実際に道路を歩き、目視でひび割れを確認したり、定規で凹みを測ったりする人海戦術が一般的でした。しかし、人手による点検は手間がかかるだけでなく、大規模な交通規制の必要性や、走行車両の傍らで作業する調査員の安全確保といった課題を抱えていました。
このような背景から、1980年代に路面性状調査車の開発・導入されました。これにより、交通の流れを妨げずに路面の詳細なデータを取得できるようになったことで、調査の効率と安全性が大きく向上しました。現在では、道路の健全性を支える基盤技術として広く活用されています。
3大計測項目
※出典:写真AC
※出典:Canva
路面性状調査車では、おもに「ひび割れ」「わだち掘れ」「平坦性(IRI)」の3つの要素を測定します。これらは、道路の劣化状態を把握し、補修の緊急度を判断するための重要な指標です。
ひび割れ
車両後部からレーザーを照射し、路面の表面に発生したひび割れを自動で識別・測定します。撮影した画像からひび割れ率(単位面積あたりに占めるひび割れの割合)を算出することで、損傷レベルの推定が可能です。
ひび割れを放置すると、雨水が浸透してアスファルトの内部が脆くなり、ポットホールと呼ばれる陥没を引き起こす恐れがあります。タイヤのパンクや事故を未然に防ぐためにも、定期的な路面状況の把握と維持管理が不可欠です。
わだち掘れ
わだち掘れとは、自動車のタイヤが通る位置に沿って、道路が荷重により凹む現象です。路面性状調査車に搭載されたレーザーを用いて凹みの深さを計測し、数値化することで、路面の変形状態を正確に把握できます。
わだち掘れが進行すると、雨天時に水がたまりやすくなり、高速走行中の車両が浮き上がるハイドロプレーニング現象によるスリップ事故につながりかねません。また、ハンドルを取られやすくなるなど、走行の安全性にも大きく影響します。
平坦性(IRI)
平坦性(IRI:International Roughness Index、国際ラフネス指数)とは、車両の乗り心地に影響する縦断的な凸凹の度合いです。平坦性が高いほど走行はスムーズになり、低いと揺れや騒音の原因となります。
路面性状調査車では、レーザーと加速度計を組み合わせたプロファイラを用いて、走行中の路面の起伏を精密に捉えることが可能です。この測定データに基づき、世界共通の評価指標であるIRI(国際ラフネス指数)を算出します。
平坦性が損なわれると、走行車両への衝撃が増大し、乗り心地の悪化や騒音・振動による沿道環境への悪影響を及ぼします。また、車両の摩耗や燃費の低下、積載物の損傷を招くリスクも無視できません。
従来の路面性状調査車が抱える3つの課題
長年にわたり、路面性状調査車は道路管理における高精度なデータ収集に貢献してきました。しかし、社会インフラの老朽化が加速する現在、コストや運用面においていくつかの構造的な課題を抱えています。
導入・運用コストが高い
路面性状調査車は、高精度のカメラやレーザー、GPSなどを搭載した高価な特殊車両です。導入費用だけでなく、専門技術者の確保や精密機器のメンテナンスにも多額のコストを要します。
こうした負担が、予算の限られた地方自治体や企業にとって、調査範囲を広げる上での大きな障壁となっています。
調査頻度が限られる
手間やコストの負担により、多くの自治体では主要な幹線道路であっても、3〜5年に1回の点検が限界です。数年に一度の頻度では、路面の急激な変化をタイムリーに捉えることは難しいでしょう。その結果、次回の調査までに損傷が進み、修繕費用が増加するケースもあります。
解析に時間がかかる
取得した膨大なデータを補修計画に活用できる形へ加工するには、高度な解析技術や専門家による確認が必要です。複雑なプロセスゆえに、調査を実施してから最終的な結果が手元へ届くまでに、数か月を要することも珍しくありません。
データが届くころには路面状況が悪化しているケースも多く、現場の今の状態に即した判断を下しにくくなる点が大きな課題です。
道路インフラ管理の現状
道路管理の変革が急がれる背景には、インフラの老朽化と社会構造の変化がおもな要因として挙げられます。従来の路面性状調査車を主体とした管理体制が、なぜ限界を迎えつつあるといわれるのか、詳しく解説します。
一斉寿命の到来
日本の道路インフラの多くは、1960年代の高度経済成長期に集中整備されました。国土交通省のデータによると、建設から50年以上が経過する道路橋の割合は、2023年時点の約37%から、2030年には約54%、2040年には約75%(※1)に達する見込みです。
このように老朽化が一斉に進行するなか、全ての道路を従来どおりの手法で維持し続けることは容易ではありません。増大する修繕費を抑制しつつ、限られた予算で安全性を確保するには、客観的データに基づく補修の優先順位付けが急務です。
(※1)参考:インフラメンテナンス情報 社会資本の老朽化の現状と将来|国土交通省
労働力不足の深刻化
少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少により、道路の点検・維持管理を担う専門技術者の不足が深刻化しています。従来の人手による点検や路面性状調査車では、広大な道路ネットワークを支え続けられなくなりかねません。
また、ベテラン技術者の退職により、長年培われた保全ノウハウの継承が難しくなっている点も大きな課題です。こうした背景から、AIやデジタル技術を活用した効率的な点検体制の確立が、持続可能な道路インフラ管理を維持する上で不可欠となっています。
ビッグデータ活用で変わる道路管理の未来
従来の道路管理の課題を、デジタル技術で根本から解決するアプローチがビッグデータ活用です。現在、国土交通省を中心に、新技術を活用したインフラメンテナンスの効率化が推進されています。
路面性状調査車を一度走らせるのではなく、日々走行する何万台もの車をセンサーとして活用することで、道路管理のあり方は大きく変化します。
「点」の調査から「面」のモニタリングへ
これまでの路面性状調査車による点検は、特定の日に特定の道路を計測する「点」の調査にとどまり、ルート外の道路や調査間の空白期間の把握が困難でした。
一方、ビッグデータを活用した道路管理では、一般車両が通る全路線が調査対象であり、これまで点検の手が届きにくかった狭い生活道路や通学路もカバーできます。また、データは日常の走行を通じて更新され続けるため、現場の最新状況をデジタル上で常に確認できる点もメリットです。
これにより、断続的な調査から脱却し、道路ネットワーク全体を常時監視する「面」のモニタリングへと進化します。
予防保全への移行
道路管理のコストを抑えるためには、致命的な損傷が生じる前の対応が不可欠です。従来の壊れてから直す「事後対応」ではなく、損傷が軽微なうちに修繕を行う「予防保全」へのシフトが求められています。
走行ビッグデータを活用し、微細な揺れから路面の劣化予兆を検知することで、大規模工事を回避しつつインフラ寿命を延ばせます。ひび割れやポットホールなどが巨大化する前に補修へつなげることは、市民の安全性を守る上でも重要です。
客観的なデータに基づく意思決定の迅速化
従来の道路管理には、技術者の経験や勘、あるいは市民からの通報に頼る側面がありました。ビッグデータの活用は、こうした意思決定のプロセスを、客観的な数値に基づくものへと変革します。路線の劣化状況をマップ上で可視化し、データに基づいて補修の優先順位や予算配分を最適化することが可能です。
また、従来の調査車のように数か月の解析を待つ必要がなく、現状を即座に把握できるため、異常発見から補修までのリードタイムの短縮が期待されています。
Honda Drive Data Serviceの強み
従来の道路点検が抱えていたコスト・頻度・網羅性の壁を打ち破るソリューションが、Hondaの提供する「Honda Drive Data Service(以下、HDDS)」です。国内外のHonda車からのプローブデータを活用する、HDDS独自の強みを紹介します。
一般車両の走行データを活用
HDDSの大きな特徴は、高価な路面性状調査車ではなく、一般のHonda車から集まる走行データ(プローブデータ)を活用する点です。車載センサーが道路上の局所的な突起や舗装状態の悪い道路に反応し、その挙動をデータとして抽出・分析します。
日常の走行がそのまま点検データになる仕組みにより、これまで予算や人員の都合で難しかった生活道路や山間部を含む全路線のモニタリングを低コストで実施可能です。1日5,000万kmを超える膨大なデータが網羅性を担保し、精度の高い道路管理を支えます。
リアルタイムに近いデータ収集が可能
車両から送信される挙動データはクラウド上で迅速に処理されるため、路面の状態をほぼリアルタイムで把握できます。大雨や災害の直後に発生したポットホールやひび割れ、急激な段差もいち早く検出可能です。
こうした情報の鮮度は、道路の異常が大きな事故につながるリスクを抑え、現場での迅速な対応を支援します。
定期的な観測により経年劣化を予測
継続的なデータの蓄積により、各路線の劣化スピードを正確に可視化できます。「いつ・どの程度路面が悪化するか」を予測し、修繕に適したタイミングを導き出すシミュレーションが可能です。
場当たり的な補修による予算の圧迫を防ぎ、中長期的な視点での計画的な財政運用と、ライフサイクルコスト(LCC)の最適化に貢献します。
【活用事例】米国オハイオ州運輸局
米国オハイオ州運輸局(ODOT)はHondaと提携し、一般車両のGセンサー(加速度センサー)などから得られる走行データを活用して、路面状況を地図上に可視化する実証実験を開始しました(※2)。
老朽化が進む米国の道路管理を効率化するため、ポットホールなどの損傷を早期に特定し、補修の優先順位を明確化します。
これにより、目視検査の負担軽減と補修コストの削減を図り、データに基づく予防保全型のスマートな道路管理の実現を目指しています。
(※2)参考:活用実績|オハイオ州
まとめ
日本の多くの道路インフラが寿命期に差し掛かるなか、従来の路面性状調査車による点検のみでは、コストや頻度に限界があります。持続可能な道路管理を実現するには、ビッグデータの活用が不可欠といえるでしょう。
「Honda Drive Data Service(HDDS)」は、膨大な走行データから道路の「今」を可視化し、効率的な道路管理をサポートします。予算不足や事後対応の管理体制に課題をお持ちであれば、ぜひお気軽にご相談ください。
このコラムの執筆者

- 増田真吾
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自動車ライター
自動車整備士・自動車検査員- 国産車ディーラー、ガソリンスタンド、車検工場で約15年間整備士として勤務
- 国内最大手の中古車買取販売会社本部にて保証判定部署に転職し、保証認否および提携工場からの技術相談業務に従事
- 40歳手前で自動車関連記事の執筆を開始しフリーランスとして独立
- 2022年に自動車関連企業やサービスをきっかけとして、WEB制作やSNS支援、YouTube制作を行う「株式会社グラフィカ・ワン」を設立
- 現在は複数のライターと主にチームとして記事執筆担当
- 大手カー用品店、レーシングチーム、eモータースポーツなど様々なプロジェクトに参画中