国土交通省はプローブデータをどう活用している?ETC2.0と民間データ活用の全体像と課題を解説
国土交通省は、道路交通の現状把握や施策評価を高度化するために、プローブデータの活用を強力に推進しています。少子高齢化や物流の停滞、頻発する自然災害といった複雑な課題に対応するには、従来の定点観測だけでは限界があるためです。
実際の走行履歴に基づいて「今起きている交通」を詳細に捉えられるプローブデータは、これからの道路政策において欠かせない基盤となっています。本記事では、国土交通省におけるプローブデータの位置づけや活用事例、さらにはETC2.0と民間データの使い分けや今後の課題について解説します。
目次
- 国土交通省がプローブデータを活用する背景
- 交通課題の高度化・複雑化
- データ活用を前提とした政策設計への転換
- 国土交通省が活用しているおもなプローブデータ
- ETC2.0プローブデータ
- 民間事業者が提供するプローブデータ
- 国土交通省のプローブデータ活用事例
- 渋滞対策・交通マネジメント
- 物流の生産性向上
- 危険箇所の交通安全対策
- 災害時の交通マネジメント
- 国土交通省が懸念するプローブデータの課題
- 情報の鮮度不足が分析精度の低下につながる可能性がある
- データ量や車種構成の偏りが判断の信頼性を左右する
- 生活道路や市町村道の実態を捉えきれない場合がある
- 起終点や滞在行動を十分に把握できない場合がある
- 官民でデータ仕様が異なり、横断的な活用が難しい
- まとめ
国土交通省がプローブデータを活用する背景
※出典:フキダシデザイン
※出典:icooon mono
※出典:PIXTA
プローブデータとは、自動車やスマートフォンなどの端末をセンサーとして捉え、その移動履歴(位置、時刻、速度など)を収集・分析することで交通状況を把握するためのデータです。
国土交通省がこのデータを重要視する背景には、交通課題の複雑化と、客観的な根拠に基づく政策立案への転換という、大きく2つの要因があります。
交通課題の高度化・複雑化
近年、日本国内では少子高齢化や人口減少が進む一方で、インフラの老朽化対策や激甚化する災害への対応など、道路行政を取り巻く課題は深刻さを増しています。
かつてのように、道路を新設するだけでは解決できない「賢い使いこなし」が求められるなかで、以下のような課題が顕在化しています。
- 特定の時間や場所に集中する慢性的な渋滞
- 物流ドライバー不足に対応するための輸送効率化
- 局地的な豪雨や地震による、広域かつ同時多発的な通行止め
こうした課題に対し、数年に一度の「道路交通センサス」や、特定地点に設置された「トラフィックカウンター(常時観測局)」だけの情報では、日々刻々と変化する交通状況や、道路ネットワーク全体の流れを把握することが困難になってきました。そのため、面的かつ連続的に状況を把握できるプローブデータへのニーズが高まっています。
データ活用を前提とした政策設計への転換
限られた予算と人員で最大の効果を生むため、行政全体でEBPM(証拠に基づく政策立案)への移行が進んでいます。これは、経験や勘に頼るのではなく、客観的なデータに基づいて施策を決定し、その効果を数値で検証する考え方です。
プローブデータは、施策実施前の現状分析だけでなく、実施後の「速度向上」「渋滞長の減少」「急ブレーキ多発地点の減少」といった変化を定量的に測定することに適しています。国土交通省は、官民のデータを組み合わせた共通基盤づくりを進め、データに基づくPDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)を回す体制を強化しています。
国土交通省が活用しているおもなプローブデータ
国土交通省が活用しているプローブデータは、大きく分けて国が主導して整備した「ETC2.0」と、民間企業が収集する「民間プローブデータ」の2種類があります。それぞれの特性を理解し、目的に応じて使い分けたり組み合わせたりすることが一般的です。
ETC2.0プローブデータ
ETC2.0は、従来の料金決済機能に加え、車両の走行経路や挙動履歴といった情報を路側機との通信で収集・提供するシステムです。国土交通省がITS(高度道路交通システム)の柱として普及を進めてきた経緯があり、行政施策での活用頻度が高いデータといえます。
取得できるデータには、走行位置、時刻、速度のほか、急ブレーキや急ハンドルの履歴、利用インターチェンジの区間情報などが含まれます。おもな特徴は以下の通りです。
- 高速道路や直轄国道などの主要幹線道路に路側機が多く設置されている
- 物流車両や事業用車両の装着率が高く、物流分析に強い
- 国が仕様を定めているため、データの信頼性や継続性が公的に担保されている(※1)
(※1)参考:「ETC2.0 プローブデータのオープン化に向け試行します」|国土交通省
民間事業者が提供するプローブデータ
※出典:Canva
民間プローブデータは、自動車メーカーのテレマティクスサービス、カーナビゲーションシステム、スマートフォンのアプリなどを通じて収集される移動履歴データです。
ETC2.0の路側機が整備されていない市町村道や生活道路のデータも取得できる点が大きな強みです。また、GPSを利用して常時通信を行うタイプが多く、データの更新頻度や即時性に優れている傾向があります。
国土交通省では、ETC2.0だけではカバーしきれない災害時の通行実績把握や、観光地での回遊分析などにおいて、民間データを積極的に採用しています。
国土交通省のプローブデータ活用事例
国土交通省では、プローブデータをどのように業務に活用しているのでしょうか。ここでは、代表的な4つの領域での活用事例を解説します。
渋滞対策・交通マネジメント
プローブデータから得られる「旅行速度」や「走行軌跡」を活用し、渋滞の発生箇所と原因をピンポイントで特定しています。たとえば、上り坂の手前で速度が低下する「サグ部」や、トンネルの入り口など、構造的な要因で渋滞が発生している箇所を特定し、付加車線の設置やLED標識による速度回復誘導などの対策を実施しています。
また、対策実施後に再びプローブデータを分析し、「通過時間が何分短縮されたか」「定時性がどれくらい向上したか(時間信頼性)」を評価することで、施策の有効性を証明しています(※2)。
(※2)参考:「高速道路における交通集中箇所のピンポイント渋滞対策」| 国土交通省
物流の生産性向上
物流危機が危ぶまれるなか、トラックの運行実態を把握するためにETC2.0などのデータが活用されています。具体的には、出発地から目的地までの所要時間や、サービスエリア・パーキングエリア、物流施設などでの滞在時間を分析しています。これにより、長時間労働の原因となる「荷待ち時間」の実態把握や、バイパス整備による輸送ルートの転換効果(ストック効果)の検証が行われています(※3)。
(※3)参考:「物流の生産性向上」| 国土交通省
危険箇所の交通安全対策
交通事故を未然に防ぐため、急ブレーキの発生データを地図上にプロットし、事故のリスクが高い「潜在的な危険箇所」を抽出する取り組みが進められています。過去の事故データだけでは見えてこなかった、事故は起きていないが危険な場所(ヒヤリハット地点)を特定できるため、カラー舗装による注意喚起や、交差点改良などの先手を打った対策が可能になります。
災害時の交通マネジメント
地震や豪雨などの大規模災害時には、プローブデータが「通れる道」の判断材料として活用されます。災害発生直後、現地からの報告を待たずとも、車両が通行した実績(プローブデータ)があれば、その道路は通行可能であると推測できます。
国土交通省は、ETC2.0や民間のプローブデータを集約し、「通れるマップ」として公開したり、緊急車両や支援物資輸送車両のルート選定に活用したりしています。
国土交通省が懸念するプローブデータの課題
プローブデータは万能ではなく、その特性を理解せずに利用すると、実態と異なる判断を下すリスクがあります。国土交通省も、審議会などの資料においてデータの課題や限界を整理しています。実務でデータを利用する際は、以下の点に注意が必要です。
情報の鮮度不足が分析精度の低下につながる可能性がある
特にETC2.0において指摘される課題ですが、データがセンターに送信されるタイミングは、おもに路側機(通信アンテナ)の下を通過したときです。路側機がない区間を走行中のデータは、次に通信スポットを通るまで蓄積されるため、リアルタイムな状況把握にはタイムラグが生じることがあります。
突発的な事故や急激な気象変化など、即時性が求められる場面では、通信頻度の高い民間データやほかのセンサー情報との併用が求められます。
データ量や車種構成の偏りが判断の信頼性を左右する
プローブデータの母集団(サンプル)が、実際の交通量全体を正しく代表しているとは限りません。ETC2.0の場合、装着率は物流トラックやバスなどの大型車が高く、一般の乗用車や軽自動車の比率は相対的に低い傾向があります。そのため、ETC2.0データだけで分析すると、大型車の挙動に引っ張られた結果になる可能性があります。
また、民間データであっても、特定のメーカーやアプリ利用者に偏りがないかを確認する必要があります。
生活道路や市町村道の実態を捉えきれない場合がある
高速道路や直轄国道ではETC2.0の路側機整備が進んでいますが、地方自治体が管理する生活道路や市町村道には設置されていない箇所が多くあります。
路側機による通信に依存する仕組みの場合、こうした細街路のデータは取得されにくく、また取得できても吸い上げるタイミングが遅れる課題があります。通学路の安全対策や生活道路の抜け道対策を行う場合は、GPSを活用した広範囲な民間データの方が適しているケースがあります。
起終点や滞在行動を十分に把握できない場合がある
流動解析において重要な「どこから来て、どこへ行ったか」や「どこに立ち寄ったか」という情報の精度も課題の1つです。
車両のエンジンを切るとデータが途切れる仕様や、プライバシー保護の観点から詳細な地点情報を丸めて処理する場合があるため、観光地での周遊行動や、施設への立ち寄り時間を正確に分析するには、データ仕様の確認が不可欠です。
官民でデータ仕様が異なり、横断的な活用が難しい
ETC2.0と民間プローブデータ、あるいは異なる民間事業者間では、データの収集形式、提供単位、精度の基準がバラバラです。これらを統合して分析しようとすると、データの加工や突き合わせに膨大な手間がかかります。
国土交通省では、こうした官民データの連携をスムーズにするための共通基盤の構築や仕様の標準化に向けた検討を続けています。
まとめ
国土交通省は、道路行政の高度化に向け、ETC2.0や民間プローブデータを積極的に活用しています。渋滞対策、物流効率化、交通安全、災害対応など、その用途は多岐にわたり、従来の調査手法では難しかった「動的な交通実態」の把握が可能になりました。
一方で、実務でプローブデータを活用する際には、データの鮮度、車種の偏り、カバーエリア、仕様の不統一といった課題があることも理解しておく必要があります。行政や自治体の施策、あるいはコンサルティング業務において、信頼性の高い分析を行うためには、これらの課題をクリアした質の高いデータ基盤を選ぶことが重要です。
こうした要件を満たすプローブデータが、近年活用が進んでいる「Honda Drive Data Service(HDDS)」です。HDDSは、日本全国を走行するHonda車のデータをもとに、以下の特徴を備えています。
- 特定の車種に偏らないHonda一般乗用車で豊富な母数を確保
- GPSと車載センサーを組み合わせ、道路単位での高精度な挙動分析が可能
- 急ブレーキ多発地点や生活道路の通行実態など、きめ細かな分析に対応
- 統計処理されたデータにより、プライバシーに配慮しながら安全に利用可能
「国土交通省の活用基準に沿った、信頼できるデータがほしい」「地域の交通実態をより正確に把握したい」とお考えの担当者は、ぜひHDDSの活用をご検討ください。
このコラムの執筆者

- 佐藤耕一
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自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT業界に転じて自動車メーカー向けビジネス開発に従事。のちライターとして独立。自動車メディアとIT業界での経験を活かし、SDV・EV関連動向を中心に取材・執筆・動画制作・レポート/コンサル活動を行う。日本自動車ジャーナリスト協会会員。
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