交通・防災に活きるプローブデータ活用|取得方法・活用例・課題を整理
プローブデータは、車の動きから交通の実態を読み解くための重要なデータです。交通量の調査から防災計画の策定に至るまで、さまざまな業務の基盤として活用されています。本記事では、プローブデータの基本的な仕組みや取得方法、さらに具体的な活用事例と運用上の課題について詳しく解説します。
目次
- プローブデータとは
- プローブデータで取得できる情報
- プローブデータとETC2.0の違い
- プローブデータの取得方法
- カーナビ由来
- ETC/ETC2.0由来
- スマートフォン(GPSなど)由来
- ドラレコ/デジタコ/衝突防止補助装置など
- プローブデータの活用例
- 道路整備の効果を測る
- 交通安全対策を実施する
- 観光地の渋滞を緩和する
- 災害時の交通をマネジメントする
- ユーザーに合わせて安全対策を最適化する
- プローブデータの活用における課題
- データ量の確保が必要
- 精度と鮮度が求められる
- プライバシー・個人情報に配慮する
- まとめ
プローブデータとは
プローブデータとは、走行する車両自体を移動するセンサー(プローブ)と捉え、そこから収集される位置や速度などの情報を集約したデータのことです。実際に道路を走った車の軌跡をもとにしているため、交通状況を面的かつ高精度に把握できるのが最大の強みです。
これまでの交通調査は、特定の交差点に人を配置して台数を数えたり、道路にセンサーを埋め込んだりする定点観測が主流でした。しかし、プローブデータを活用することで、車がどこから来てどこへ向かったのかという連続的な動きを捉えられるようになります。
現在では、渋滞の緩和や交通事故の削減、災害時のルート確保など、社会インフラを支える多様な分野で不可欠なデータとして扱われています(※1)。
(※1)参考:もっと知りたい、愛知のITS(アイティーエス)プローブ情報|愛知県ITS推進協議会
プローブデータで取得できる情報
※出典:フキダシデザイン
※出典:icooon mono
※出典:PIXTA
プローブデータから得られる基礎的な情報は、車がいつ、どこを、どれくらいの速度で走ったかという日時、位置、速度の記録です。これらのデータを蓄積して解析することで、特定の道路を通過した車両の数や、時間帯ごとの通行の集中度合いといった詳細な履歴を把握できます。
さらに、データを取得するデバイスによっては、ドライバーの運転挙動まで可視化することが可能です。たとえば、急ブレーキなどの急減速や急ハンドルといった危険な操作の発生箇所、車線逸脱警報などの安全装置が作動した記録も取得できます。
単なる位置情報にとどまらず、交通の安全性や流動性を多角的に分析できるのがプローブデータの特徴です。
プローブデータとETC2.0の違い
交通データを検討する際、プローブデータとETC2.0は何が違うのかと疑問を持つ人は少なくありません。結論から言えば、ETC2.0はプローブデータを収集するための手段の1つという位置づけになります。
ETC2.0は、全国の高速道路や一部の一般道に設置された路側機と車載器が通信を行うことで、データを収集する仕組みです。公的な機関が主導して整備しているため、政策評価や公共事業の分析において信頼性が高く、実務で活用しやすいという利点があります。
一方で、ETC2.0は路側機が設置されていない生活道路などのデータは取得しにくいという側面を持ちます。広域なエリアや細い道まで網羅したい場合は、後述するカーナビやスマートフォンなど、他の手段から得られたプローブデータを利用することが効果的です(※2)。
(※2)参考:「車と道路の双方向通信による多彩なETC2.0サービス」|国土交通省
プローブデータの取得方法
プローブデータは、車に搭載された機器やドライバーが持つ通信端末など、複数のルートから収集されています。どの方法で集められたデータを利用するかによって、情報の精度やカバーできる範囲、さらには取得できる項目の種類が大きく変わります。
実務において質の高い分析を行うためには、ひとつのデータソースに依存するのではなく、それぞれの特性を理解して使い分けることが重要です。ここでは、代表的な4つの取得方法について詳しく解説します。
カーナビ由来
車載のカーナビゲーションシステムを通じて収集されるデータは、プローブデータのなかでも代表的な存在です。
走行位置や経路、所要時間などの情報が、道路ネットワークの地図情報と紐づいた形で整理されやすいという特徴があります。そのため、特定の区間で発生する渋滞の傾向を分析したり、出発地から目的地までの正確な旅行時間を算出したりする用途に適しています。道路を新しく整備した前後の交通変化を比較検証する際にも、強力な根拠データとして機能します。
ただし、カーナビのメーカーや利用されている通信サービスによって、データの送信間隔や搭載している車両の層に違いが出ることがあります。分析の際は、データごとの特性を考慮して扱うことが求められます。
ETC/ETC2.0由来
ETCやETC2.0の車載器から得られるデータは、道路側に設置されたアンテナ(路側機)との通信によって収集されます。おもに国土交通省などの公的機関が道路管理を目的に活用しており、公共事業での活用実績が豊富にある信頼性の高いデータです。
従来は路側機のある場所でしかデータを取得できない点がネックでしたが、近年は持ち運びが可能なETC2.0可搬型路側機の導入も進んでいます。これにより、臨時の交通調査や、路側機が未整備の生活道路における安全対策の検討など、データ取得の範囲が大きく広がりました。
災害時にどの道路が通行可能だったかという実績の把握など、社会的な課題解決にも直結する重要なデータソースとなっています(※3)。
(※3)参考:「全国初のETC2.0可搬型路側機を鎌倉に設置します 」|国土交通省
スマートフォン(GPSなど)由来
スマートフォンの位置情報を活用し、移動の軌跡から自動車での移動を推定してプローブデータとして扱う手法です。専用の車載器を必要とせず、普及率の高さを背景に、広範囲のエリアを網羅できるのが強みです。
大規模なイベントが開催された際の一時的な交通集中や、観光地周辺での広域な混雑傾向を把握したい場合に力を発揮します。また、特定の人や車両に限らず、面的な広がりを持って地域全体の傾向を捉えたい調査に向いています。
一方で、屋内やトンネル内などGPSの電波が届きにくい場所では位置誤差が生じやすく、データ取得タイミングが一定でないため、ピンポイントでの精緻な速度分析などには不向きな場合があります。
ドラレコ/デジタコ/衝突防止補助装置など
ドライブレコーダーや、事業用車両に搭載されるデジタルタコグラフ(運行記録計)などから得られるデータは、運転の挙動を詳細に把握できるのが特徴です。単なる位置情報だけでなく、急ブレーキや急ハンドルといった事故の前兆となるような危険な動きを捉えやすい利点があります。
このデータは、交通事故が実際に起きる前に潜在的な危険箇所を洗い出し、先回りして安全対策を検討するための貴重な材料となります。道路の構造に問題があるのか、それとも見通しの悪さが原因なのかといった深い考察が可能です。
留意点としては、物流トラックやタクシーなど特定の業務用車両のデータに偏りやすいことが挙げられます。分析の際には対象エリアや母集団の設計に気を配り、結果の精度を高める工夫が必要です。
プローブデータの活用例
プローブデータは、単に数値を眺めるだけでなく現状を可視化し、課題を見つけて施策を実行し、その効果を検証するという一連の流れのなかで使われます。建設コンサルタントや自治体の現場では、すでに多くのプロジェクトで不可欠なツールとして定着しています。
目的に応じて、所要時間の変化を見るべきか、危険挙動の回数を見るべきかなど、重視すべき指標が変わります。ここでは、具体的な5つの活用シーンを取り上げ、実務でどのように役立てられているのかを解説します(※4・※5)。
(※4)参考:「地域における道路交通データの活用事例」|国土交通省
(※5)参考:「プローブデータの交通安全対策への活用について」|国土交通省
道路整備の効果を測る
新しい道路の開通や交差点の改良といった道路整備を行った際、その効果を定量的に測るためにプローブデータが用いられます。整備の前後で、対象区間の通過にかかる所要時間がどれだけ短縮されたかを正確に比較検証することが可能です。さらに、同じ区間であっても日によって到着時間がどの程度変わるかという点に着目し、交通の安定性を評価することもできます。
不安定な道路が整備によっていつでも同じ時間で通過できるようになれば、物流などの業務車両の到着時間が予測しやすくなり、計画が立てやすくなるというメリットが生じます。
交通安全対策を実施する
※出典:icooon mono
従来の安全対策は、実際に事故が起きた場所を起点に対策を講じることが一般的でした。しかし、プローブデータを活用すれば、急減速や急ハンドルが多発しているリスクの高い潜在的な危険箇所を事前に把握することができます。
これにより、速度超過が多発する地点に優先的に路面標示を設置するなど、事故を未然に防ぐための候補箇所を的確に抽出することが可能です。対策を実施した後も、同じ指標を用いて急減速の回数が減ったかどうかを確認することで、施策の効果を定量的かつ客観的に検証できます。
観光地の渋滞を緩和する
観光シーズンや特定の休日に発生する激しい渋滞の緩和にも、プローブデータが活躍します。いつ、どのルートに、どれだけの車が集中しているのかをデータで把握し、混雑の分散を促すための施策へとつなげることが可能です。またリアルタイムの所要時間や混雑状況をもとに、ドライバーへ情報提供を行ったり、適切な迂回ルートへの誘導を実施したりすることも考えられます。
観光を目的とした車と、単にその地域を通過するだけの車を切り分けて考えることで、対策の精度をより高めることが可能です。
災害時の交通をマネジメントする
地震や豪雨などの大規模災害が発生した際、道路の寸断状況を素早く把握することは重要です。プローブデータを活用することで、通行止めの情報だけでは見えにくい実際に車が走れた実績を可視化し、災害時の重要な判断材料を増やすことができます。
人命救助や緊急物資の輸送など、災害のフェーズごとに必要となる交通動線を整理する際に大いに役立ちます。また、渋滞や通行集中の兆候をいち早く捉えることで、優先ルートの設定や迂回誘導の検討にも活用できます。
災害時には、民間の通行実績データを提供する協定が結ばれています(※6)。
(※6)参考:官民ビッグデータによる災害通行実績データシステムの運用を開始|国土交通省
ユーザーに合わせて安全対策を最適化する
道路を利用するドライバーの属性はさまざまであり、不慣れな道では危険な挙動が起きやすくなります。プローブデータを分析することで、観光客や外国人ドライバーなど、特定のユーザー層で急な挙動や道に迷うような動きが起きやすい地点を把握します。その結果をもとに、特定のユーザーがつまずきやすい交差点の手前に案内標識を設置するなど、道路上の表示方法を工夫します。
ドライバーの適切な行動変容を促すきめ細かい対策を行うことで、より安全な交通環境の構築に寄与します。
プローブデータの活用における課題
さまざまな分野でプローブデータの活用が進む一方で、実務上で注意すべき点も多く存在します。プローブデータは有用なツールですが、特性を理解せずに扱うと誤った分析結果を導いてしまうおそれがあります。
あらかじめ課題とそれに対する対応策を整理しておくことで、データの選定ミスや分析の失敗を防ぐことができます。ここでは、運用に向けて特に注意すべき3つの課題について整理します。
データ量の確保が必要
プローブデータは全ての車両から取得できるわけではなく、一部の車両のデータを利用するため、十分な母数を確保することが重要です。特に交通量の少ない地方の道路や深夜帯などでは、データが不足して分析結果が不安定になりやすいという課題があります。
そのため、分析の対象範囲を広げたり期間を長く設定したりして、必要なデータ量を確保する工夫が求められます。また、複数の異なるデータソースを組み合わせて利用することで、結果の安定性を高めることができる場合もあります。
精度と鮮度が求められる
プローブデータの価値は、その情報がどれだけ正確で新しいかに大きく左右されます。位置情報にずれがあると、誤った場所の交通状況を評価してしまい、分析の前提が崩れてしまう可能性があります。また、データの更新頻度が低いと、リアルタイムな状況把握が求められる運用目的の分析には使いにくくなります。
利用するデータの取得間隔や位置情報の補正方法などを事前にしっかりと確認し、用途に応じて過去の蓄積データと最新のデータを適切に使い分ける必要があります。
プライバシー・個人情報に配慮する
プローブデータは個人の位置や移動時間を扱うデータであるため、プライバシーへの十分な配慮が欠かせません。特定の個人が識別されないように、少数データの非表示化や、集計単位を調整するといった匿名化の対策が行われています。
そして、データを利用する際は、提供される形式や利用条件を事前に細かく確認する必要があります。個人情報に配慮し、誰もが不信感を持たずに安心して利用できる仕組みを整えることが、データの継続的な活用につながります。
まとめ
プローブデータは、車両の実際の走行記録にもとづいて交通の実態を正確に捉えることができるデータであり、渋滞対策や安全対策、防災など幅広い分野で活用できます。
一方で、データの取得方法やソースによって精度、網羅性、更新頻度が異なるため、それぞれの分析目的に応じた適切なデータ選定が重要となります。
また、実務にいかすためには、十分なデータ量と安定した品質を確保しつつ、プライバシーに配慮された安全な形で継続的に利用できる環境が求められます。
このような条件を満たすプローブデータ基盤として、Honda Drive Data Service(HDDS)が注目されています。
HDDSは、日本全国で蓄積された一般車両の走行データをもとに、人流や交通の変化を高精度に把握できるサービスです。プライバシーリスク低減の仕組みを備え、実務での活用が可能です。平時の交通分析から災害時の初動判断、施策後の効果検証まで、実務に耐えうる強固なデータ基盤として活用できる点がHDDSの強みです。
プローブデータを活用した交通状況の把握や業務改善をご検討の際は、ぜひ詳細な資料をご確認ください。
このコラムの執筆者

- 佐藤耕一
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自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT業界に転じて自動車メーカー向けビジネス開発に従事。のちライターとして独立。自動車メディアとIT業界での経験を活かし、SDV・EV関連動向を中心に取材・執筆・動画制作・レポート/コンサル活動を行う。日本自動車ジャーナリスト協会会員。
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